病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】在宅薬学総合体制加算の3つの見直しと薬局の対応策【完全ガイド】

令和8年度診療報酬改定では、在宅薬学総合体制加算が大きく見直されます。今後見込まれる在宅療養患者の増加に対応するため、薬局における在宅医療提供体制の整備を推進することが目的です。今回の改定で評価基準は、「設備の有無」から「現場での実動」へと大きくシフトします。本記事では、令和8年度診療報酬改定で行われた在宅薬学総合体制加算の3つの見直しポイントと、薬局が今すぐとるべき対応策を解説します。

なぜ今、在宅薬学総合体制加算が見直されるのか

今回の見直しは、前回改定で新設された加算制度の運用実態が背景にあります。届出薬局数は順調に増加した一方で、麻薬備蓄や調剤実績が乏しい薬局が多いという課題が浮き彫りになりました。

象徴的なデータが、無菌調剤設備の使用実績です。簡易型クリーンベンチを設置している薬局の84.6%で、1年間の使用実績がゼロでした。設備を保有していれば評価される現行制度が、実態と乖離していたわけです。

中医協ではこの課題を踏まえ、評価基準を整理してメリハリをつける必要性が議論されました。その結果、設備保有から業務実績へという「ハコからコトへ」のパラダイムシフトが、今回の改定に反映されています。

改定の全体像|旧基準と新基準の比較表

3つの見直しポイントを整理する前に、改定前後の変更点を一覧で確認します。

項目 現行(2024年) 改定後(2026年)
加算1の評価 15点 30点(倍増)
加算1の算定回数要件 年24回以上 年48回以上(倍増)
加算2の無菌設備保有 必須 廃止
加算2の実績要件 なし 訪問実績要件(必須)+3つの管理実績から1つ
加算2の薬剤師配置 2名以上 常勤換算3名以上(開局中2名常駐)
加算2のかかりつけ要件 年24回以上 廃止
加算2の評価区分 一律50点 単一建物1人:100点/複数:50点

この表からも、改定の方向性が明確に読み取れます。「設備や形式的な要件」が廃止され、「実際の業務実績」が新たな評価軸として据えられました。

見直しポイント1|加算1の評価が倍増、要件も倍増

在宅薬学総合体制加算1は、評価と要件の両方が「Double」となりました。

評価は15点から30点へ倍増しました。薬局の在宅医療への取り組みが、これまで以上に手厚く評価されます。

一方で、算定回数要件も年48回以上に強化されました。直近1年間の在宅患者訪問薬剤管理指導料等の合計回数が、現行の倍に引き上げられています。ただし、算定回数のカウントには重要な注意点があります。

カウントされる業務: - 自局での訪問業務 - 在宅協力薬局としての連携実績(同一グループ薬局を相手とするものを除く)

カウントされない業務: - 在宅協力薬局としての連携実績のうち、同一グループ薬局を相手とするもの - 情報通信機器(オンライン)を用いた業務

つまり、グループ内での実績回しや、オンラインでの対応は要件クリアにつながりません。純粋な連携と実訪問が求められる設計です。

見直しポイント2|加算2の施設基準が抜本刷新

在宅薬学総合体制加算2の施設基準は、4つの観点で抜本的に刷新されました。

廃止された2つの要件

無菌製剤処理設備の保有要件が廃止されました。無菌室やクリーンベンチ等の設備保有は、もはや必須ではありません。かかりつけ薬剤師に係る実績要件(年24回以上)も削除されました。施設基準の重点は、在宅業務の実績に集約されています。

新設された訪問実績要件

直近1年間における単一建物居住者1人への訪問合計回数で、以下のいずれかを満たす必要があります。

  • 240回以上 かつ 全体(在宅患者訪問薬剤管理指導料等の総合計)の2割超
  • 480回以上 かつ 全体(在宅患者訪問薬剤管理指導料等の総合計)の1割超

回数で勝負するか、割合で勝負するかを薬局のスタイルに応じて選べる設計です。なお、緊急訪問薬剤管理指導料および緊急時等共同指導料については、建物の人数を問わず全件がカウント対象となります。通常の訪問業務とは扱いが異なる点に注意してください。

新設された高度な薬学的管理の実績

訪問実績要件に加えて、以下の3つから1つを満たすこと(選択制)が求められます。

実績の種類 必要回数
麻薬管理指導加算等 10回以上
無菌製剤処理加算 1回以上
乳幼児加算+小児特定加算 合計6回以上

注目すべきは、無菌製剤処理が「設備保有」から「年1回以上の実績」に変わった点です。ハコを持っているだけでは評価されず、年1回でも実際に運用することが必要です。

強化された人員配置基準

薬剤師の配置は、単純な「2名以上」から常勤換算(FTE)3名以上に強化されました。原則として開局時間中は2名以上の常駐が求められます。これは、調剤応需と在宅患者の急変等への確実な緊急対応体制を確保するためです。

見直しポイント3|単独訪問の評価が100点に倍増

加算2の評価は、訪問形態に応じて2区分に分かれました。

単一建物診療患者が1人の場合:100点(現行50点から倍増)

個別訪問は移動時間や労力がかかり、患者個別の状況に合わせた密な管理が必要です。この労力が、新たに高く評価されます。

単一建物診療患者が複数の場合:50点(現行維持)

複数患者への効率的な訪問業務には、現行の評価が維持されました。

評価区分化により、薬局は「効率の良い施設訪問」と「手間のかかる個別在宅」のどちらにリソースを配分するか、戦略的な判断が必要になります。

薬局がとるべき3つの対応

ここまでが改定内容です。続いて、薬局が今すぐ着手すべき対応策を3つ提案します。

対応1|自局の「実績ポートフォリオ」を可視化する

まず、現状の業務実績を棚卸ししてください。麻薬管理指導加算、無菌製剤処理加算、乳幼児・小児特定加算の算定実績を、過去1年分集計します。

加算2を目指す場合、3つの実績要件のうちどれが最も達成しやすいかを判断することが第一歩です。たとえば、小児患者が多い薬局なら乳幼児・小児加算(6回以上)が現実的です。麻薬調剤の実績がある薬局なら麻薬管理指導加算(10回以上)が狙えます。

対応2|個別訪問へリソースをシフトする

評価が倍増した「単一建物1人」の単独訪問は、収益面で大きなインパクトを持ちます。施設訪問だけに偏らず、個別在宅患者の獲得へリソースを配分し直すことが重要です。

ケアマネジャーや訪問看護ステーション等との連携を強化し、個別の在宅依頼を受けられる体制を整えましょう。

対応3|常勤換算3名と常駐2名の体制を構築する

人員配置は単純な頭数では足りません。常勤換算(FTE)3名以上、かつ開局中は常時2名という体制が必須です。

採用計画の見直しと、急変時に動ける組織的なシフト管理が求められます。特に小規模薬局は、近隣薬局との連携や、人員配置の最適化を早期に検討すべきでしょう。

まとめ

令和8年度改定における在宅薬学総合体制加算の見直しは、「設備や形式的な要件」から「実際の業務実績」への大転換です。加算1は評価倍増と要件強化、加算2は施設基準の抜本刷新と評価区分化が行われました。

薬局には、実績の可視化、リソース配分の見直し、人員体制の構築という3つの対応が求められます。改定までの期間を有効に活用し、自局の体制を着実に整備することが、今後の在宅医療における競争力を左右します。


本記事の内容は、Podcastエピソードでも詳しく解説しています。音声での解説もぜひお聴きください。

在宅薬学総合体制加算2026年改定|3つの見直しポイントを徹底解説 - LISTEN