病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】入院時の食事療養に係る見直し|嚥下調整食の新評価と特別料金の柔軟化

令和8年度診療報酬改定では、入院時の食事療養の質の向上を図るため、食事療養に関する制度が見直されます。この見直しは、嚥下調整食を必要とする患者への対応と、入院患者の多様な食事ニーズへの対応を目的としています。本記事では、個別改定項目「Ⅰ-1 ③入院時の食事療養に係る見直し」の内容を解説します。

今回の改定では、主に3つの変更が行われます。第一に、嚥下調整食が特別食加算の対象として新たに追加されます。第二に、特別メニューの追加料金について1食あたり17円の標準額が削除され、医療機関が柔軟に金額を設定できるようになります。第三に、行事食やハラール食などの宗教配慮食も特別料金の対象として明確化されます。

入院時食事療養の改定の背景

今回の見直しの背景には、医療機関が抱える食事提供にかかるコスト負担と、制度と実態の乖離があります。

第1に、嚥下調整食は普通食よりも食材費や手間がかかり、1日あたりの食材費の差は最大76円に上るとの報告があるにもかかわらず、これまで加算の対象外でした。医療機関の持ち出しによる負担が生じていたのが実態です。

第2に、特別メニューの追加料金は1食あたり17円が標準とされていましたが、食材費や人件費の高騰が続く中、この金額では基本メニュー以外の選択肢を準備するための追加コストを賄えない状況が生じていました。

第3に、約8割の医療機関が行事食を、約2〜3割がハラール食などの宗教配慮食を追加料金なしで提供しており、患者のニーズに応えようとする現場の努力が経営を圧迫する実態がありました。

改定の3つの変更点と算定要件

今回の改定では、主に3つの変更が行われます。

嚥下調整食が特別食加算の対象に追加

第1に、嚥下調整食が特別食加算の対象として新たに追加されます。これまで特別食加算の対象は腎臓食や糖尿食などの「治療食」に限られていました。今回新設された算定要件では、嚥下調整食は「治療食」とは別の区分として整理され、「摂食・嚥下機能の低下への対応」として独立した位置づけを持ちます。

具体的には、摂食機能または嚥下機能が低下した患者に対して、医師の発行する食事箋に基づき提供された、適切な栄養量および内容を有する嚥下調整食が対象となります。

この評価には臨床エビデンスも後押ししています。適切な嚥下調整食の提供により、1日あたりエネルギー273.8kcal、たんぱく質12.4gの摂取量増加や、ADLの改善が認められたとの研究報告もあり、患者の栄養状態改善が期待されます。

特別メニューの標準額を削除し柔軟な料金設定が可能に

第2に、特別メニューの追加料金における標準額が削除されます。これまで基本メニュー以外のメニューを患者が選択した場合の追加料金は、1食あたり17円を標準として設定されていました。この標準額が撤廃されることで、今後は各医療機関が実際のコストに見合った「社会的に妥当な額」を自ら柔軟に設定できるようになります。

これにより、医療機関が創意工夫を凝らした質の高いメニューを提供しやすい環境が整備されます。

行事食・宗教配慮食を特別料金の対象として明確化

第3に、行事食や宗教配慮食が特別料金の対象として明確化されます。患者の自由な選択と同意に基づき、お正月のおせち料理などの行事食や、ハラール食などの宗教に配慮した食事を提供した場合も、特別の料金の支払いを受けることができるようになります。

これにより、特別な対応にかかるコストを適正に収受できる道が開かれます。

入院時食事療養の見直し:3つのポイントまとめ

令和8年度改定における入院時の食事療養の見直しは、嚥下調整食の適正な評価、特別メニューの料金設定の柔軟化、多様なニーズへの対応の明確化という3つの柱で構成されています。いずれも、入院時の食事療養の質の向上と、医療機関の健全な経営の両立を目指した改定です。医療機関には、患者のQOL向上に資する質の高い食事提供と、適正な価格設定を通じた持続可能な運用が求められます。

今回の改定内容を音声でも確認したい方は、以下もあわせてご活用ください。

【令和8年度改定】入院時の食事療養が変わる|嚥下調整食の新評価と特別料金の2つの見直し