令和8年度診療報酬改定では、乳幼児に対する訪問看護の質を確保し、受け入れ体制を後押しする観点から、乳幼児加算の評価水準が見直されます。本記事では、令和8年度診療報酬改定における乳幼児加算の見直し内容を、算定実務と経営の視点から整理して解説します。
特に、訪問看護ステーションの管理者・経営者の方が、施行日までに何を判断し、どう動くべきかが具体的にイメージできるよう、収益インパクトの試算や実務対応のチェックリストもあわせて掲載しました。
- 改定の背景
- 金額の変更点|100円増額と据え置きの構造
- 対象となる点数項目|3つの算定区分で統一適用
- 収益インパクトの試算|100円の増額が経営に与える意味
- 施行日までの実務対応チェックリスト
- まとめ
改定の背景
第1に、改定の背景には、乳幼児への訪問看護ニーズの急増と質の確保という課題があります。NICU(新生児集中治療室)等の医療技術の進歩により、退院後も日常的に医療的ケアを必要とする子どもたちは全国で2万人を超えると推計されています。
第2に、乳幼児加算の算定利用者数は令和元年の9,810人から令和5年には15,486人へと約1.6倍に増加しました。令和7年6月審査分の速報値では、算定利用者のうち「厚生労働大臣が定める者(超重症児等)」に該当する割合が42.0%、それ以外の層が58.0%となっています。状態に応じた質の高い訪問看護を提供できるよう、評価水準の見直しが求められていました。
金額の変更点|100円増額と据え置きの構造
第1の変更点は、6歳未満の乳幼児に対する「厚生労働大臣が定める者以外」への乳幼児加算が、1日1,300円から1,400円へ100円引き上げられることです。一方で、超重症児等の「厚生労働大臣が定める者」への評価1,800円は据え置きとなります。
| 区分 | 改定前 | 改定後 |
|---|---|---|
| 厚生労働大臣が定める者(超重症児等) | 1,800円 | 1,800円(据え置き) |
| 厚生労働大臣が定める者以外 | 1,300円 | 1,400円(+100円) |
これにより、重症度に応じた差額は500円から400円に縮小しつつ、全体の底上げが図られる構造となります。なお、「厚生労働大臣が定める者」とは、超重症児・準超重症児、別表第7に掲げる疾病等の者、別表第8に掲げる者の3類型を指します。
対象となる点数項目|3つの算定区分で統一適用
今回の見直しは、訪問看護に係る3つの点数項目に共通して適用されます。具体的には、訪問看護基本療養費・在宅患者訪問看護・指導料・同一建物居住者訪問看護・指導料の3区分です。医療機関から提供する場合でも、訪問看護ステーションからの提供と同一水準の加算が適用されるため、提供主体による点数の差違は生じません。
この「提供主体を問わない統一適用」は、病院・診療所の在宅医療部門にとっても収益面での影響が出る要素です。自院から訪問看護を提供している医療機関も、施行日に向けた準備が必要です。
収益インパクトの試算|100円の増額が経営に与える意味
100円という増額幅は、一見すると小さく感じられるかもしれません。しかし、算定利用者の58.0%という適用範囲を考えると、年間ベースでは無視できないインパクトとなります。
ここではあくまでモデルケースとして、簡易的な試算を示します。実際の影響額は、各ステーションの利用者数や訪問頻度によって大きく異なる点にご留意ください。
【モデルケース】6歳未満の乳幼児利用者を10名抱えるステーション
- うち増額対象(58%):約6名
- 1人あたり週3回の訪問と仮定:月12回・年間144回
- 1人あたり年間増収:100円 × 144回 = 14,400円
- 6名分の年間増収:14,400円 × 6名 = 約86,400円
| 試算項目 | 数値 |
|---|---|
| 6歳未満利用者数(仮定) | 10名 |
| うち増額対象(58%) | 約6名 |
| 1人あたり年間訪問回数(仮定) | 144回 |
| 1人あたり年間増収 | 14,400円 |
| 6名分の年間収益増 | 約86,400円 |
このモデルケースはあくまで目安です。実際には訪問頻度や利用者構成が個々のステーションで異なるため、自院の実績データをもとに試算することをおすすめします。「100円」の積み重ねが、乳幼児受け入れ体制の維持・拡充を支える原資になる構造です。
施行日までの実務対応チェックリスト
実務面で最も重要なのは、施行日までに準備を完了させることです。以下のチェックリストを参考に、抜け漏れなく対応を進めてください。
システム・事務対応(要対応)
- [ ] レセプト請求システムの単価設定を1,300円から1,400円へ更新
- [ ] 訪問看護記録のフォーマット内の金額表記を確認・修正
- [ ] 会計ソフトや収益管理シートの単価設定を更新
- [ ] 事務担当者・管理職への金額変更の周知
現場・看護運用(現状維持)
- [ ] 利用者区分の判定方法は従来どおり継続
- [ ] 別表第7・第8の該当確認フローは変更不要
- [ ] 令和6年度改定で導入した運用をそのまま維持
利用者区分の判定方法は改定前後で変更がないため、現場スタッフによる利用者対応の手順自体は変わりません。事務処理面での金額変更を確実にシステム反映することが、今回の改定対応の中心となります。
まとめ
令和8年度診療報酬改定における乳幼児加算の見直しは、全体の約6割を占める利用者層への評価を引き上げることで、乳幼児への訪問看護を広く支える実務的な改定です。重症度に応じたメリハリは維持しつつ、ベースラインを底上げする構造となっています。
訪問1回あたり100円の増額であっても、年間ベースでは小さくない収益増となり、受け入れ体制の維持・拡充に寄与することが期待されます。施行日に向けたシステムのアップデートを確実に行うことが求められます。
本記事の内容は、以下のLISTENエピソードでも詳しく解説しています。音声での解説もぜひお聴きください。