病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】残薬確認の算定要件化を現場目線で解説|電子処方箋とタスク・シフトの実務ポイント

令和8年度診療報酬改定で新設される「残薬確認」要件は、医療現場に何をもたらすのでしょうか。本記事では、制度の解説に留まらず、医療機関の管理者・実務担当者が「自院で何を準備すべきか」という視点で、3領域(外来・在宅・訪問看護)の改定内容を整理します。

なぜ今、残薬確認が算定要件化されたのか

残薬確認の算定要件化は、データだけでは捉えきれない「現場のリアル」を制度に組み込む試みといえます。

電子処方箋システムやオンライン資格確認の普及により、患者の処方履歴は技術的には一元管理が可能になりました。しかし、データ上の処方記録だけでは見えない事実があります。たとえば、PTPシートを開ける握力が衰えている、錠剤が大きくて飲み込めない、複数薬の管理が認知機能的に困難になっている、といった「服薬を阻む現場の壁」です。

こうした課題は、患家を訪れて初めて把握できる情報です。今回の改定は、デジタルデータ(電子処方箋)とアナログな現場情報(聴取・観察)を組み合わせる多職種連携の枠組みを、診療報酬上のインセンティブとして制度化したものといえます。

改定の全体像:3領域を貫く「横断的アプローチ」

今回の改定の特徴は、外来・在宅・訪問看護という性質の異なる3領域に、同じ思想を貫いた点にあります。

外来領域では、地域包括診療加算と地域包括診療料の算定要件として、残薬確認と適切な服薬管理が新たに追加されます。あわせて、処方薬を把握する手段として電子処方箋システムの活用が含まれることが明確化されました。

在宅領域では、在宅時医学総合管理料と施設入居時等医学総合管理料に、同様の要件が完全新設されます。現行では関連規定が存在しないため、ゼロからの追加対応となる点に注意が必要です。

訪問看護領域では、指定訪問看護の運営基準において、服薬状況(残薬を含む)の把握と、主治医・薬局への情報提供のあり方が明確化されました。

これにより、患家を中心に外来・在宅・訪問看護・薬局が情報共有する「面の管理」体制が、制度的に整備されることになります。

医療機関が押さえるべき3つの実務ポイント

ポイント1:聴取と判断のタスク・シフト体制を整える

外来・在宅領域の新要件では、看護職員等への業務分担(タスク・シフト)が明示的に認められています。

ただし、認められているのは「担当医の指示を受けた上での聴取(情報把握)」までです。残薬状況に基づく処方内容の調整や医学的判断は、担当医の責務として残ります

医療機関がまず整備すべきは、この役割分担を業務フローに落とし込むことです。具体的には、看護職員が患者・家族から聴取する際のヒアリングシート、医師へのエスカレーション基準、診療録への記載ルールの3点を事前に標準化しておくことで、診療現場の運用負荷を抑えられます。

ポイント2:電子処方箋システムの活用前提を固める

外来領域の改定では、電子処方箋システムが「処方薬を把握する手段」として明示的に位置付けられました。

ここで重要なのは、システム導入そのものではなく、運用への組み込み方です。電子処方箋で得られる客観的な処方情報と、聴取で得られる現場のリアル情報を、どう統合して服薬管理判断につなげるか。この運用設計が、今後の算定対応の質を左右します。

未導入の医療機関は導入準備、導入済みの医療機関は活用フローの再点検をお勧めします。

ポイント3:訪問看護を「情報ハブ」として位置付ける

訪問看護領域の改定では、把握した服薬状況の取扱いとして、2つの情報提供ルートが整理されました。

第1は、主治医への情報提供です。指定訪問看護の提供に当たり把握した利用者の心身の状況や服薬状況(残薬の状況を含む)に係る必要な情報の提供を主治医に対して行うことが求められます。

第2は、薬局への情報提供です。服薬状況については、必要に応じ、利用者の同意を得た上で、調剤を行う保険薬局に情報を提供することが望ましいと規定されました。

訪問看護師は、患家の生活環境・身体機能・服薬実態を最も近距離で把握できる職種です。ここで拾い上げた情報を薬局へ共有することで、薬剤師は一包化、剤形変更、用法調整といった具体的な処方提案を主治医に対して行いやすくなります。

訪問看護ステーションの管理者は、主治医への情報共有テンプレートの整備、薬局への情報提供にあたっての利用者からの同意取得フローの設計を、計画的に進めておくことが望ましいでしょう。

まとめ:「点の診療」から「面の管理」への転換

令和8年度改定における残薬対策の見直しは、単発の要件追加ではなく、外来・在宅・訪問看護・薬局を貫く連携体制の構築を意図したものです。

医療機関には、デジタルデータ(電子処方箋)と現場情報(聴取・観察)を組み合わせた運用体制、看護職員等とのタスク・シフト体制、多職種連携の情報共有フローという、3つの観点での準備が求められます。業務手順書の整備と職員研修を計画的に進めることをお勧めします。


本記事の内容は、以下のポッドキャストエピソードでも詳しく解説しています。ぜひお聴きください。

令和8年度改定で新設「残薬確認」要件:地域包括診療料・在総管の対応ポイント - LISTEN