令和8年度診療報酬改定では、精神科救急急性期医療入院料と精神科救急・合併症入院料に、新しい対象患者が加わります。加わるのは、ICU等の高度急性期病床を備えた病院の精神病床から、精神科医療を担う病院へ転院してきた患者です。ただし、他院からの転院患者がすべて該当するわけではありません。
該当するかどうかを分けるのは、転院してきた患者の現在の状態ではありません。判定を分けるのは、転院元の病院の体制と、その病院で患者が算定していた入院料です。本記事では、この判定の考え方を2つの要件と3ステップの確認手順に整理し、実務での取り違えを防ぐポイントを解説します。
- 改定の背景|高度急性期からの転院が算定対象に含まれていなかった
- 新たな対象患者|判定を分ける2つの要件
- 対象となる入院料|精神科急性期治療病棟入院料は対象外
- 算定判定の3ステップ|医事課・連携室の確認手順
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|対象可否は「転院元」で決まる
改定の背景|高度急性期からの転院が算定対象に含まれていなかった
今回の見直しは、精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者の医療提供体制を、さらに広げる観点から行われます。この種の患者は、身体面の全身管理と、専門的な精神科医療の双方を必要とします。そのため実際の医療現場では、身体の急性期に対応できる病院と、精神科医療を担う病院とが役割を分担することになります。
ところが従来、この役割分担の受け渡しにあたる転院は、精神科救急急性期医療入院料等の算定対象に含まれていませんでした。高度急性期病床を備えた病院の精神病床から専門病院へ移った患者が、これらの入院料の対象患者に位置づけられていなかったためです。今回の追加は、この空白を埋め、病院間の受け渡しをこれらの入院料で評価できるようにするものです。
新たな対象患者|判定を分ける2つの要件
新たに加わる対象患者は、2つの要件を同時に満たす転院患者です。2つの要件はいずれも、受け入れ側ではなく「転院元」に関するものです。以下、順に確認します。
要件1:転院元が高度急性期病床を有する病院であること
第1の要件は、転院元の病院が高度急性期病床を有することです。具体的には、次のいずれかを算定する病棟又は病室を有する病院が該当します。
- 救命救急入院料
- 特定集中治療室管理料(ICU)
- ハイケアユニット入院医療管理料(HCU)
- 脳卒中ケアユニット入院医療管理料(SCU)
- 小児特定集中治療室管理料(PICU)
- 総合周産期特定集中治療室管理料(母体・胎児集中治療室管理料を算定するものに限る)
ここで問われるのは、病院が上記の病棟・病室を「有しているか」という体制面です。転院を打診された段階で最初に確認すべき項目にあたります。
要件2:転院元の精神病床で対象6入院料のいずれかを算定していたこと
第2の要件は、その病院の精神病床で、患者が所定の入院料を算定していたことです。対象となるのは、次の6つの入院料です。
- 精神病棟入院基本料(10対1、13対1及び15対1入院基本料に限る)
- 特定機能病院入院基本料(精神病棟に限る)
- 精神科救急急性期医療入院料
- 精神科急性期治療病棟入院料
- 精神科救急・合併症入院料
- 児童・思春期精神科入院医療管理料
この要件が示すとおり、対象となるのは転院元では精神病床に入院していた患者です。患者本人がICU等の高度急性期病床に入室していたことは、要件になっていません。この点は誤解が生じやすいため、実務では特に注意してください。
対象となる入院料|精神科急性期治療病棟入院料は対象外
今回の見直しで対象患者が追加されるのは、3つの入院料のうち2つのみです。追加規定が新設されるのは、精神科救急急性期医療入院料と精神科救急・合併症入院料です。別表第十における項番号の新旧対応は、次のとおりです。
| 入院料 | 今回の扱い | 項番号の変更 |
|---|---|---|
| 精神科救急急性期医療入院料 | 対象 | 対象患者の(3)として新設(従来の(3)は(4)へ繰り下げ) |
| 精神科救急・合併症入院料 | 対象 | 対象患者の(4)として新設(従来の(4)は(5)へ繰り下げ) |
| 精神科急性期治療病棟入院料 | 対象外 | 変更なし |
一方、精神科急性期治療病棟入院料は、今回の追加対象に含まれません。別表第十にはこれら3つの入院料が並んで記載されているため、名称の近さから取り違えが起こりやすい箇所です。なお、除外の理由は資料に明記されていません。実務では理由を推測するのではなく、対象が2つに限られるという事実を確実に押さえてください。
また、新設される項目は、いずれも既存の項目「以外の患者であって」という留保が付されています。精神科救急急性期医療入院料であれば(1)及び(2)以外、精神科救急・合併症入院料であれば(1)から(3)まで以外の患者が対象です。すでに他の類型に該当する患者は、そちらで整理される点にご留意ください。
算定判定の3ステップ|医事課・連携室の確認手順
以上の要件は、転院受け入れの流れに沿って3つのステップで確認できます。転院打診の段階から順にチェックすることで、確認漏れを防げます。
ステップ1は、転院打診を受けた時点での体制の確認です。 送り出し側の病院が、救命救急入院料やICU等を算定する病棟・病室を有しているかを確認します。ここで該当しなければ、以降の確認は不要です。
ステップ2は、診療情報提供書等による算定入院料の確認です。 患者が転院元の精神病床で、対象6入院料のいずれかを算定していたかを読み取ります。精神病棟入院基本料については、10対1、13対1、15対1のいずれかである点まで確認が必要です。
ステップ3は、確認結果の診療録への記載です。 これは文書上の要件ではありませんが、算定根拠を示すうえで推奨される対応です。ステップ1と2の照合結果を診療録に残しておくと、根拠を後から説明できます。転院元の情報は後から取得しにくいため、受け入れ時点での記録が有効です。
よくある質問(FAQ)
- 精神科急性期治療病棟入院料も今回の対象患者拡大の対象ですか?
- 対象外です。今回の改定で転院患者が対象患者に追加されるのは、精神科救急急性期医療入院料と精神科救急・合併症入院料の2つです。別表第十にはこれら3つの入院料が並んで記載されていますが、精神科急性期治療病棟入院料については変更がありません。名称が似ているため、実務での取り違えに注意してください。
- 転院してきた患者がICU等に入室していた必要はありますか?
- 必要ありません。要件となるのは、転院元がICU等を算定する病棟又は病室を有する病院であること、そして患者がその病院の精神病床で対象となる6つの入院料のいずれかを算定していたことの2点です。患者本人が高度急性期病床に入室していたかどうかは問われません。
- 対象患者に該当するかどうかは、何を確認すれば判断できますか?
- 転院元の病院の体制と、転院元で算定していた入院料の2点を確認します。まず転院元が救命救急入院料やICU等を算定する病棟・病室を有するかを確認し、次に診療情報提供書等から患者が精神病棟入院基本料等の対象6入院料のいずれかを算定していたかを確認します。確認結果の診療録への記載は文書上の要件ではありませんが、算定根拠を示すうえで推奨されます。
まとめ|対象可否は「転院元」で決まる
令和8年度診療報酬改定では、精神科救急急性期医療入院料と精神科救急・合併症入院料の対象患者に、高度急性期病床を有する病院の精神病床からの転院患者が加わります。対象可否を決めるのは、転院元の体制と、転院元で算定していた入院料の2点です。精神科急性期治療病棟入院料が対象外である点と併せて、確実に押さえてください。この見直しは、個々の患者の病状だけでなく、医療機関同士の連携そのものを評価する方向への一歩と言えます。
なお、本記事は個別改定項目の内容に基づいています。施設基準や算定上の詳細な取扱いについては、今後示される告示・通知を必ずご確認ください。
本記事の内容は、ポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。音声での解説は、以下のリンクからお聴きいただけます。