令和8年度診療報酬改定の処方箋料の見直しには、一見すると逆向きの2つの動きが同時に含まれています。一般名処方加算の点数は引き下げられる一方で、加算の対象範囲は広げられるのです。厚生労働省は個別改定項目「Ⅳ-1 後発医薬品・バイオ後続品の使用促進-①処方箋料の見直し」で、その具体的な内容を示しました。本記事では、この見直しがなぜこの形になったのかを、中医協に提出された資料をもとに読み解きます。
- 令和8年度改定で処方箋料はこう変わる
- なぜ一般名処方加算は引き下げられるのか
- なぜバイオ後続品が新たに加算の対象になるのか
- なぜ緊急時の取扱いが明文化されたのか
- 医療機関が施行までに進めるべき3点
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
令和8年度改定で処方箋料はこう変わる
処方箋料の見直しは、3つの変更点で構成されています。
第1に、一般名処方加算の点数が引き下げられます。加算1は10点から8点へ、加算2は8点から6点へ、いずれも2点の引下げです。
第2に、加算の対象にバイオ後続品のあるバイオ医薬品が追加されます。これまでの対象は後発医薬品のある医薬品に限られていました。
第3に、同一診療日に院内投薬と院外処方箋を併用した場合の取扱いが明確化されます。原則として認められない点は変わりませんが、緊急やむを得ない場合の算定方法が通知に明記されます。
ここから、それぞれの変更点の背景を順に見ていきます。
なぜ一般名処方加算は引き下げられるのか
点数の引下げは、一般名処方が院内の運用として定着したことを踏まえた見直しです。厚生労働省は、後発医薬品の置き換えの進展等を踏まえた対応だと説明しています。
数字にも定着はあらわれています。処方箋料の算定回数に占める一般名処方加算の算定割合は、平成24年の26.1%から一貫して上昇し、令和4年に60.8%、令和6年には66.0%に達しました。薬局における後発医薬品の使用割合も、9割を超えています。
注目したいのは、定着の理由です。令和6年度改定の結果検証に係る特別調査で、一般名処方が増えたと回答した医師91人に理由を尋ねたところ、複数回答で最も多かったのは「オーダリングシステムの変更など一般名処方に対応できる院内体制が整備されたから」の57.1%でした。「一般名処方加算の点数が引き上げられたから」は41.8%で、これに次ぎます。同じ調査では、令和6年度改定による処方箋料の見直しが処方に与えた影響について、「特に処方の判断に変化はない」という回答が97.3%を占めました。
この結果は、加算の性格と重ねると理解しやすくなります。一般名処方加算は、同一成分の他の医薬品に置き換えても医学的に問題ないという判断、電子カルテシステムの導入・運用コスト、患者への説明と院内掲示といった負担を評価するために設けられた加算です。調査結果は、このうちシステム面の整備がすでに進んだことを示しています。導入を後押しする段階から、定着した運用を前提とする段階へ移りつつある。今回の引下げは、そのように読み取ることができます。
ただし、負担がすべて軽くなったわけではありません。中医協の資料は、後発医薬品の普及割合にかかわらず、新たに後発医薬品が承認されれば、これまで後発医薬品がなかった先発医薬品を使っていた患者への説明が新たに必要になると指摘しています。説明の手間は、普及が進んでも繰り返し発生する性質のものです。
ただし、点数が引上げ前の水準まで戻るわけではありません。令和6年度改定前の加算1は7点、加算2は5点でした。改定案の8点と6点は、いずれもこれを上回っています。引上げ分がすべて取り消されたのではなく、その一部が調整されたと理解するのが正確です。
なぜバイオ後続品が新たに加算の対象になるのか
対象の拡大は、バイオ後続品の置き換えが進んでいない現状への対応です。バイオ後続品への置き換え率は、令和6年薬価調査で金額ベース33.7%にとどまります。国は2029年度までに、バイオ後続品が80%以上を占める成分数を全体の60%以上とする目標を掲げていますが、2024年度時点の実績は22.2%です。
置き換えが進まない理由として、中医協はバイオ医薬品固有の事情を挙げています。バイオ後続品は有効成分が先行品と同一ではないため、切り替えには医師の判断が必要であり、薬局での変更調剤ができません。さらに、低分子医薬品と違って、先行品と後続品に共通の一般名が存在しません。後発医薬品には一般名処方加算という患者が選択できる仕組みがある一方、バイオ後続品には対応する評価がなかった。こうした差を埋める方策として議論されたのが、今回の対象化です。
共通の一般名がないのにどう一般名処方を行うのか、と疑問に思われるかもしれません。中医協は、バイオ医薬品を一般名処方マスタに掲載することの検討と、加算の対象とすることを、ひとつの論点として並べて示しました。改定案も、これに沿って「一般名処方」の定義そのものを改めています。従来の「先発医薬品か後発医薬品かといった個別の銘柄にこだわらずに処方を行っているもの」という説明に、先行バイオ医薬品とバイオ後続品が書き加えられました。
対象範囲は「後発医薬品のある医薬品」から「後発医薬品のある医薬品及びバイオ後続品のあるバイオ医薬品」に広がります。ただし、バイオ後続品の適応のない患者に使用する先行バイオ医薬品は除かれます。同じ薬剤を処方していても、その患者の適応にバイオ後続品があるかどうかで加算の対象が変わる点に注意が必要です。
この拡大は、加算1の判定にも影響します。加算1は、対象となる医薬品が2品目以上あり、そのすべてが一般名処方されている場合に算定する加算だからです。バイオ医薬品が対象に加わることで、これまで加算1を算定できていた処方箋が、要件を満たさなくなる場合もありえます。
実務面では、事前の確認が欠かせません。一般名処方の標準的な記載を定めた「一般名処方マスタ」には、これまでバイオ医薬品が掲載されていませんでした。自院の処方オーダシステムがバイオ医薬品の一般名処方に対応できるか、施行前に検証しておく必要があります。
なぜ緊急時の取扱いが明文化されたのか
3つ目の変更点は、例外を認めつつ、その範囲を限定するための明確化です。
まず原則は変わりません。同一の患者に対して、同一診療日に、一部の薬剤を院内で投薬し、他の薬剤を院外処方箋で投薬することは、原則として認められません。
改定案は、この原則にただし書きを追加します。該当するのは、常時院外処方箋で投薬している患者に緊急に必要と認めて臨時的に院内投薬を行った場合、および常時院内投薬を行っている患者に当該医療機関で常用していない薬剤を緊急かつ臨時的に院外処方箋で投薬した場合です。いずれも、常時の投薬方法と異なる投薬を緊急かつ臨時的に行った場合という点で共通しています。
この場合の算定方法とレセプト記載も、あわせて明記されます。「F000」調剤料と「F100」処方料は算定せず、院内投薬に係る「F200」薬剤と処方箋料を算定します。そのうえで、診療報酬明細書の「摘要欄」に、その日付と理由を記載します。ルールを明文化することは、現場が緊急時に迷わず判断できる根拠を用意することでもあります。
医療機関が施行までに進めるべき3点
以上の3つの変更点は、医療機関に3つの準備を求めます。
第1に、点数マスタを更新します。一般名処方加算1を8点、加算2を6点に書き換えます。
第2に、処方オーダの運用を確認します。バイオ医薬品の一般名処方にシステムが対応できるかを検証します。
第3に、レセプト記載の手順を整えます。緊急時に摘要欄への記載が漏れないよう、診療部門と医事課の連携ルールを決めておきます。
3つの準備は、それぞれ担当部門が異なります。誰がいつまでに行うかを早めに割り当てておくことが、施行後の混乱を防ぎます。
よくある質問(FAQ)
- 一般名処方加算は令和8年度改定で何点になりますか。
- 改定案では、一般名処方加算1が8点、一般名処方加算2が6点となります。現行はそれぞれ10点と8点であり、いずれも2点の引下げです。ただし、令和6年度改定前の水準である7点と5点は上回っています。
- バイオ医薬品を一般名で処方すれば、必ず一般名処方加算を算定できますか。
- 算定できるとは限りません。対象となるのはバイオ後続品のあるバイオ医薬品であり、バイオ後続品の適応のない患者に対して使用する先行バイオ医薬品は対象から除かれます。同じ薬剤を処方していても、その患者の適応にバイオ後続品があるかどうかで判断が変わります。
- 同一日に院内投薬と院外処方箋を併用した場合、どのように算定しますか。
- 両者の併用は原則として認められません。緊急やむを得ない事態により併用した場合に限り、F000調剤料とF100処方料は算定せず、院内投薬に係るF200薬剤と処方箋料を算定します。あわせて、診療報酬明細書の摘要欄にその日付と理由を記載します。
まとめ
令和8年度改定の処方箋料の見直しは、加算による誘導のかけ方を組み替えるものです。一般名処方が定着した後発医薬品では点数を抑え、置き換えが進んでいないバイオ後続品へ対象を広げる。減点と対象拡大という逆向きの動きは、評価にメリハリをつける見直しとして理解できます。
医療機関に求められるのは、点数マスタの更新、処方オーダの確認、レセプト記載の運用整備という3点の準備です。処方箋のわずかな点数の変化が、患者が受け取る薬の選択肢を形づくっています。その意味で、今回の見直しは事務手続きの変更にとどまりません。
本記事の内容は、ポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。ぜひ以下のリンクからお聴きください。