病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】物価対応料の新設と初再診料・入院料の変更点を解説

令和8年度診療報酬改定では、持続的な物価高騰により増加した医療機関等の物件費負担に対応するため、基本診療料の引上げと新たな加算の新設が行われました。この対応は、医科・歯科・調剤・訪問看護の全領域に及びます。

今回の物件費高騰への対応は、大きく3つの柱で構成されています。第1に、令和6年度改定以降の経営環境の悪化に対する緊急対応として、初再診料等と入院基本料等の点数が引き上げられました。第2に、令和8年度以降の物価上昇に段階的に対応するため、「物価対応料」という新たな加算が新設されました。第3に、高度機能医療を担う特定機能病院や急性期病院には、物価高の影響を受けやすいことを踏まえた特例的な評価が設けられました。以下、改定率の構造を読み解いた上で、それぞれの内容を解説します。

改定の背景——緊急対応分と物価対応分の2つの財源

今回の物件費高騰への対応を理解するには、まず改定率の構造を押さえる必要があります。令和8年度の診療報酬改定率は全体で+3.09%(令和8年度・9年度の2年度平均)ですが、この中には賃上げ分や食費・光熱水費分なども含まれています。物件費高騰に関連する財源は、以下の2つです。

1つ目の財源は、令和6年度改定以降の経営環境の悪化を踏まえた「緊急対応分(+0.44%)」です。この配分は、病院+0.40%、医科診療所+0.02%、歯科診療所+0.01%、保険薬局+0.01%となっており、外来では初再診料等の引上げ、入院では入院基本料等の引上げに充てられます。いわば、過去の経営ダメージを回復するための財源です。

2つ目の財源は、将来の物価上昇を見越した「物価対応分(+0.76%)」です。このうち+0.62%が令和8年度以降の物価上昇への対応に充てられ、残りの+0.14%が高度機能医療を担う病院への特例的な対応に使われます。この財源は、初再診料や入院基本料とは別建ての「物価対応料」という新しい加算として設計されています。

この2つの財源の使い分けが、今回の改定を読み解くポイントです。緊急対応分は基本診療料のベースアップとして組み込まれ、物価対応分は別建ての加算で段階的に引き上げる——つまり「ベースアップ」と「加算」の2階建て構造になっています。

初再診料等・入院基本料等の引上げ——ベースアップによる緊急対応

緊急対応分の財源は、初再診料等と入院基本料等のベースアップに充てられました。

外来では、医科の再診料が75点から76点に1点(10円相当)引き上げられました。初診料は291点で据え置きです。再診料は初診料よりも算定回数が圧倒的に多いため、少額でも広く財源を行き渡らせやすいという特性があります。歯科においても、初診料が267点から272点へ5点、再診料が58点から59点へ1点引き上げられました。

入院では、医療機能に応じたメリハリのある増点が行われました。急性期一般入院料1は1,688点から1,874点へ186点の大幅増で、重症患者を受け入れる病棟への手厚い配分が特徴です。一方、地域一般入院料3は1,003点から1,097点へ94点の増点です。急性期の上位区分ほど増点幅が大きい設計は、令和7年度補正予算における支援の考え方を踏まえたもので、施設類型ごとのメリハリを維持する方針が反映されています。

物価対応料の新設——令和9年6月に全区分で点数が2倍に

物価対応分の財源で新設されたのが「物価対応料」です。基本診療料や調剤基本料等の算定に併せて算定可能な、別建ての加算として設計されました。

医科外来では、初診時2点、再診時等2点が加算されます。入院においては、算定する入院料の種類に応じて点数が異なり、急性期病院A一般入院料の場合は66点、急性期一般入院料1の場合は58点などが設定されています。歯科や調剤、訪問看護においても同様の区分が設けられています。

この物価対応料の最大の特徴は、令和9年6月以降に所定点数の100分の200(2倍)に相当する点数が算定される点です。たとえば、外来の初診時は2点から4点に、急性期病院Aの入院は66点から132点に倍増します。将来の物価上昇を制度にあらかじめ織り込んだ、計画的な二段構えの仕組みと言えます。

ただし、経済・物価の動向が令和8年度改定時の見通しから大きく変動した場合には、令和9年度予算編成において加減算を含めた調整が行われる可能性も示されています。自動的に2倍が確定しているわけではなく、今後の経済情勢の推移を注視する必要があります。

高度機能病院への特例的対応——急性期病院入院基本料の新設と特定機能病院の再編

物価対応分+0.76%のうち+0.14%は、高度機能医療を担う病院への特例的な対応に充てられました。この背景には、大学病院を含む高度機能病院は、汎用性が低く価格競争原理の働きにくい医療機器等を調達する必要があるため、物価高の影響を特に受けやすいという認識があります。

第1の変更は、「急性期病院一般入院基本料」の新設です。高度な急性期機能を担う病院を対象とし、A区分(1,930点)とB区分(1,643点)が設定されました。従来の急性期一般入院料1(1,874点)をさらに上回る評価です。

第2の変更は、「特定機能病院入院基本料」の再編です。従来の一律の評価から、A・B・Cの3区分に細分化されました。大臣折衝事項では、医師派遣による地域医療への貢献や高度な教育・研究機能が区分の根拠として挙げられています。最も評価の高いA区分は2,146点で、従来の7対1入院基本料(1,822点)と比較して324点(3,240円相当)の大幅な増点です。機能と実績に応じた格差を明確にすることで、各病院が担う役割に見合った評価を実現する設計になっています。

まとめ——ベースアップと加算の2階建てを理解する

令和8年度診療報酬改定における物件費高騰への対応は、過去の経営ダメージを回復する「緊急対応(ベースアップ)」と、将来の物価上昇に備える「物価対応料(加算)」の2階建てで構成されています。

各医療機関の経営層や実務担当者には、自施設が算定する入院料の区分に応じた物価対応料の点数を確認し、令和9年6月以降の倍増も見据えた中長期的な収支シミュレーションが求められます。また、高度機能病院においては、急性期病院A・Bや特定機能病院A・B・Cのどの区分に該当するかが収益に直結するため、施設基準の届出を戦略的に検討する必要があります。

本記事の背景や詳細な解説については、以下のポッドキャストエピソードでもお話ししています。ぜひ併せてお聴きください。 LISTENでエピソードを聴く