病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度改定】吸入薬指導加算の見直し|インフルエンザ追加と6月に1回への延長

令和8年度診療報酬改定では、吸入薬指導加算の対象患者と算定間隔が見直されます。この見直しは、これまで評価の対象外だったインフルエンザウイルス感染症の患者への吸入指導を新たに評価する一方で、算定間隔を延長する内容です。本記事では、加算の基本、改定による3つの変更点、発熱外来で要件を満たすための実務対応、そして現場で迷いやすい論点を、条文と中医協資料に基づいて整理します。

吸入薬指導加算とは|まず押さえる3つの要件

吸入薬指導加算は、吸入手技の指導を評価する加算です。服薬管理指導料に上乗せして算定するほか、令和6年度改定以降はかかりつけ薬剤師指導料を算定する患者にも算定できます。算定するには、3つの要件をすべて満たす必要があります。この要件は、今回の改定でも変わりません。

1つ目の要件は、指導のきっかけと同意です。患者本人や家族等、または保険医療機関からの求めに応じて指導を行い、その際に患者の同意を得る必要があります。

2つ目の要件は、指導の方法です。文書および練習用吸入器等を用いて、薬学的管理と指導を行うことが求められます。口頭の説明だけでは算定できません。

3つ目の要件は、保険医療機関への情報提供です。指導した内容を文書で医療機関へ提供して、はじめて算定が完了します。なお、この加算を算定した場合、服薬情報等提供料は算定できません。

令和8年度改定の変更点|対象は広がり、頻度は絞られる

改定の変更点は、対象患者、算定間隔、点数の3つに整理できます。全体像は「広く、ただし頻度は抑えて」評価する方向です。

項目 現行 改定案
対象患者 喘息又は慢性閉塞性肺疾患の患者であって、吸入薬の投薬が行われているもの 吸入薬の投薬が行われている患者
算定間隔 3月に1回 6月に1回
点数 30点 30点(資料上は据え置き)
算定要件 求め・同意・文書と練習用吸入器等・医療機関への文書提供 変更なし

変更点1:対象患者は「疾患名」から「投薬の事実」へ

対象患者の判断基準が、疾患名から吸入薬の投薬という事実へ移ります。現行の条文は「喘息又は慢性閉塞性肺疾患の患者であって、吸入薬の投薬が行われているもの」と規定しており、疾患名が算定の壁になっていました。

改定案の条文は、対象を「吸入薬の投薬が行われている患者」と規定します。この整理の根拠として、改定資料は、患者が自ら吸入を行う吸入薬の適応症が喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、インフルエンザウイルス感染症の3つに限られる点を挙げています。疾患名を書かなくても対象範囲は変わらないため、条文を簡素にできるという理屈です。

結果として、インフルエンザウイルス感染症の患者が新たに算定対象に加わります。

変更点2:算定間隔は3月に1回から6月に1回へ

算定間隔は、3月に1回から6月に1回へ延長されます。同一患者への算定機会は、実質的に半分になります。

この延長の影響を受けるのは、喘息やCOPDの患者を継続して支援している薬局です。吸入手技の確認は季節や体調の変化に応じて繰り返す業務ですが、そのうち算定できる回数が減ります。減少分を補えるかどうかは、新たに対象となるインフルエンザの患者へ確実に算定できる体制があるかで決まります。

変更点3:点数は資料上30点で据え置き

点数は、現行と改定案のいずれも30点と記載されています。個別改定項目は変更箇所に下線を付す形式ですが、改定案の条文で下線が付いているのは「6月」の部分だけです。したがって、資料上は据え置きと読み取れます。

ただし「具体的な内容」には「算定可能な間隔及び評価を見直す」と記載されています。最終的な点数と取扱いは、告示および関連通知で確認してください。

見直しの背景|中医協が示した3つの実態

見直しの背景には、中央社会保険医療協議会(中医協)に示されたインフルエンザ吸入薬指導の実態があります。示されたのは、慢性疾患と同等の負担が生じているという3つの事実です。

1つ目の事実は、指導時間です。インフルエンザの吸入薬指導は、喘息やCOPDの吸入指導と同程度の時間を要していました。

2つ目の事実は、感染症対策です。指導のために個室を整備している薬局があります。

3つ目の事実は、確実な吸入の確認です。きちんと吸入できているかを確かめるため、薬剤師の面前で実際に吸入してもらう対応が行われています。この対応には、薬剤師がウイルスに曝露する懸念も伴います。

慢性疾患と同等の時間と労力、そして急性疾患特有の感染リスクがある。それにもかかわらず評価がなかった。この不均衡の是正が、今回の見直しの狙いです。

薬局の実務対応|発熱外来で要件を満たす3ステップ

薬局に求められるのは、慢性疾患と同じ水準の算定フローを、発熱外来のスピードで回す仕組みです。対象が広がっても算定要件は緩和されないため、3つのステップを事前に設計してください。

第1のステップは、同意取得と記録の前倒しです。投薬の場面で一から説明していては時間が足りません。事務スタッフと連携し、吸入薬が処方された患者について受付段階で指導の希望を確認する運用が現実的です。薬歴の記載欄を定型化しておくと、記録漏れも防げます。

第2のステップは、インフルエンザ治療薬に対応した資材の準備です。吸入デバイスは製剤ごとに操作が異なるため、喘息・COPD用とは別に、該当製剤に対応した練習用吸入器等の資材と説明文書を用意します。あわせて、面前で吸入を確認する場合に飛沫への曝露を防げる環境かどうか、個室やパーティションの状況も点検してください。

第3のステップは、文書提供と算定間隔の管理です。指導内容を文書で医療機関へ提供する様式と送付フローを決めておきます。あわせて、6月に1回という間隔をレセプトコンピュータでアラート管理する仕組みを整えてください。

見落としやすい3つの注意点

実務では、条文を読み飛ばすと算定誤りにつながる論点が3つあります。改定後の運用を設計する前に確認してください。

1つ目の注意点は、算定間隔が患者単位で適用される点です。疾患ごとに枠が用意されるわけではありません。喘息で算定した患者が同じ期間内にインフルエンザで受診しても、前回算定から6月を経過していなければ算定できないと考えられます。

2つ目の注意点は、指導だけでは算定が完了しない点です。丁寧に吸入指導を行っても、医療機関への文書提供がなければ算定できません。

3つ目の注意点は、服薬情報等提供料との併算定です。この加算を算定した場合、服薬情報等提供料は算定できません。この取扱いは改定後も変わらないため、店舗の薬剤師全員への周知が必要です。

よくある質問(FAQ)

インフルエンザの患者に吸入指導をすれば、必ず吸入薬指導加算を算定できますか?
算定できるとは限りません。令和8年度改定でインフルエンザウイルス感染症の患者は算定対象に加わりますが、算定要件は変わらないためです。患者や家族等または保険医療機関からの求めに応じて患者の同意を得ること、文書および練習用吸入器等を用いて指導すること、指導内容を文書で保険医療機関へ提供することを、すべて満たす必要があります。あわせて、算定は6月に1回までで、服薬情報等提供料との併算定はできません。
吸入薬指導加算の点数は30点のままですか?
個別改定項目の資料上は、現行・改定案ともに30点と記載されています。この資料は変更箇所に下線を付す形式であり、改定案の条文で下線が付いているのは「6月」の部分だけであるため、点数は据え置きと読み取れます。ただし「具体的な内容」には「算定可能な間隔及び評価を見直す」との記載があるため、最終的な点数は告示および関連通知で確認してください。
喘息で4月に算定した患者が、同じ年の9月にインフルエンザで受診した場合は算定できますか?
算定できないと考えられます。改定後の規定は「6月に1回に限り」算定できるとしており、この間隔は疾患ごとではなく患者ごとに適用されるためです。4月に算定した場合、次に算定できるのは10月以降となります。疾患をまたぐ場合の具体的な取扱いは、告示・通知および疑義解釈で確認してください。

まとめ

令和8年度診療報酬改定における吸入薬指導加算の見直しは、対象患者を広げる一方で算定頻度を絞る構造です。対象患者は疾患名の限定から吸入薬の投薬という事実へ整理され、インフルエンザウイルス感染症の患者が加わります。算定間隔は3月に1回から6月に1回へ延長され、点数は資料上30点で据え置きと読み取れます。

急性疾患の指導が制度として評価される点は前進です。一方で、算定要件は緩和されないため、発熱外来という条件下で求め・同意・指導・文書提供を確実に回せるかどうかが、薬局ごとの差になります。まずは自店舗の発熱外来のフローを見直し、インフルエンザ専用の指導資材と同意取得の運用を整えるところから始めてください。

本記事の内容は、ポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。以下のリンクより、ぜひ音声でもお聴きください。

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