病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】特定薬剤治療環境特別加算300点とは|カルタヘナ法対応の算定要件を実務目線で解説

令和8年度診療報酬改定では、カルタヘナ法に基づく医学管理に新しい評価が設けられます。柱は2つです。1つは、入院中の個室管理を評価する「特定薬剤治療環境特別加算」(1日につき300点)の新設です。もう1つは、退院後の自宅等での管理指導を評価する「特定薬剤治療管理料」の対象拡大です。本記事では、それぞれの算定要件と、実務で押さえておきたいポイントを整理します。

なお、本テーマについてはLISTENのエピソードでも音声で解説しています。あわせてご活用ください。

なぜカルタヘナ法に基づく管理が必要なのか|改定の背景

今回の評価が設けられた背景には、遺伝子組換え生物等を含む薬剤の普及があります。ウイルスを用いたがん治療薬や、遺伝子を導入する治療製品などが、その代表例です。これらの薬剤は、投与後に患者の体液や排泄物を通じて、遺伝子組換え生物等が体外へ排出される可能性があります。

カルタヘナ法は、この排出物が自然環境へ広がり、在来の生態系に影響を及ぼす事態を防ぐ法律です。正式名称は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」といいます。この法律のもとで、対象薬剤を扱う医療機関には、厳格な拡散防止の管理が求められます。

問題は、この管理にかかる労力とコストが、従来の診療報酬で十分に評価されてこなかった点です。例えば、排泄物を専用容器で回収したり、清掃手順を強化したりといった対応が想定されます。こうした管理コストが医療機関の負担となりやすい状況を、今回の改定が見直します。

新加算「特定薬剤治療環境特別加算」とは|1日300点の算定要件

1つ目の見直しは、入院中の個室管理を評価する「特定薬剤治療環境特別加算」の新設です。この加算は、1日につき300点を算定できます。対象は、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤(再生医療等製品を含む)を投与する目的で、個室に入院する患者です。

算定の前提として、本加算を算定できる入院基本料または特定入院料を、現に算定している必要があります。この患者を、対象薬剤の投与を目的として個室に入院させた場合に、所定点数へ加算します。個室を「封じ込めのエリア」として機能させ、遺伝子組換え生物等が他の患者や環境へ広がることを防ぐ体制が、診療報酬の面から支えられます。

特定薬剤治療管理料の対象拡大|退院後の在宅管理も月1回評価

2つ目の見直しは、特定薬剤治療管理料の対象拡大です。拡大の対象となるのは、現行で「サリドマイド及びその誘導体」を対象としている「注11 ロ」の規定です。ここに、カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤を投与している患者が追加されます。

追加の理由は、退院後も自宅等で遺伝子組換え生物等が排出される可能性があるためです。そこで、自宅等における管理に必要な指導(例えば排泄物の取扱いなど)を行った場合に、月1回に限り所定点数を算定できるようにします。これにより、評価の対象が入院中だけでなく、退院後の在宅管理にまで広がります。

実務で押さえたい3つのポイント

ここでは、2つの見直しを運用する際に確認したい点を3つに整理します。算定漏れや要件の取り違えを防ぐための観点です。

第1に、新加算は単独では算定できない点です。「特定薬剤治療環境特別加算」は、入院基本料または特定入院料を現に算定していることが前提となります。対象となる入院料を算定しているかを、まず確認します。

第2に、対象薬剤の範囲を取り違えない点です。対象は「カルタヘナ法に基づく管理が必要な薬剤」であり、再生医療等製品を含みます。投与する薬剤がこの範囲に当たるかを、添付文書や院内の取扱い基準で確認します。

第3に、入院から退院後までを一連の管理として記録する点です。入院中の個室管理(新加算)と、退院後の在宅指導(特定薬剤治療管理料)は、対象薬剤を軸につながっています。両者をセットで運用し、指導内容や管理状況を記録に残すことが、適切な算定につながります。

まとめ|入院から在宅まで「シームレスな管理」へ

令和8年度診療報酬改定では、カルタヘナ法に基づく医学管理が、2つの評価で支えられます。入院中は「特定薬剤治療環境特別加算」(1日300点)が個室管理を、退院後は「特定薬剤治療管理料」(月1回)が在宅指導を評価します。これにより、対象薬剤の管理は、院内だけの対応から、退院後を見据えた連続的な体制へと広がります。最先端の医療と環境保護を両立させる仕組みとして、医療機関には入院から在宅までの管理体制の整備が求められます。


本記事の点数・要件は改定資料に基づく解説です。実際の算定にあたっては、告示・通知などの確定版をご確認ください。