令和8年度診療報酬改定では、適切な疾患別リハビリテーション料の算定を推進する観点から、リハビリテーション単位数の上限緩和について、対象患者が見直されます。この見直しには、2つのねらいがあります。1つは、限られた医療資源を医学的必要性の高い領域へ集中させる「適正化」です。もう1つは、現場の運用を助ける「ルールの明確化」です。
本記事では、上限緩和の仕組みと改定の背景を整理したうえで、2つの主要な変更点と、医療機関に求められる実務対応を解説します。
- リハビリの上限緩和とは|原則6単位と「1日9単位」特例の仕組み
- なぜ見直すのか|疾患ごとに異なる集中リハビリの必要性
- 改定ポイント①|運動器リハビリ料(Ⅰ)の入院患者を上限緩和から除外
- 改定ポイント②|脳血管疾患等の起算日を3つに明確化
- 医療機関への影響と実務対応|施行までに準備すべきこと
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
リハビリの上限緩和とは|原則6単位と「1日9単位」特例の仕組み
上限緩和とは、1日に算定できるリハビリ単位数を、通常より多く認める特例です。疾患別リハビリテーション料は、原則として患者1人につき1日6単位までしか算定できません。1単位は20分なので、6単位は1日2時間にあたります。ただし、別表第九の三に該当する患者に限り、1日9単位、つまり1日3時間までの手厚いリハビリが認められます。この別表第九の三が、手厚いリハビリを認める対象患者の一覧表です。今回の改定は、この一覧表の中身を絞り込みます。
なぜ見直すのか|疾患ごとに異なる集中リハビリの必要性
見直しの背景には、疾患によって集中的なリハビリの医学的必要性が異なるという事情があります。脳卒中などの脳血管疾患では、発症初期に集中的な訓練を行うことが、機能回復に結びつきやすいとされています。一方、骨折などの運動器疾患では、毎日3時間の連続したリハビリの必要性や効果が、脳疾患ほど高いとは限りません。そこで今回の改定は、運動器リハビリの入院患者を、手厚いリハビリの対象から外す方向で見直されます。
もう1つの背景は、起算日の曖昧さです。現行制度では、脳血管疾患等の緩和期間が「発症後六十日以内」と定められていました。しかし、何を起点に60日を数えるかの解釈が分かれ、現場で混乱が生じていました。
改定ポイント①|運動器リハビリ料(Ⅰ)の入院患者を上限緩和から除外
第1の変更は、運動器リハビリテーション料(Ⅰ)を算定する入院患者を、上限緩和の対象から除外することです。これまで、早期歩行やADL自立を目的とする入院患者の区分には、5種類のリハビリ料(Ⅰ)が含まれていました。具体的には、心大血管疾患、脳血管疾患等、廃用症候群、運動器、呼吸器の5つです。改定後は、このうち運動器が削除され、対象は4種類に絞り込まれます。この結果、運動器リハビリの入院患者は、この区分を通じた1日9単位までの算定ができなくなります。
なお、回復期リハビリテーション病棟入院料等を算定する患者は、これまで通り緩和の対象です。ただし、この区分では運動器リハビリテーション料を算定する患者が、もともと除外されています。
改定ポイント②|脳血管疾患等の起算日を3つに明確化
第2の変更は、脳血管疾患等の患者について、緩和が認められる60日間の起算日を明確化することです。現行の「発症後六十日以内」という規定は、改定後に「発症日、手術日又は急性増悪の日から六十日以内」へと具体化されます。つまり、起算日が発症日・手術日・急性増悪の日の3つになります。これにより、リハビリ期間中に急変して手術が必要になった場合などでも、手術日や急性増悪の日を起点に数え直せます。起算日の判断基準が明確になり、現場の迷いが解消されます。
医療機関への影響と実務対応|施行までに準備すべきこと
影響の大きさは、自院が主に扱うリハビリ領域によって変わります。運動器リハビリが中心の医療機関は、影響が大きくなります。第3区分を通じた1日9単位の算定が実質的にできなくなり、収益や人員配置の見直しが必要になります。施行までに、原則6単位を前提としたリハビリ提供体制へ再構築することが求められます。
一方、脳血管疾患等のリハビリが中心の医療機関は、影響は比較的小さくなります。対象から外れるわけではないものの、起算日の運用ルールを更新する必要があります。新しい起算日をスタッフへ周知し、カルテやレセプト入力の手順を確認しておくとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
- 運動器リハビリの入院患者は、改定後は1日9単位で算定できなくなるのですか?
- 早期歩行やADL自立を目的とする第3区分を通じた1日9単位の算定はできなくなります。回復期リハビリテーション病棟入院料等の区分でも、運動器リハビリを算定する患者はもともと対象外です。そのため、運動器リハビリの入院患者は、原則として1日6単位までの算定が基本となります。
- 起算日に「手術日」「急性増悪の日」が加わると、対象患者は広がりますか?
- 主なねらいは判断基準の明確化ですが、結果として対象を確保しやすくなる場合があります。たとえば、リハビリ期間中に手術や急性増悪があった患者は、その日を新たな起点として60日間を数え直せます。これにより、状態が変化した患者でも、必要なリハビリ期間を確保しやすくなります。
- 改定はいつから始まり、何を準備すればよいですか?
- 令和8年度(2026年度)の診療報酬改定として施行されます。具体的な施行日は厚生労働省の告示等でご確認ください。準備としては、まず自院の対象患者を3つの区分ごとに整理します。運動器リハビリが中心なら6単位を前提とした提供体制への見直しを、脳血管疾患等が中心なら起算日の運用ルールとカルテ記録の整備を進めるとよいでしょう。
まとめ
今回の上限緩和の見直しは、単なる削減ではなく、制度の意図に沿った「適正化」です。令和8年度改定は、運動器リハビリの入院患者を対象から除外することで、医療資源の適正な配分を図ります。同時に、脳血管疾患等の起算日を明確化することで、必要な患者に十分なリハビリ期間を確保します。実務では、自院の対象患者を3つの区分ごとに整理し、施行に向けて算定体制を早めに整えることが期待されます。
本記事の内容は、ポッドキャスト番組LISTENでも詳しく解説しています。以下のリンクからぜひお聴きください。 令和8年度改定|リハビリ算定単位の上限緩和、対象患者を見直し