病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】疾患別リハビリテーション料|「離床なし訓練」は90%算定へ

令和8年度の診療報酬改定で、疾患別リハビリテーション料の評価のしくみが大きく変わります。最大の変更点は、ベッドから離れずに行う他動的な訓練のみの個別療法を、所定点数の90%で算定する新しい区分が設けられたことです。この記事では、改定の背景、90%算定の対象と要件、対象外となる患者、そして医療機関が現場で準備すべき実務対応までを、順を追って整理します。

なぜ見直されたのか──改定の背景と狙い

今回の見直しは、訓練の中身に応じてリハビリテーションを適正に評価するために行われます。改定資料の「基本的な考え方」では、より質の高いリハビリテーションを推進する観点から、訓練内容に応じた評価に見直すと示されています。

これまでの疾患別リハビリテーション料には、訓練内容による点数差がありませんでした。歩行訓練などの離床を伴う積極的な訓練も、ベッド上で行う拘縮予防などの他動的な訓練も、同じ点数で評価されていたのです。本改定では、この違いを点数に反映させます。訓練の質に応じた評価へと切り替えることで、離床を促す積極的なリハビリテーションを後押しする狙いがあると考えられます。

何が「90%算定」の対象になるのか

90%算定の対象は、ベッド上で他動的な訓練のみを行う入院患者への個別療法です。ここでは、対象となる訓練の条件、算定要件と上限、適用される疾患別リハの範囲という3点に分けて確認します。

対象となる訓練の3つの条件

対象は、次の3つすべてに当てはまる訓練です。1つ目は「移動がないこと」で、個別療法を行うその日に、ベッド上から一切移動せずに訓練を行う入院患者が対象です。2つ目は「他動的な訓練のみであること」で、患者自身の能動的な動きを伴わない、セラピストによる他動的な介入を指します。3つ目は「目的が限定されること」で、主たる目的がポジショニングまたは拘縮の予防などである場合に限られます。

算定要件と1日の上限

算定にあたっては、20分以上の個別療法であることが求められます。算定割合は所定点数の90%、上限は患者1人につき1日2単位までです。なお、この1日2単位の上限は、通則第4号の規定にかかわらず適用されます。

対象は5つの疾患別リハすべて

この見直しは、特定のリハビリだけの話ではありません。心大血管疾患、脳血管疾患等、廃用症候群、運動器、呼吸器の5つの疾患別リハビリテーション料すべてに適用されます。改定資料では心大血管疾患リハビリテーション料を例に示されていますが、残りの4区分についても同様に取り扱われます。自院で算定している区分が含まれていないか、必ず確認してください。

90%算定から除外される3つの患者

一方で、重症の患者や特別な配慮が必要な患者に対しては、明確な除外ルールが設けられています。次の3つに該当する患者は、90%算定の対象から外れ、従来どおり所定点数(100%)で算定します。

除外①:集中治療管理料・早期リハ加算などの算定患者

第1は、特定の管理料や加算を算定している患者です。具体的には、救命救急入院料や特定集中治療室管理料などを算定する急性期の患者が該当します。あわせて、各疾患別リハビリテーション料の早期リハビリテーション加算、初期加算、急性期リハビリテーション加算のいずれかを算定する患者も対象から除かれます。

除外②:移動が困難な15歳未満の小児

第2は、疾患および状態により、ベッド上からの移動が困難な15歳未満の小児患者です。ここで重要なのは、年齢要件と状態要件の両方を満たす必要がある点です。年齢が15歳未満であることだけ、あるいは移動が困難であることだけでは該当しません。

除外③:医師が3単位以上を必要と認めた患者

第3は、医師が3単位以上の個別療法を特に必要と認めた患者です。前提として、疾患および状態によりベッド上からの移動が困難であることが求められます。さらにこの除外には記録要件があり、移動が困難な医学的理由、長時間のリハビリテーションが必要な理由、具体的な訓練内容の3項目を、診療録および診療報酬明細書の摘要欄に記載しなければなりません。記載がなければ、除外は認められません。

医療機関・医事課が準備すべき3つの実務対応

この改定に備えるため、現場では次の3つの対応を進めておくと安全です。算定ロジック、患者スクリーニング、記録様式の3点を整えることで、請求漏れと返戻を防げます。

1つ目は、算定ロジックのアップデートです。離床を伴わない他動的訓練に対する「90%・1日2単位上限」という新しい請求ルールを、レセプトシステムと現場スタッフの双方に周知しておきます。

2つ目は、除外規定3分類のスクリーニング徹底です。集中治療や早期リハ加算の対象者、移動が困難な15歳未満の小児、医師の特別指示の対象者を、入院初期の段階で見極めるフローを用意しておくと、判定の迷いが減ります。

3つ目は、摘要欄の記載事項の標準化です。除外③を適用する際に必須となる3つの医学的理由・内容について、記載漏れを防ぐテンプレートをあらかじめ作成しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

「離床なし訓練」の90%算定は、その日に少しでも離床や立ち上がりの練習をすれば対象外になりますか?
はい。90%算定の対象は、個別療法を行うその日に、ベッド上から移動せず他動的な訓練のみを行った場合に限られます。離床を伴う訓練や、患者自身の能動的な訓練を行った日は、この区分には当たらず、所定点数(100%)で算定します。実際の取り扱いは患者ごとに異なるため、最終的には厚生労働省の通知や疑義解釈で確認してください。
改定資料には心大血管疾患リハビリテーション料しか書かれていませんが、他のリハビリにも適用されますか?
はい。改定資料では心大血管疾患リハビリテーション料を例示していますが、脳血管疾患等・廃用症候群・運動器・呼吸器の各リハビリテーション料についても同様に適用されます。あわせて5つの疾患別リハビリテーション料すべてが対象です。
医師が3単位以上を必要と認めた患者を除外する場合、どのような記録が必要ですか?
診療録および診療報酬明細書の摘要欄に、3つの項目を記載する必要があります。具体的には、ベッド上からの移動が困難な医学的理由、長時間のリハビリテーションが必要な理由、そして具体的な訓練内容です。これら3項目の正確な記載がない場合、除外規定は認められません。

まとめ

令和8年度改定における疾患別リハビリテーション料の見直しは、単なるコスト削減ではなく、提供する医療の質と根拠に応じた適正な評価への移行を意味します。離床を伴わない他動的な訓練のみの個別療法は所定点数の90%で算定し、20分以上・1日2単位までという要件が設けられました。一方で、集中治療や早期リハの対象者、移動が困難な15歳未満の小児、医師が特に認めた患者は、この対象から除外されます。医療機関には、離床を促すリハビリテーションの推進とともに、ベッド上での訓練が避けられない患者についての医学的根拠の記録が、これまで以上に求められます。

本件のより詳しい議論や、医療制度の変更がもたらす社会システムへの影響については、LISTENのエピソードでも解説しています。あわせてご視聴ください。改定の一次情報は、厚生労働省「令和8年度診療報酬改定」のページで確認できます。