病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度改定】大病院の逆紹介を加速する3つの仕組みをわかりやすく解説

「大病院の待ち時間が長い」「予約がなかなか取れない」――こうした声を耳にしたことはありませんか。

その背景には、本来であれば地域のかかりつけ医が診療できる患者が、大病院に集中してしまっているという構造的な問題があります。令和8年度診療報酬改定では、この患者の流れを地域に戻すための仕組みが、これまでにない規模で強化されました。

本記事では、改定資料のⅡ-4-1「大病院と地域のかかりつけ医機能を担う医療機関との連携による大病院の外来患者の逆紹介の推進」を取り上げ、3つの改定項目を初学者の方にもわかりやすく解説します。

なお、本テーマは音声・動画・公式資料でも詳しく扱っています。理解を深めたい方は以下も併せてご活用ください。

なぜ今、「大病院から地域へ」なのか

大病院に患者が集中している現状

特定機能病院をはじめとする大病院には、急性期の重症患者や高度な医療を必要とする患者が訪れる一方で、安定期に入った再診患者も多く通院しています。改定資料によれば、特定機能病院等の再診患者には、地域のかかりつけ医師が診療可能な傷病の患者が一定数含まれている実態があります。

この状態が続くと、大病院は本来の急性期・高度専門医療機能に集中できず、患者にとっても長い待ち時間や予約困難という不利益が生じます。

従来の減算規定では限界があった

これまでも、大病院に対しては紹介状なしで受診した患者の初診料・外来診療料を減算する仕組みがありました。しかし、減算の対象患者は極めて限定的で、実質的な抑止効果が十分とは言えない状況でした。さらに、逆紹介、つまり大病院から地域の診療所に患者を戻す取組には、医療機関ごとに大きなばらつきがありました。

2040年に向けた医療提供体制の再設計

令和8年度改定の背景には、2040年頃を見据えた医療提供体制の再設計という大きな文脈があります。急性期・高度医療は大病院で完結させ、安定期はかかりつけ医が担当する。両者がシームレスに連携する体制を構築するため、今回の改定では3つの仕組みが組み合わせて導入されました。

キーワードは「2人主治医制」

3つの改定内容を理解するうえで、押さえておきたいキーワードが「2人主治医制」です。

2人主治医制とは、1人の患者に対して、病院の専門医師と地域のかかりつけ医師が連携しながら共同で治療管理を行う仕組みのことです。日常的な医学管理は地域の診療所等で受けつつ、専門的な検査や定期的な専門外来受診は大病院で受ける。この両輪で患者を支える考え方が、今回の改定の中核に据えられています。

患者にとってのメリットは明確です。日常的な通院は近隣のかかりつけ医に任せられるため、待ち時間の長い大病院に頻繁に通う負担が軽減されます。一方で、必要なときには大病院の専門医師の診療も受けられるため、医療の質も担保されます。

今回の3つの改定内容は、この2人主治医制を実装するための報酬上の仕組みと位置付けられます。

改定内容①:大病院への「逆紹介責任」の厳格化

何が変わったか

1つ目は、紹介状なし受診患者等に係る初診料・外来診療料の減算規定の見直しです。大病院が地域に患者を戻す責任、いわゆる「逆紹介責任」が厳格化されました。

主な変更点は2つあります。

変更点1:逆紹介割合の基準引き上げ

逆紹介割合の基準が、対象医療機関の種別ごとに引き上げられます。

  • 特定機能病院・地域医療支援病院・紹介受診重点医療機関:30‰未満 → 50‰未満
  • 許可病床400床以上の病院:20‰未満 → 40‰未満

なお、紹介割合の基準(50%未満・40%未満)は変更されません。あくまで「逆紹介」つまり患者を地域に戻す方向の基準が厳格化された点が、今回の改定の方向性を象徴しています。

変更点2:減算対象患者に「頻回再診患者」を追加

これまで減算対象となるのは、他院への文書による紹介の申出を断って受診を続けた患者、つまり「紹介を拒否した患者」のみでした。今回の改定では、これに加えて「当該病院において過去1年間に12回以上外来診療料を算定した患者」が新たに減算対象に加わります。

ただし、機能分担の趣旨に反しない患者は除外規定によって配慮される仕組みになっています。具体的には、遠隔連携診療料または連携強化診療情報提供料を算定している患者、緊急その他やむを得ない事情がある患者、他院への紹介が困難と医師が認めた患者の3つのケースは、減算対象から除外されます。

1年間の経過措置

経過措置として、令和8年3月31日時点で現行の逆紹介割合基準を満たしていた病院は、令和9年3月31日までの1年間、新基準を満たすものとみなされます。

この1年は単なる猶予期間ではなく、頻回再診患者のリストアップと地域連携ネットワークの構築を完了させる準備期間と捉えるべきです。

詳細はこちらの記事をご覧ください。
👉 【令和8年度改定】初診料・外来診療料の減算規定を見直し|逆紹介割合基準の引き上げと対象患者の拡大

改定内容②:地域の医療機関への「受入インセンティブ」新設

何が変わったか

2つ目は、「特定機能病院等紹介患者受入加算」の新設です。これまで大病院側にペナルティを課す仕組み中心だったところに、地域側にインセンティブを付与する新しい評価が加わりました。

具体的には、特定機能病院等から紹介を受けて初診を行った場合、初診料の所定点数に60点が加算されます。

誰が算定できるのか

算定できるのは、診療所または許可病床数200床未満の病院です。許可病床数が200床以上の病院は、たとえ特定機能病院等から紹介を受けても本加算を算定できません。

紹介元として認められるのは、次の4種類の医療機関です。

  1. 特定機能病院
  2. 地域医療支援病院(一般病床200床未満を除く)
  3. 紹介受診重点医療機関(一般病床200床未満を除く)
  4. 許可病床400床以上の病院(一般病床200床未満を除く)

特定機能病院以外の3種類については、いずれも一般病床200床未満の施設は紹介元から除外される点に注意が必要です。

「ムチ」と「ニンジン」の組み合わせ

これまでの大病院への減算が「ムチ」だとすれば、今回新設される加算は「ニンジン」、つまり地域側への直接的なインセンティブです。両者を組み合わせることで、双方向から外来機能分化を後押しする構造になっています。

詳細はこちらの記事をご覧ください。
👉 大病院からの逆紹介を後押し!新設「特定機能病院等紹介患者受入加算」のポイント

改定内容③:医療機関同士をつなぐ「情報インフラ」の拡充

何が変わったか

3つ目は、連携強化診療情報提供料の見直しです。大病院と地域診療所が患者を共同で管理するための情報共有を、報酬面から支援する仕組みが拡充されました。

主な変更点は3つあります。

変更点1:算定対象医療機関の拡大

これまで特定機能病院等に限定されていた算定対象が、許可病床数200床未満の病院および診療所等まで拡大されます。さらに、対象患者も「紹介された患者」のみから「紹介され、又は他の保険医療機関へ紹介した患者」へと広がりました。

これにより、紹介元と紹介先の双方で算定が可能となります。大病院から地域への逆紹介の場面でも、情報提供が報酬面から支援されることになります。

変更点2:「共同治療管理の合意」に基づく算定要件の追加

病院の専門医師と地域のかかりつけ医師が、患者の治療管理を共同で継続的に行うことに合意し、その合意に基づく紹介であることを確認したうえで情報提供を行った場合にも、算定が認められるようになりました。先述の2人主治医制を、報酬面から直接支援する仕組みです。

これまでは「他の医療機関からの求めに応じた都度の情報提供」が算定の前提でしたが、改定後は事前の合意さえあれば、個別の求めがなくても継続的な情報提供を評価できる枠組みになります。

変更点3:算定回数を3月に1回に統一

従来の算定回数は、注によって月1回と3月に1回が混在しており、現場では複雑な運用となっていました。改定後は、すべての算定区分で患者1人につき3月に1回に統一されます。継続的な治療管理の実態に即した、合理的な設計と言えます。

一過性の「紹介状」から継続的な「マネジメント」へ

今回の見直しは、一過性の「紹介状」を評価する制度から、継続的な「マネジメント・サイクル」を評価する制度への転換と捉えることができます。情報提供を「単発のアクション」ではなく「継続する関係性」として評価する方向性は、2人主治医制の実装に向けた重要な布石です。

詳細はこちらの記事をご覧ください。
👉 連携強化診療情報提供料の見直し|令和8年度改定の3つのポイント

患者・医療機関にとっての変化

患者にとっての変化

今回の改定によって、患者の通院体験は徐々に変わっていくことが見込まれます。日常的な医学管理は地域の診療所で受け、必要なときに大病院の専門外来を受診するという形が一般化していくでしょう。大病院の長い待ち時間から解放される一方で、専門的な検査や治療が必要なときには引き続き大病院の医療を受けられる。両方の良いところを享受できる仕組みです。

大病院にとっての変化

大病院は、頻回に再診を受ける患者のうち地域に戻せる方を能動的に特定し、逆紹介を進める必要があります。経過措置期間中に、対象患者のリストアップと逆紹介先となる地域医療機関とのネットワーク構築を進めることが求められます。

地域の診療所・中小病院にとっての変化

地域の診療所や許可病床数200床未満の病院にとっては、大病院から紹介を受け入れる体制を整えることが、新たな評価につながる機会となります。連携強化診療情報提供料の見直しにより、専門医との情報共有も報酬面から支援されるため、これまで以上に大病院との関係構築に踏み出しやすい環境が整います。

まとめ

令和8年度診療報酬改定における大病院の外来機能分化推進は、「減算規定の強化」「受入加算の新設」「情報提供料の拡充」という3つの仕組みが組み合わさった構造的な改革です。

3つの仕組みは、患者を大病院から地域に押し出し、地域での受入を経済的に支え、両者の関係を継続的につなぎ続ける。これら3つが揃って初めて、2人主治医制という新しい医療提供のあり方が機能します。

医療機関は、自院が「送る側」なのか「受ける側」なのか、あるいはその両方なのかに応じて、経過措置期間内に連携戦略を計画的に組み立てることが求められます。患者にとっても、近隣のかかりつけ医を持つことの価値が、これまで以上に高まっていく改定と言えるでしょう。