病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

訪問看護「同一建物ルール」が令和8年度改定で激変|あなたの施設は影響を受けるか

令和8年度診療報酬改定で、訪問看護の「同一建物ルール」が大きく変わります。特に高齢者住まい等を巡回する訪問看護ステーションにとっては、収益構造に直接影響する内容です。本記事では、訪問看護ステーションの経営者・管理者の方が「自施設は影響を受けるのか」を判断できるよう、実務的なチェックリストとともに改定のポイントを解説します。

結論:影響を受けるかどうかは、この3つの問いで判断できる

ご自身の訪問看護ステーションが今回の改定の影響を受けるかどうか、まず次の3つの問いでセルフチェックしてみてください。

  • 高齢者住まい・サ高住・有料老人ホーム等を巡回しているか
  • 同一日に同じ建物内で10人以上の利用者を訪問することがあるか
  • 1回あたりの訪問時間が30分未満になることがあるか

3つすべてに「はい」なら、収益構造の見直しが急務です。1つでも「はい」があれば、算定要件の確認が必要です。すべて「いいえ」であっても、加算の改定は影響するため、関連箇所のチェックをおすすめします。

なぜ今、見直されるのか|「実態」と「報酬」のズレ

近年、高齢者住まい等への訪問看護では、多人数を短時間で巡回するモデルが急速に広がっています。しかし、現行の訪問看護基本療養費(Ⅱ)は「同一日に2人」「同一日に3人以上」というわずか2区分の評価しかありませんでした。

つまり、同じ建物で10人を訪問しても50人を訪問しても、1人あたりの単価は同額です。中医協の議論では、この粗い評価では大規模施設の効率性が報酬に反映されておらず、適正な評価とは言えないという指摘が繰り返し示されてきました。今回の改定は、この「実態」と「報酬」のズレを是正するものです。

変更点①|人数区分が2区分から5区分に細分化

最も大きな変更が、訪問看護基本療養費(Ⅱ)の人数区分の細分化です。改定後は次の5区分に再編されます。

  • 同一日に2人
  • 同一日に3人以上9人以下
  • 同一日に10人以上19人以下
  • 同一日に20人以上49人以下
  • 同一日に50人以上

新設される10人以上の3区分では、1月あたりの訪問日数による段階評価も導入されます。20日目までと21日目以降で単価が逓減する仕組みで、頻回訪問への抑制圧力が働く設計です。

影響を受けやすい施設タイプ

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームのうち、50戸を超える大規模施設を巡回しているステーションは、特に大きな影響を受けます。1棟あたりの巡回人数が10人を超える時点で、これまでとは異なる点数構造に組み込まれることになります。

変更点②|20分未満の訪問は算定不可に

訪問時間に関する新ルールも見逃せません。改定後は次の要件が追加されます。

  • 訪問時間の標準は30分以上
  • 20分未満の訪問は基本療養費(Ⅱ)および加算が一切算定不可
  • 訪問看護記録書への時間記載が義務化

さらに「2時間ルール」と呼ばれる合算規定も導入されます。前回訪問の終了から2時間未満の間隔で、20分以上30分未満の訪問を行った場合、緊急時を除き、それぞれの所要時間を合算して1回として扱うルールです。短い訪問を分割して複数回算定する運用は、構造的に封じられることになります。

変更点③|「同一敷地内の建物」も同一建物に

同一建物の定義そのものが拡張されます。現行は「単一の建物のみ」でしたが、改定後は「同一の敷地内の建物」も同一建物として扱われます。

具体的に影響するケース

敷地内にA棟・B棟と複数の建物を構えるサ高住や有料老人ホームを巡回している場合、これまでA棟とB棟を別々にカウントしていた施設では、改定後は両棟の合計人数で人数区分が決まります。例えばA棟8人・B棟8人を別カウントしていた施設は、改定後は合計16人として「10人以上19人以下」の区分に該当することになります。

この見直しは、介護保険の取り扱いと完全に整合させる狙いがあります。介護保険では従来から、同一敷地内や隣接する敷地内の建物への訪問看護費に減算が適用されてきました。

変更点④|主要加算も連動して見直し

基本療養費だけでなく、主要な加算も新ルールに連動します。改定対象となる加算は次のとおりです。

  • 難病等複数回訪問加算
  • 複数名訪問看護加算
  • 夜間・早朝訪問看護加算
  • 深夜訪問看護加算

いずれも人数区分に応じた5段階の評価へ再編されます。ただし、加算によって最小区分の切り方や日数階層の適用条件が異なる点には注意が必要です。難病等複数回訪問加算と複数名訪問看護加算は「1人または2人」から始まる5区分ですが、夜間・早朝/深夜加算は「2人」から始まる5区分となっています。

特に注意すべきは夜間・早朝・深夜加算の日数階層です。基本療養費は10人以上の区分で「20日目」を境に逓減しますが、夜間・深夜加算では3人以上の区分で「16日目以降」と、より早い段階で逓減トリガーが発動します。夜間・深夜の頻回訪問への抑制圧力が、特に強く設計されている点に留意が必要です。

なお、各加算の日数階層の適用条件は加算ごとに細かく異なります。例えば難病等複数回訪問加算の場合、日数階層が適用されるのは「1日に3回以上」のケースに限られます。詳細はメルマガ記事で踏み込んで解説していますので、自施設の算定状況と照らし合わせてご確認ください。

例外規定|24時間体制の併設・隣接ステーションは「包括型」へ

すべてのステーションが上記4つの変更点に従うわけではありません。24時間体制で頻回訪問を行う高齢者住まい等併設・隣接ステーションについては、新設される「包括型訪問看護療養費」という定額制の枠組みで別途評価されます。

これは「Ⅱ-5-2の⑧」として新設される枠組みで、加算を積み上げる方式ではなく包括報酬で丸ごと評価される仕組みです。訪問回数をこなすことによるインセンティブが根本から見直され、24時間ケアの提供体制そのものを評価する設計になっています。ご自身のステーションが「加算ルート」と「包括型ルート」のどちらに該当するかは、早急に確認しておく必要があります。

経営者・管理者が今やるべき3つのアクション

施行に向けて、訪問看護ステーション経営者・管理者が取り組むべきアクションを3つに整理しました。

1. 自施設の訪問先を棚卸しする 巡回先の建物ごとに、同一日訪問人数・1月あたり訪問日数・敷地内棟数を一覧化します。改定後にどの人数区分に該当するかを試算するためのベースとなります。

2. 訪問時間の実態を記録ベースで確認する 20分未満の訪問が常態化していないか、2時間以内の連続訪問がどれくらい発生しているかを記録から確認します。改定後は記録への時間記載が義務化されるため、運用ルールの整備も並行して進める必要があります。

3. 「加算ルート」か「包括型ルート」かを判断する 併設・隣接ステーションを運営している場合は、24時間体制の構築可否と、包括型への移行による収益試算を行います。経営判断として大きな分岐点になります。

まとめ|「多人数×短時間」モデルからの戦略的転換が急務

令和8年度改定における同一建物への訪問看護の見直しは、単なる点数の引き下げではありません。敷地拡張で対象者を合算し、人数区分で単価を下げ、時間制限で分割算定を封じるという、包括的な見直しです。

訪問看護ステーションは、「短時間で数を回す」モデルから、「1回30分以上の質の高いケア」または「24時間体制の包括型」への構造転換を求められています。令和8年度の施行までに、自施設の立ち位置を明確にし、必要な体制整備を進めることが急務です。

詳細な改定資料は厚生労働省・令和8年度診療報酬改定ページからご確認いただけます。本テーマをさらに深く知りたい方は、LISTENのポッドキャストエピソードもご視聴ください。