令和8年度診療報酬改定では、個別改定項目「Ⅲ-7⑬ 歯科固有の技術の評価の見直し」により、歯科固有の技術の評価と運用が広く見直されます。対象は管理料から補綴、処置、口腔外科手術まで多岐にわたります。
そのため、点数の上下だけを追っていると、算定要件や項目名の変更を見落としかねません。本稿では、まず3つの柱で全体像を示します。そのうえで、点数が動かないために見落としやすい4つの変更点を取り上げます。
- 令和8年度改定で歯科の技術評価が見直される背景
- 令和8年度改定「歯科固有の技術」3つの柱
- 点数の上下だけを追うと見落とす4つの変更点
- 医療機関が改定までに実行すべき3ステップ
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
令和8年度改定で歯科の技術評価が見直される背景
今回の見直しは、3つの異なる根拠に基づいています。学会等からの提案、歯科技工料調査の結果、そして臨床現場の実態です。個別改定項目には、この3つがそれぞれ見直しの根拠として明記されています。
ここから読み取れる方向性は2つあります。1つ目は、デジタル化の後押しです。光学印象が5割増となり、CAD/CAM関連の内面処理加算1も拡充されます。2つ目は、難易度とリスクの高い術式への評価です。顎関節脱臼非観血的整復術が約2倍になるなど、口腔外科手術の引き上げ幅が際立ちます。
ただし、これらの意図は資料に明記されているわけではありません。あくまで点数の動き方から読み取れる傾向としてご理解ください。
令和8年度改定「歯科固有の技術」3つの柱
見直しの内容は、大きく3つの柱で構成されます。柱ごとに見直しの根拠が異なるため、この区分で整理すると把握しやすくなります。
第1の柱:学会等の提案を踏まえた技術の評価と運用
第1の柱は、学会等から医療技術評価分科会に提案された技術の評価と運用の見直しです。個別改定項目には、対応する優先度が高い技術の「例」として16の技術が挙げられています。あくまで例示であり、見直し対象がこの16で尽きるとは限りません。
この16の技術は、本稿の整理として、管理・指導、デジタル・連携、補綴、手術・処置・麻酔、検査・適応拡大の5領域に分けられます。歯科口腔リハビリテーション料2、歯科遠隔連携診療、Ni-Tiロータリーファイル加算などが含まれます。
なお、第1の柱には具体的な点数が示されていません。示されているのは、見直しを行うという方針だけです。ただし静脈麻酔だけは例外で、歯科点数表に「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」が新設されます。
第2の柱:歯科技工料調査を踏まえた歯冠修復及び欠損補綴等の引き上げ
第2の柱は、歯冠修復及び欠損補綴等の評価の引き上げです。歯科技工料調査の結果等を踏まえた見直しで、掲載された項目はいずれも引き上げとなっています。
主な項目は次のとおりです。
- 光学印象(1歯につき):100点 → 150点
- 総義歯(1顎につき):2,420点 → 2,500点
- 高強度硬質レジンブリッジ(1装置につき):2,800点 → 3,000点
- 内面処理加算1 CAD/CAM冠:45点 → 55点
- 根面被覆 根面板によるもの:195点 → 225点
光学印象は5割の引き上げで、第2の柱のなかで最も引き上げ率が高い項目です。このほか支台築造や磁性アタッチメントも引き上げられます。全項目の一覧は、記事末尾のスライド版でご確認ください。
第3の柱:臨床現場の実態を踏まえた処置と口腔外科手術の見直し
第3の柱は、処置と口腔外科手術の評価の見直しです。特に口腔外科手術は、数百点から千点を超える幅で引き上げられる項目が並びます。
主な項目は次のとおりです。
- 顎関節脱臼非観血的整復術:410点 → 800点
- がま腫切開術:820点 → 1,230点
- 唾石摘出術(一連につき)表在性のもの:720点 → 1,080点
- 顎骨腫瘍摘出術(歯根嚢胞を除く)長径3センチメートル未満:2,820点 → 4,020点
- 広範囲顎骨支持型装置掻爬術(1顎につき):1,800点 → 3,300点
顎関節脱臼非観血的整復術は約2倍、がま腫切開術と唾石摘出術はそれぞれ1.5倍の水準です。口腔外科手術を扱う医療機関ほど、影響は大きくなります。
点数の上下だけを追うと見落とす4つの変更点
ここからが本稿の本題です。今回の見直しには、点数の増減だけを確認していると見落とす変更が4つあります。いずれも点数の更新だけでは対応が完結せず、算定漏れやレセプトの返戻につながりかねません。
1. 象牙質レジンコーティングの算定範囲が狭まる
象牙質レジンコーティングは、点数ではなく算定要件が変わります。現行では、生活歯歯冠形成を行った場合に「歯冠形成から装着までの一連の行為」につき1回に限り算定します。改定案では、この範囲が「歯冠形成から印象採得までの一連の行為」に改められます。
つまり、「1回に限り」と数える区切りが、装着の時点から印象採得の時点へと前倒しになります。実際の算定の取扱いは告示及び通知でご確認いただいたうえで、ドクターと事務スタッフの間で院内ルールを再確認してください。
2. 「バー」が「大連結子」に区分名変更となる
大連結子は、点数と名称の両方が変わります。鋳造バーは458点から468点となり、あわせて現行の【バー】という区分名が【大連結子】に改められます。
区分名の変更は、レセプト電算処理システムのマスタにも及びます。点数の更新だけでは対応が完結しない点に注意が必要です。
3. 「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」が新設される
静脈麻酔は、点数表の項目そのものが新設されます。医科点数表の見直しも踏まえ、歯科点数表に「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」が新たに設けられます。
算定する項目名が変わるため、マスタに新項目が追加されるまで算定できない状態が生じかねません。麻酔を実施している医療機関は、ベンダーへの確認を早めに済ませてください。
4. 腐骨除去手術の加算に限定要件がある
腐骨除去手術の加算は、対象が限定されている点に注意が必要です。骨吸収抑制薬関連顎骨壊死又は放射線性顎骨壊死に対して手術を行った場合の加算は、1,000点から1,200点に引き上げられます。
ただし、この加算の対象は「2 顎骨に及ぶもの」の「イ 片側の3分の1未満の範囲のもの」に限られます。「ロ 片側の3分の1以上の範囲のもの」は対象外です。手術範囲が広い区分のほうが加算を算定できないため、算定時の確認が欠かせません。
医療機関が改定までに実行すべき3ステップ
改定内容を実務に落とし込むには、3つの作業が必要です。以下は個別改定項目に書かれた内容ではなく、実務上の備えとしての提案です。
第1に、自院で算定実績のある技術を洗い出し、今回の見直し対象と突き合わせます。口腔外科手術のように引き上げ幅の大きい項目は、切り替え漏れがそのまま減収につながります。
第2に、象牙質レジンコーティングのように算定要件そのものが変わる項目を抽出し、算定タイミングを院内で共有します。
第3に、【バー】から【大連結子】への名称変更や「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」の新設に備え、電子カルテとレセプトコンピュータのマスタ更新時期をベンダーに確認します。
よくある質問(FAQ)
- 令和8年度改定で最も引き上げ率が大きい歯科の技術は何ですか。
- 個別改定項目に掲載された項目のなかでは、顎関節脱臼非観血的整復術です。410点から800点へと約2倍の引き上げとなります。このほか引き上げ率が高い項目としては、広範囲顎骨支持型装置掻爬術が1,800点から3,300点、抜歯手術「4」の加算が130点から230点で、いずれも約1.8倍です。歯冠修復及び欠損補綴等では、光学印象が100点から150点へと5割の引き上げで最大となります。
- 点数の増減以外に注意すべき変更はありますか。
- 3つあります。1つ目は象牙質レジンコーティングで、点数は変わらないものの、算定する一連の行為の範囲が「歯冠形成から装着まで」から「歯冠形成から印象採得まで」に改められます。2つ目は区分名の変更で、現行の【バー】が【大連結子】になります。鋳造バーは458点から468点へと点数も引き上げられます。3つ目は項目の新設で、歯科点数表に「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」が設けられます。いずれもレセプトコンピュータのマスタ更新が必要となる変更です。
- 腐骨除去手術の顎骨壊死に対する加算は、どの区分でも算定できますか。
- 算定できません。この加算の対象は「2 顎骨に及ぶもの」の「イ 片側の3分の1未満の範囲のもの」に限られ、「ロ 片側の3分の1以上の範囲のもの」は対象外です。加算の評価は1,000点から1,200点に引き上げられますが、手術範囲が広い区分では算定できない点にご注意ください。
まとめ
令和8年度診療報酬改定における「歯科固有の技術の評価の見直し」は、学会等の提案、歯科技工料調査、臨床現場の実態という3つの柱で構成されます。掲載された項目はいずれも引き上げの方向で、特に口腔外科手術の引き上げ幅が際立ちます。
一方で、実務上のリスクが大きいのは、点数の増減だけでは対応しきれない変更です。象牙質レジンコーティングの算定範囲、【バー】から【大連結子】への名称変更、「歯科吸入麻酔又は歯科静脈麻酔」の新設、そして腐骨除去手術の加算の限定要件の4つを、改定前に確認しておいてください。
全項目の新旧点数一覧は、スライド版にまとめています。あわせて、対話形式での深掘りはLISTENのエピソードをご視聴ください。