病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】手術医療技術の評価4つの柱|CT128列・K046が15区分へ

ロボット支援手術、治療用アプリ、最新CT機器。日進月歩の医療技術に、診療報酬のルールが追いついていません。最新の治療を提供するほど医療機関が赤字を抱える――この矛盾を解消するため、令和8年度診療報酬改定では「手術等の医療技術の適切な評価」が4つの柱で見直されます。本記事では、改定の本質と経営・実務への影響を解説します。

なぜ今、医療技術評価の見直しが必要なのか

最先端の技術と既存の算定ルールの間には、大きなギャップが生じています。

医療技術は日々進歩する一方、診療報酬上の評価は人件費や材料費の実態に追いついていません。その結果、高度な技術を提供する医療機関ほど持ち出しが増え、経営を圧迫する構造が生まれています。これは個別の医療機関の問題ではなく、日本の医療提供体制全体の持続可能性に関わる課題です。

国の医療財源には上限があります。だからこそ、客観的なデータに基づき、有効な最新治療には適切な予算を回し、役割を終えた技術はシビアに見直すという「技術のトリアージ」が必要になります。今回の改定の本質は、まさにこの「実態とルールのズレを補正する精緻な再設計」にあります。

改定の全体像|評価見直しの4つの柱

今回の改定では、客観的エビデンスに基づく4つのアプローチで評価体系がアップデートされます。

第1に、医療技術評価分科会の検討結果を踏まえた新規技術の保険導入と既存技術の再評価です。第2に、新規医療材料の特性に応じた準用点数からの独立評価です。第3に、外保連試案2026を反映した実態コストとの同期です。第4に、STEM7解析に基づくKコードの部位別細分化です。それぞれを順に見ていきましょう。

柱①|新規技術の保険導入と「技術の新陳代謝」

第1の柱は、医療技術の健全な「新陳代謝」を促す仕組みです。エビデンスに基づき、新しい技術を取り入れ、役割を終えた技術を退場させます。

新たに保険適用される高優先度技術

学会等から提案された優先度の高い技術として、原資料には5項目が例示されています。具体的には、骨盤内臓全摘術(ロボット支援)、死体移植腎機械灌流保存技術、自己免疫性脳炎に対する血漿交換療法、肝エラストグラフィ撮影加算、細菌培養同定検査(血液又は穿刺液)です。ロボット支援手術から検査技術まで、幅広い領域で新規評価が行われることが分かります。

先進医療として実施されている陽子線治療・重粒子線治療も対象となりますが、こちらは「切除不能の3個以内の大腸癌肺転移で、かつ原発巣切除後・局所再発なし」という限定条件が付く点に注意が必要です。

注目すべきは、デジタル医療の評価が進んでいる点です。「注意欠如多動症治療補助プログラム」の使用に係る医療技術や、在宅振戦等刺激装置治療指導管理料および疼痛等管理用送信器加算における遠隔プログラミングの算定対象化は、デジタル技術を活用した新しい医療提供形態を診療報酬が認めたことを意味します。

廃止される技術

一方、エビデンスが乏しくなった技術は廃止されます。今回の例として、ヒッチコック療法が廃止技術として挙げられています。臨床的な使用実績や有効性のエビデンスを踏まえ、診療報酬上の評価から削除される技術が整理されるかたちです。

LDTsの次期改定への布石

加えて、検査室または検査室ネットワーク内で独自に設計・開発される検査であるLDTs(Laboratory Developed Tests)についても、今後の評価方針が示されました。性能評価や精度管理等の要件を満たす施設で実施され、かつ国内診療で一定の使用実績があるものを、次期改定(令和10年度想定)の評価対象とする方向です。LDTsを実施している施設は、今のうちから精度管理体制の整備を進めておく必要があります。

柱②|C2区分の医療材料に「独立した技術料」を新設

第2の柱は、新規医療材料の特性に応じた独立評価です。

これまで新規医療材料が保険適用されても、技術料は既存の類似技術の点数を「準用」して算定する仕組みでした。しかし、材料の特性が既存技術と大きく異なる場合、準用ではコストの実態を反映できません。今回の改定では、C2区分で保険適用された材料について、独立した技術料が新設されました。

具体例が、植込型除細動器移植術における「胸骨下植込型リードを用いるもの」の新設です。24,310点が独立した技術料として設定され、従来の経静脈リードを用いるものと区別された評価が可能になります。新しい材料の特性に見合った、適正な算定への一歩です。

柱③|外保連試案2026がもたらすCT撮影の評価シフト

第3の柱は、外保連試案2026に基づく技術料の見直しです。代表例がCT撮影の評価区分の変更です。

外保連試案とは、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)が各術式に要する人件費や材料費を積算したデータです。現場のリアルなコストに基づくため、診療報酬の適正化を検討する際の重要な参考資料となっています。

CT撮影は4区分から5区分へ

今回の改定で、CT撮影の評価区分は4区分から5区分に再編されます。最大の変更点は、最上位区分として「128列以上のマルチスライス型」が新設されることです。

機器スペック 改定後の点数(共同利用施設 / その他)
128列以上(新設) 1,120点 / 1,100点
64列以上128列未満 1,020点 / 1,000点
16列以上64列未満 900点
4列以上16列未満 750点
その他 560点

128列以上のCT機器を保有する施設は、施設基準の届出により上位区分での算定が可能になります。機器更新を検討している医療機関にとっては、強いインセンティブとなる改定です。

柱④|整形外科Kコードが部位別に細分化|K046は3区分→15区分

第4の柱は、整形外科領域のKコードの部位別細分化です。これは今回の改定で最もインパクトの大きい変更のひとつと言えます。

なぜ細分化するのか|STEM7解析が示した「ルールの破綻」

背景にあるのは、外科系学会の手術基幹コードであるSTEM7のデータ解析です。これまで同一点数でまとめられていた部位間で、明らかな手術時間や手間の差があることが客観的に証明されました。つまり、「複雑な手術と比較的簡単な手術が同じ点数で評価されている」という既存ルールの破綻がデータで示されたのです。

K046 骨折観血的手術は3区分から15区分へ

代表例が骨折観血的手術(K046)です。現行の3区分が、改定後は15区分に細分化されます。点数水準そのものは3階層(21,630点/18,370点/11,370点)を維持しつつ、レセプト記載が特定の骨ごとに整理されます。

点数水準 該当部位
21,630点 肩甲骨、上腕骨、大腿骨
18,370点 前腕骨、下腿骨、手舟状骨
11,370点 鎖骨、膝蓋骨、手根骨(舟状骨除く)、中手骨、手指骨、足根骨、中足骨、足趾骨、その他

細分化のメリットと注意点

部位別細分化により、診療実態の明確化と統計データの精緻化が同時に実現します。難易度の高い手術を引き受ける医療機関にとっては、努力が可視化される改定です。

一方で、医事担当者にとっては電子カルテのテンプレート改修やレセプト入力ルールの再徹底が必要になります。事務負担の増加は避けられませんが、適正な算定のためには欠かせない対応です。

改定告示後に取るべき3つの実務アクション

今回の改定は、正確に対応すれば適正な収益化に直結します。改定告示後、速やかに以下の3点に着手することをお勧めします。

第1に、施設基準の届出と機材戦略の見直しです。CT機器128列以上の保有施設は、要件を満たす場合の速やかな施設基準届出を進めましょう。機器更新を検討している施設は、128列以上の導入を前倒しで検討する価値があります。

第2に、レセプト記載の最適化です。整形外科Kコード、特にK046の15区分化に伴い、電子カルテ上のテンプレート改修と入力ルールの徹底が必須となります。現場の医師・看護師への周知も並行して進める必要があります。

第3に、LDTs・新規技術の要件確認です。LDTsを実施している施設は、次期改定への布石として精度管理体制の客観的担保を整備しましょう。あわせて、新規導入技術の算定要件のチェックも進めてください。

まとめ|「実態に即したアップデート」の意味を読み解く

令和8年度診療報酬改定における手術等の医療技術の評価は、単なる点数の付け替えではありません。古いものを削り、新しいものを正しく評価する「実態に即したアップデート」です。

評価分科会、C2区分独立評価、外保連試案2026、STEM7解析。この4つのエビデンスに基づく改定の本質は、「どんぶり勘定からの脱却」と「医療機関の持ち出しを防ぐ精緻なルールへの転換」にあります。

施設基準の届出、レセプト運用、LDTsへの対応など、実務に直結する変更が多数含まれています。改定告示・通知の発出後、速やかに自院の対応状況を点検することが、適正な収益化への第一歩となります。

本記事の内容は、ポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。音声で理解を深めたい方は、ぜひLISTENのエピソードもお聴きください。