病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

へき地診療所の在総管・施設総管はこう変わる|令和8年度改定の常勤要件緩和を解説

「うちの診療所、常勤医師を確保できない。在総管なんて算定できない」――こう諦めてきたへき地診療所に、令和8年度診療報酬改定で大きな転換点が訪れます。

本記事では、改定のポイントを早見表・ケーススタディ・実務チェックリスト・FAQの4つの切り口で整理します。「自院は対象になるのか」「何から準備すればいいのか」が、読み終える頃には明確になります。

なお、改定の制度的背景や政策意図についてはメルマガ本文で詳しく解説しています。本記事は実務担当者が今すぐ動くための情報に特化しました。

改定ポイント早見表:30秒で把握する

まず、今回の改定を一目で把握できる早見表をご覧ください。

項目 これまで 令和8年度以降
算定可能な医師 常勤医師のみ 非常勤医師でも可(連携先と兼務が前提)
時間外対応の主体 へき地診療所が単独で確保 派遣元の保険医療機関が確保
24時間診療体制 へき地診療所が単独で確保 両施設が連携して確保(時間外は派遣元が担当)
対象施設 全診療所 指定されたへき地診療所のみ
へき地診療所の状況 常勤医師確保困難で算定断念 連携医師の兼務で算定可能

ポイントは2つに集約されます。1つ目は、「常勤」という形式から「24時間対応」という実質へ評価軸が移ったこと。2つ目は、単一施設の頑張りから施設間ネットワークへ提供体制の前提が変わったことです。

ケーススタディ:A診療所はどう変わるか

具体的なイメージを掴むため、典型的なケースで考えてみましょう。

Case:人口3,000人のへき地に立地するA診療所

A診療所は、へき地保健医療対策事業に基づく指定を受けたへき地診療所です。診療を担うのは、医師1名のみ。この医師は、A診療所と、近隣B市にあるへき地医療拠点病院(派遣元)の両方で勤務する兼務医師です。

現行制度では:A診療所には常勤医師がいないため、在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料(在総管・施設総管)を算定できませんでした。在宅医療のニーズが高いにもかかわらず、訪問診療を本格展開できない状況が続いていました。

令和8年度改定後は:兼務医師の存在により、両管理料の算定が可能になります。条件は、夜間・休日の緊急時対応を派遣元のへき地医療拠点病院が引き受けることです。

このケースのように、「兼務医師+派遣元の24時間体制」が成立すれば、これまで諦めていた在宅医療の本格展開が現実のものとなります。

算定可能になるための「3つの条件」

要件緩和を受けるには、以下の3条件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると算定できません。

条件1:対象施設であること

対象は、「へき地保健医療対策事業について」(平成13年5月16日医政発第529号)に規定するへき地診療所のみです。一般の診療所は、たとえ過疎地に立地していても対象外となります。自院がこの指定を受けているかどうかは、開設時の届出書類または都道府県の担当課で確認できます。

条件2:派遣元が要件を満たす医療機関であること

連携先となる派遣元医療機関は、次のいずれかでなければなりません。

  • へき地医療拠点病院
  • 医療提供機能連携確保加算を算定する別の保険医療機関

ここで注意したいのは、「別の」という限定です。へき地診療所自身が同加算を算定していても要件は満たしません。あくまで外部の連携医療機関が必要です。

条件3:実質的な24時間体制が機能していること

派遣元医療機関は、緊急時の連絡体制と24時間診療体制をへき地診療所と連携して確保する責務を負います。形式的な協定書だけでは不十分で、実際に夜間・休日の急変対応が機能している必要があります。

算定否認リスクを下げる7つの確認事項

連携体制の構築後、算定否認リスクを下げるために確認すべき項目を整理しました。準備段階から運用段階まで、順を追って進めていきます。

準備段階

  • [ ] 施設基準の確認:自院が平成13年通知に基づくへき地診療所の指定を受けているか
  • [ ] 派遣元候補の選定:要件を満たす医療機関を地域から選定したか
  • [ ] 連携協議の議事録作成:協議内容と合意事項を文書化したか

運用設計段階

  • [ ] 協定書の締結:両施設間で連携協定書を締結したか
  • [ ] 運用マニュアルの整備:時間外連絡・緊急時対応の手順を文書化したか
  • [ ] 兼務医師のシフト整備:両施設での勤務体制と責任所在を明確にしたか

運用継続段階

  • [ ] 対応実績の記録(推奨):実際の時間外対応をログとして残しているか

最後の「対応実績の記録」は、施設基準で明文化された必須要件ではありませんが、実態のある連携を証明する有効な手段となります。形式的な連携にとどまり実態が伴わない場合、施設基準を満たさないと判断されるリスクがあります。月次での体制確認会議や、対応事例の記録化を運用ルールに組み込んでおくと安心です。

よくある質問(FAQ)

実務担当者から想定される疑問について、Q&A形式で整理しました。

Q1. へき地診療所の指定を受けていない場合、今回の緩和は適用されますか?

  1. 適用されません。今回の緩和措置は、「へき地保健医療対策事業について」に規定するへき地診療所に限定されます。一般の診療所は、立地が山間部・離島であっても対象外です。

Q2. 派遣元の病院は、どの程度の距離まで認められますか?

  1. 原文の施設基準では、距離に関する数値基準は規定されていません。実質的に24時間診療体制が機能することが要件のため、緊急時に対応可能な範囲かどうかが実態で判断されます。

Q3. 同じ医師が両施設で勤務する以外に、別の連携形態は認められますか?

  1. 改定の施設基準では、へき地診療所の医師が派遣元医療機関でも勤務している場合を要件としています。別々の医師による連携形態は、本特例の対象外となります。

Q4. 形式的に協定書を結ぶだけで算定は認められますか?

  1. 認められません。実態のある連携が必須です。具体的には、運用マニュアルの整備や定期的な体制確認など、連携が実際に機能している証拠を残すことが望まれます。協定書の存在だけでは、施設基準を満たさないと判断される可能性があります。

Q5. 改定後すぐに算定を始めるには、いつから準備すべきですか?

  1. 連携協議・協定書締結・運用マニュアル整備には数ヶ月単位の時間が必要となるケースが一般的です。早期の準備着手が、円滑な算定開始につながります。

まとめ:「人」から「システム」への転換期

令和8年度改定のへき地診療所における在総管・施設総管の見直しは、常勤医師という「人」に依存するモデルから、施設間ネットワークという「システム」で支えるモデルへの転換を意味します。

この転換に対応できるかどうかは、対象施設の自助努力だけでは決まりません。派遣元との早期協議実態のある連携体制の構築が、今後の在宅医療継続の分かれ目となります。

自院が対象に該当する医療機関は、まず施設基準の確認から始めてみてください。本記事のチェックリストが、その第一歩のお役に立てば幸いです。

本記事の内容は、ポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。通勤時間や移動中にも学べる音声版を、LISTENのエピソードからお聴きいただけます。