病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】療養担当規則「第二条の五の二」新設|在宅・介護への誘導禁止と実務対応

退院支援で訪問看護ステーションを案内する。介護保険施設を紹介する。これらの日常業務に、令和8年度診療報酬改定で新たな規律が設けられます。保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下、療養担当規則)に新設される「第二条の五の二」です。この見直しは、「健康保険事業の健全な運営の確保」を目的として、誘導禁止の対象を在宅・介護関連サービスへ拡張するものです。本記事では、新設規定の趣旨と内容を、現場で押さえるべきポイントに絞って解説します。

改定の背景:在宅医療領域における規制の空白

背景には、保険医療機関から特定の訪問看護ステーションや高齢者住まい等への誘導が、社会保障費の不適切な費消を招く事例が顕在化したことがあります。

第1に、現行の療養担当規則(第二条の五)では、誘導禁止の対象が保険薬局に限定されており、在宅医療・訪問看護領域における規制の空白が存在していました。処方箋の交付に関して特定の保険薬局へ患者を誘導することは禁じられている一方、退院後の療養先である訪問看護ステーションや高齢者住まいへの誘導には、ルールが及んでいなかったのです。

第2に、この規制空白が在宅医療現場における高収益構造と結びつく実態が確認されました。介護保険の訪問看護の収支差率は平均5.9%ですが、高齢者住まい等に併設する訪問看護ステーションを運営する一部の事業者では、全社ベースの営業利益率が20%を超えるケースも報告されています。なお、この営業利益率は訪問看護事業以外を含む全社ベースの数値である点には留意が必要ですが、それでも平均との乖離は明らかです。

第3に、要介護度や医療必要度に応じて高額な紹介手数料が設定される事例もあり、社会保障費の使途として疑念を持たれる実態がありました。こうした問題を踏まえ、中医協での議論を経て、新設規定の整備が必要との結論に至っています。

新設「第二条の五の二」の規制内容と対象事業者

新設される第二条の五の二は、保険医療機関による特定事業者等への誘導を、対償としての利益収受の側面から禁止する規定です。

第1に、保険医療機関が患者に対し特定の事業者等を利用すべき旨の指示等を行うことと、その指示等の対償として当該事業者等から金品その他の財産上の利益を収受すること、この2つが結びついた行為が禁止されます。重要なのは、案内行為そのものが禁止されるわけではないという点です。紹介と利益収受が対価関係として結びつくこと、これが違反の成立要件となります。

第2に、規制対象には、訪問看護、特定施設、認知症グループホーム等の地域密着型サービス、居宅介護支援、介護保険施設の5区分が幅広く含まれます。これらは、保険医療機関の患者が在宅・施設での療養生活へ移行する際に利用するサービスを、ほぼ網羅した範囲です。退院支援に関わるほとんどの連携先が対象となる、と理解しておくべきでしょう。

第3に、上記事業者と特別の関係にある事業者も対象に含まれます。これにより、関連法人を経由した業務委託費やコンサルティング料の名目で、実質的に紹介の対価として授受されるような迂回的な利益収受も封じられます。なお、本規定は高齢者の医療の確保に関する法律に基づく取扱基準についても、同様の改正が行われる予定です。

現場への影響:退院支援・在宅移行で求められる実務対応

新設規定の施行により、保険医療機関は退院支援や在宅移行支援の場面で、特定事業者の紹介に伴う金銭関係の整理が必須となります。

第1に、紹介と利益収受の関係性を切り離して運用することが求められます。たとえば、系列法人の訪問看護ステーションへ患者を紹介し、その対価として本部に業務委託費が支払われている場合、この金銭が「患者紹介の対償」と評価されるリスクがないかを検証する必要があります。とくに、高齢者住まいに併設する訪問看護ステーションを系列で運営する場合は、患者の囲い込みと利益収受の関係が問われやすく、契約全体の見直しが急務です。

第2に、患者の選択権を確保する仕組み作りが重要性を増します。複数の選択肢を客観的な情報(料金・サービス内容等)とともにパンフレット等で提示すること、患者の意向を尊重した紹介を行うこと、紹介経緯と判断根拠を診療録等に記録することが、実務上の標準対応として求められます。

第3に、診療録への記録ルール標準化が、コンプライアンスの最終防衛線となります。具体的には、提示した選択肢、判断の根拠と経緯、患者の最終意向、この3点を記載することで、誘導を行っていないことを客観的に証明できます。施設内で標準フォーマットを整備しておくことを推奨します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 紹介行為そのものが禁止されるのですか?

いいえ。紹介や案内すること自体は禁止されません。紹介と利益収受が「対価関係」として結びつくことが違反となります。退院支援部門が日常的に行う複数事業者の案内業務は、引き続き必要な業務です。

Q2. 系列法人への業務委託費はすべて違反になりますか?

業務実態に基づく正当な委託費であれば問題ありません。ただし、紹介の対償と評価されない金銭関係になっているか、契約内容の精査が必要です。委託業務の内容、金額の合理性、紹介数との連動性などが論点となります。

Q3. 「特別の関係にある事業者」とは具体的にどのような事業者ですか?

5区分の対象事業者と併せて利用される事業者であって、当該事業者と特別の関係にある事業者を指します。詳細な定義は今後の通知等で示される見込みですが、関連会社や別法人を経由した迂回的な利益収受も対象となる構造です。

まとめ:療養担当規則の規律拡張で守られる患者の選択権

令和8年度改定で新設される療養担当規則第二条の五の二は、保険医療機関から在宅・介護関連サービスへの誘導と利益収受を禁止する規定です。この規律拡張により、患者が自由な意思で在宅・介護サービスを選択できる透明な環境が守られることが期待されます。保険医療機関の現場では、退院支援における紹介行為と金銭関係の整理、患者の選択権を確保する運用ルールの再点検、そして診療録への記録標準化が求められます。

本記事の内容は、以下のLISTENエピソードでも詳しく解説しています。あわせてご視聴ください。 令和8年度改定で新設!療養担当規則の誘導禁止規定を徹底解説 - LISTEN