令和8年度診療報酬改定では、感染症に係る検査の算定要件が見直されます。なかでも注意したいのが、マルチプレックスPCRです。これまで届出が不要だった区分に施設基準が適用されるため、対応が間に合わなければ算定できなくなります。本記事では、見直しの対象となる3つの検査を、実務への影響が大きい順に整理します。
- 令和8年度改定で変わる感染症検査は3つ
- マルチプレックスPCR:施設基準の届出がないと算定できない
- 同時抗原検査:「COVID-19だけを疑う」では算定できない
- 細菌薬剤感受性検査:多剤耐性菌への追加検査が算定できる
- 施行に向けて確認したい3つのポイント
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
令和8年度改定で変わる感染症検査は3つ
今回の見直しは、抗菌薬と検査の適正使用を軸としています。必要な検査には評価を広げ、必要性の低い検査は絞り込むという、2つの方向が同時に動きます。対象となる検査と変更の方向は、次のとおりです。
| 検査 | 変更の方向 | 実務への影響 |
|---|---|---|
| マルチプレックスPCR | 体系再編・厳格化 | 施設基準の届出が新たに必要 |
| 同時抗原検査 | 厳格化 | オーダー基準の見直しが必要 |
| 細菌薬剤感受性検査 | 拡大 | 追加検査を算定できる |
以下、影響の大きい順に見ていきます。
マルチプレックスPCR:施設基準の届出がないと算定できない
マルチプレックスPCR(ウイルス・細菌核酸多項目同時検出)は、3つの検査のうち最も影響が大きい見直しです。理由は、要件の適用範囲が一気に広がるためです。
現行では、施設基準の届出と対象患者の限定は、SARS-CoV-2核酸検出を「含まないもの」にのみ課されています。しかし、令和5年度の算定回数を見ると、99%以上を「含むもの」が占めています。つまり、実際に算定されている検査のほとんどが、施設基準と対象患者の要件の外側にありました。ただし、「含むもの」が無条件で算定できたわけではありません。現行でも「COVID-19が疑われる患者であって、医学的に多項目の病原微生物の検索の必要性が高いと考えられる場合」という算定要件は課されています。
改定後は、この要件が区分全体にかかります。SARS-CoV-2核酸検出を含む検査を実施している医療機関は、届出を行わなければ算定できません。点数そのものは、含むものが1,350点、含まないものが963点で据え置かれるため、変わるのは要件の構造のほうだと理解してください。
対象患者の定義も見直されます。現行は「重症の呼吸器感染症と診断された、又は疑われる患者」と「集中治療を要する患者」のいずれにも該当することが必要でした。改定後は、次のいずれかに該当すればよくなります。
- 重症の呼吸器感染症と診断された、又は疑われる患者であって、集中治療を要する患者
- COVID-19又はインフルエンザウイルス感染症等が疑われ、重症化のおそれが高い患者
2つ目は新たに追加された類型で、日本感染症学会の実施指針を踏まえたものです。集中治療室の外にいる重症化リスクの高い患者にも、算定の道が開かれます。届出は必要になるものの、対象患者そのものは広がる点を押さえておきましょう。
同時抗原検査:「COVID-19だけを疑う」では算定できない
同時抗原検査は、算定できる患者が明確に狭まります。改定後は、その検査が同時に検出する感染症のすべてが疑われる患者に限定されるためです。
対象となるのは、次の3つの検査です。
- SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス抗原同時検出定性
- SARS-CoV-2・RSウイルス抗原同時検出定性
- SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス・RSウイルス抗原同時検出定性
現行の算定要件は、対象患者を「COVID-19が疑われる患者」とのみ定めています。そのため、インフルエンザやRSウイルスを疑っていない発熱患者への網羅的なスクリーニングでも算定できる状態でした。改定後は、たとえばSARS-CoV-2・インフルエンザウイルス抗原同時検出定性であれば、両方の感染症が疑われ、かつ両者の診断を目的とする場合に限られます。
この見直しの背景には、関係学会からの提言があります。日本感染症学会と日本臨床微生物学会は、令和7年8月25日の提言で、COVID-19とインフルエンザのいずれか一方しか流行していない時期については、特別な必要性がない場合は単独の検査キットを優先的に使用することが望ましいとしています。流行状況に応じてキットを使い分けるという考え方が、算定要件に反映された形です。
実務上は、救急外来や一般外来のオーダー基準の見直しが必要になります。「発熱患者には一律に同時検査キット」という運用を続けている場合、算定要件を満たさず査定の対象となるおそれがあります。
細菌薬剤感受性検査:多剤耐性菌への追加検査が算定できる
細菌薬剤感受性検査は、3つのなかで唯一、算定の幅が広がる見直しです。多剤耐性菌に有効な抗菌薬の適応判定を行う場合に、再度の算定が認められます。
この見直しの背景には、新規抗菌薬と検査機器のギャップがあります。近年承認されたセフィデロコル(CFDC)、セフタジジム・アビバクタム(AVI/CAZ)、レレバクタム・イミペネム・シラスタチン(REL/IPM)は、従来の抗菌薬の薬剤感受性検査と同時に測定できません。そのため、別途、追加で薬剤感受性パネルを用いた検査を実施する必要があります。一方で、本検査は一連の治療につき1回に限り算定するのが原則であり、追加分を算定できるかが明確ではありませんでした。
改定後は、次の2つをともに満たす場合に、改めて所定点数を算定できます。
- 細菌薬剤感受性検査の結果、カルバペネム系抗菌薬を含む通常の治療で用いられる抗菌薬に対する非感受性又は耐性が確認されること
- カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)等、多剤耐性を有する細菌に対して有効な抗菌薬の適応判定を行う必要があること
新たな点数が新設されるわけではなく、既存の点数を再度算定できることの明確化である点にご注意ください。
施行に向けて確認したい3つのポイント
施行までに着手すべき対応は、次の3点に整理できます。
1. 届出状況の確認(マルチプレックスPCR) SARS-CoV-2核酸検出を含む検査を実施している場合、施設基準への適合と届出の準備を確認します。影響範囲が最も大きく、最優先の対応です。
2. オーダー基準の見直し(同時抗原検査) 救急・外来部門で同時抗原検査キットをどう使うか、基準を明文化して臨床医に周知します。
3. 検査室と医事課の連携(細菌薬剤感受性検査) 追加の薬剤感受性検査が発生した際、算定の条件を満たすことが医事課に伝わり、レセプトに反映される流れを整えます。
よくある質問(FAQ)
- SARS-CoV-2核酸検出を含むマルチプレックスPCRを実施していますが、これまで届出は不要でした。改定後も算定できますか。
- 改定後は、SARS-CoV-2核酸検出を含むものも施設基準の届出が必要になります。届出を行っていない場合、算定できません。施設基準からは「対象患者の治療を行うにつき十分な体制が整備されていること」が削除され、医師の配置のみとなりますが、適用される範囲は区分全体に広がります。なお、現行の施設基準では、感染症に係る診療又は臨床検査を専ら担当する常勤の医師(いずれも当該分野の経験5年以上)の配置が求められており、医師要件の詳細は今後の通知で確認が必要です。令和5年度の算定回数の99%以上をこの区分が占めるため、多くの医療機関で新たに届出が必要になると考えられます。
- 同時抗原検査は、COVID-19のみを疑う発熱患者に実施した場合も算定できますか。
- 算定できません。改定後は、その検査が同時に検出する感染症のすべてが疑われ、かつすべての診断を目的とする場合に限られます。たとえばSARS-CoV-2・インフルエンザウイルス抗原同時検出定性であれば、COVID-19とインフルエンザウイルス感染症の両方が疑われることが必要です。一方の疾患のみを疑う場合は、単独の検査キットを使用することになります。
- 細菌薬剤感受性検査を再度算定できるのは、どのような場合ですか。
- 2つの条件をともに満たす場合です。第1に、細菌薬剤感受性検査の結果、カルバペネム系抗菌薬を含む通常の治療で用いられる抗菌薬に対する非感受性又は耐性が確認されることです。第2に、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)等、多剤耐性を有する細菌に対して有効な抗菌薬の適応判定を行う必要があることです。この2つを満たして本検査を再度実施した場合に、改めて所定点数を算定できます。
まとめ
令和8年度改定の感染症検査の見直しは、マルチプレックスPCR、同時抗原検査、細菌薬剤感受性検査の3点に及びます。3つに共通するのは、抗菌薬と検査の適正使用という視点です。念のための検査を広く行うのではなく、必要な患者に必要な検査を届ける。この考え方が、算定要件と施設基準の両面から具体化されました。
なかでも急ぐべきは、マルチプレックスPCRの届出です。要件そのものは簡素化される一方で、適用範囲が広がるため、これまで届出が不要だった医療機関ほど対応が必要になります。まずは自院で算定している検査の区分を洗い出すところから始めてみてください。
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