令和8年度診療報酬改定で、微生物学的検査体制加算30点が新設されます。この加算を算定できるのは、感染対策向上加算1を届け出ている医療機関のうち、院内に微生物学的検査室を有する施設に限られます。
ただし、検査室があれば算定できるわけではありません。通知は、検査室を業務に「活用していること」まで求めています。本記事では、自院が算定対象に該当するかを判断するために、算定の条件、対象から外れるケース、届出前の確認事項を順に整理します。
- 微生物学的検査体制加算とは|感染対策向上加算1に上乗せする30点
- 施設基準は告示と通知の2段階|「有する」だけでは足りない
- 算定対象から外れる3つのケース
- 評価の根拠となったデータ
- 届出前に確認すべきこと
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
微生物学的検査体制加算とは|感染対策向上加算1に上乗せする30点
微生物学的検査体制加算は、感染対策向上加算1の所定点数に上乗せして算定する加算です。点数は30点です。単独では算定できず、感染対策向上加算1の算定が前提になります。
告示の文言は「感染対策向上加算1を算定する場合について、(中略)保険医療機関に入院している患者については、微生物学的検査体制加算として、30点を更に所定点数に加算する」となっています。入院患者に対する加算である点を押さえておいてください。
告示上は、感染対策向上加算の施設基準等(二十九の二)に(5)として新設されます。この挿入に伴い、現行の(5)から(7)は(6)から(8)へ繰り下がります。算定要件の注番号も1つずつずれるため、改定前の資料を参照しながら届出書類を作成する際は注意してください。
施設基準は告示と通知の2段階|「有する」だけでは足りない
微生物学的検査体制加算の施設基準は、告示と通知の2段階で構成されます。両方を満たさなければ届出はできません。
告示が定めるのは、設備の要件です。「当該保険医療機関内に微生物学的検査室を有していること」という一文で、院内への設置を求めています。
通知が定めるのは、運用の要件です。感染対策向上加算1を届け出ていること、そして検査室を、感染対策向上加算1の施設基準通知に定める1の(10)、(14)および(21)に係る業務等に「活用していること」の2点です。
ここで注意が必要なのは、(10)(14)(21)の本文が今回の個別改定項目の資料に掲載されていない点です。該当する業務が具体的に何を指すのかは、施設基準通知の本文で必ず確認してください。ネット上には推測にもとづく解説も見られますが、届出の準備は原文にあたって進めることをおすすめします。
算定対象から外れる3つのケース
自院が算定対象に該当するかは、次の3つのケースに当てはまらないかで確認できます。
1つ目は、感染対策向上加算2または3を届け出ているケースです。 本加算の対象は加算1に限られます。抗菌薬適正使用の監視体制という要件自体は加算1と加算2の両方にありますが、30点の上乗せは加算1のみに設定されました。加算2または3の医療機関は、まず加算1の施設基準を満たせるかどうかの検討から始めることになります。
2つ目は、微生物学的検査を外部委託しているケースです。 告示は「当該保険医療機関内に」と定めており、院内設置が条件です。委託先の体制がどれだけ充実していても、要件は満たしません。外注中心の医療機関にとって、この加算の取得は書類手続きではなく、設備投資と人材確保をともなう経営判断になります。
3つ目は、検査室はあるものの、業務での活用実態を示せないケースです。 通知が求めるのは活用の事実です。検査室が感染制御チームの業務と結びついていることを、記録として示せる必要があります。加算1を届け出ていて検査室もある医療機関でも、ここで止まる可能性があります。
評価の根拠となったデータ
この加算が新設された背景には、感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)の登録データがあります。
加算1を届け出る551施設を、検査室なし110施設と検査室あり441施設に分けて比較すると、MRSA分離率の中央値は6.8%と4.9%でした。第3世代セファロスポリン耐性大腸菌は5.0%と2.9%、フルオロキノロン耐性大腸菌は6.3%と4.0%です。いずれもp<0.01で有意差が確認されています。
ただし、この結果は検査室の設置が耐性菌を減らしたという因果関係を示すものではありません。検査室ありの施設は、病床数の中央値が395床で、なしの241床を大きく上回ります。平均在院日数の中央値も12.70日と、なしの17.44日より短くなっています。施設規模や診療の特性の違いが背景にある可能性を踏まえて読む必要があります。
この関連について、支払側委員からは、微生物学的検査室の有無により評価にメリハリを付けるべきとの意見が示されました。この意見と、微生物学的検査室が抗菌薬適正使用に果たす役割を踏まえ、新たな評価の新設に至っています。
届出前に確認すべきこと
算定対象に該当する医療機関がまず着手すべきは、施設基準通知で(10)(14)(21)の本文を確認することです。
前述のとおり、これらの項目の内容は個別改定項目の資料からは読み取れません。検査室のどの業務が要件に関わるのかは、通知本文を確認してはじめて確定します。ここを飛ばして準備を進めると、整備した記録が要件と噛み合わない恐れがあります。
該当項目を確認したうえで、次に行うのが検査室の活用実態の棚卸しです。要件に対応する業務が日常的に行われているか、そしてその事実が記録として残っているかを突き合わせます。運用としては行われていても、記録が残っていないケースは少なくありません。対応が不十分であれば、届出前に運用ルールと記録様式を整備する必要があります。
よくある質問(FAQ)
- 感染対策向上加算2を届け出ていますが、微生物学的検査体制加算は算定できますか。
- 算定できません。本加算の対象は感染対策向上加算1の届出医療機関に限られ、加算2および加算3は対象外です。算定を目指す場合は、まず感染対策向上加算1の施設基準を満たせるかどうかの検討から始めることになります。
- 微生物学的検査を外部の検査機関に委託している場合も算定できますか。
- 算定できません。告示は「当該保険医療機関内に微生物学的検査室を有していること」と定めており、院内への設置が条件です。外注が中心の医療機関が算定を目指す場合は、設備投資と人材確保をともなう中期的な経営判断が必要になります。
- 院内に微生物学的検査室があれば算定できますか。
- 検査室があるだけでは算定できません。通知は、感染対策向上加算1の施設基準通知に定める1の(10)、(14)および(21)に係る業務等に検査室を活用していることを求めています。該当する業務の具体的な内容は個別改定項目の資料に記載がないため、施設基準通知の本文で確認してください。
まとめ
微生物学的検査体制加算30点は、感染対策向上加算1を届け出る医療機関のうち、院内に微生物学的検査室を有し、それを業務に活用している施設が算定できます。加算2・加算3の届出施設、検査を外注している施設は対象外です。
今回の新設で特徴的なのは、設備の有無だけでなく運用の実態を要件に組み込んだ点です。すでに検査室を持ち、感染制御チームと連携している医療機関にとっては、日々の取り組みが評価される機会になります。
なお筆者は、この設計が中長期的に地域の医療連携のあり方にも影響を与えると考えています。自前で検査体制を構築できない中小規模の医療機関が、近隣施設との連携のなかで感染対策の質をどう担保するか。今回の30点は、その議論の入口になるかもしれません。これは資料にもとづく事実ではなく、あくまで筆者の見解です。
まずは自院の状況を、本記事の3つのケースに照らして点検してみてください。
本記事の内容は、ポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。音声での解説は、こちらのLISTENエピソードからお聴きいただけます。