令和8年度診療報酬改定では、後発医薬品使用体制加算と外来後発医薬品使用体制加算が廃止されます。代わって新設されるのが「地域支援・医薬品供給対応体制加算」と「地域支援・外来医薬品供給対応体制加算」です。
注目すべきは、点数も数量シェア基準も従来のまま据え置かれる点です。つまり今回の見直しの実質は、点数の増減ではなく施設基準の追加にあります。しかもその追加分は、薬剤部門だけでは対応できません。本稿では、新加算の全体像を押さえたうえで、届出準備で見落とされやすい点を整理します。
- 後発医薬品使用体制加算はなぜ廃止されるのか
- 新旧の対応関係と点数|完全据え置き
- 新加算の施設基準|5本柱のうち1本が新設
- 新設された5つ目の柱|流通改善ガイドラインを踏まえた4項目
- なぜ流通業者向けのガイドラインが医療機関の要件になったのか
- 届出準備で見落としやすい3つのポイント
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
後発医薬品使用体制加算はなぜ廃止されるのか
廃止の背景には、加算に期待される役割が変わったという事情があります。
後発医薬品の使用は、薬局では高い水準に達しました。 薬局における後発医薬品の使用割合は9割を超えています。使用を促すインセンティブとしての役割は、一定の達成を見たといえます。
一方で、供給状況の悪化が医療機関の負担を押し上げています。 令和6年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(令和7年度調査・病院調査、回答221件)では、1年前と比較して供給体制が「悪化した」と答えた病院が54.8%にのぼりました。後発医薬品に係る対応の業務量が「増えた」と答えた病院も57.5%を占めています。欠品のたびに複数の医薬品卸へ問い合わせ、治療計画を見直し、先発品と後発品の二重在庫を抱える。こうした作業が日常的に発生しています。
この結果、加算の役割は「使用を促すこと」から「供給に対応するコストを支えること」へ移りました。 新加算の名称に「医薬品供給対応体制」が入ったのは、この転換を反映したものです。
新旧の対応関係と点数|完全据え置き
新加算の点数は、廃止される加算をそのまま引き継ぎます。
【入院】後発医薬品使用体制加算 → 地域支援・医薬品供給対応体制加算
- 加算1:87点(数量シェア90%以上)
- 加算2:82点(数量シェア85%以上90%未満)
- 加算3:77点(数量シェア75%以上85%未満)
入院初日に限り、入院基本料または特定入院料に加算します。対象は病院と有床診療所です。
【外来】外来後発医薬品使用体制加算 → 地域支援・外来医薬品供給対応体制加算
- 加算1:8点(数量シェア90%以上)
- 加算2:7点(数量シェア85%以上90%未満)
- 加算3:5点(数量シェア75%以上85%未満)
1処方につき加算します。施設基準で「診療所であること」が求められるため、対象は診療所に限られます。
数量シェアの判定方法も従来どおりです。後発医薬品のある先発医薬品と後発医薬品を合算した規格単位数量に占める、後発医薬品の規格単位数量の割合で判定します。なお告示には下限のみが記載され、上限を含む区分は通知で示される形になっています。
新加算の施設基準|5本柱のうち1本が新設
新加算の施設基準は、5つの柱で構成されます。このうち4つは従来の加算から引き継がれ、5つ目が今回の新設部分です。
- 組織的な採用決定 … 薬剤部門が後発医薬品の品質・安全性・安定供給体制の情報を収集・評価し、薬事委員会等で採用を決定する(有床診療所は薬剤部門または薬剤師)
- 数量シェアの達成 … 75%/85%/90%の区分に応じた割合
- 供給不足時の対応体制 … 欠品時に治療計画の見直しや処方変更を行える体制
- 患者への掲示 … 受付・支払窓口での掲示と、原則としてウェブサイトへの掲載
- 地域における安定供給の体制 … 流通改善ガイドラインを踏まえた取引適正化 ← 新設
1から4は令和6年度改定から引き継がれる要件です。したがって現在届出中の医療機関にとって、実質的な新しい作業は5つ目に集中します。ただし加算名称が変わるため、4の掲示物については記載の更新が必要になります。
新設された5つ目の柱|流通改善ガイドラインを踏まえた4項目
5つ目の柱の具体的な内容は、「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」を踏まえた4項目として通知に示されます。入院・外来のいずれの加算でも内容は共通します。
価格交渉 個々の医薬品の価値と流通コストを無視した値引き交渉を慎みます。あわせて、原則としてすべての品目について単品単価交渉とすることが求められます。
配送 卸売販売業者への過度な依頼を慎みます。対象となるのは、頻回配送、休日夜間配送、急配の3つです。
返品 厳格な温度管理を要する医薬品と、在庫調整を目的とした医薬品等について、卸売販売業者への返品を慎みます。
地域連携 平時から地域の保険医療機関、保険薬局、医療関係団体と連携し、取り扱う品目について情報共有や事前の合意等に取り組みます。
このうち地域連携だけは通知上「望ましい」と記載されており、他の3項目とは位置づけが異なります。残る3項目は「慎むこと」と規定されています。
なぜ流通業者向けのガイドラインが医療機関の要件になったのか
流通改善ガイドラインは、本来、製薬企業・医薬品卸・医療機関という流通関係者全体に向けた指針です。それが医療機関の施設基準に組み込まれた点に、今回の改定の狙いが表れています。
背景にあるのは、医薬品卸の負担が限界に達しているという事情です。 頻回の配送依頼、過度な値引き交渉、在庫調整目的の返品。これらを卸だけが吸収する構造では、流通網そのものを維持できません。供給不安が続くなかで卸の体力が削られれば、最終的に困るのは医療機関と患者です。
そこで医療機関の側にも、卸との関係で守るべき行動が位置づけられました。 双方向から流通網を守る、という発想です。医療機関に求められる立場は、医薬品の購入者から、安定供給を共に支えるパートナーへと変わります。
実務面での意味は、担当部門が広がることです。 従来の後発医薬品使用体制加算は、薬剤部門による数量シェアの管理でほぼ完結していました。しかし価格交渉の方法や卸との契約形態は、事務部門の所管です。届出の準備は、両部門が同じテーブルにつくところから始まります。
届出準備で見落としやすい3つのポイント
要件を読み込む前に、前提として確認しておきたい点が3つあります。
1つ目は、9割超という数字が「薬局」のものだという点です。 医療機関の後発医薬品使用割合は、令和6年度調査の平均値で病院82.0%、診療所66.5%でした。中央社会保険医療協議会でも、院内処方における置き換えは調剤薬局と比べて低いとの指摘が出ています。薬局の水準を自院に当てはめると判断を誤ります。まず自院の実績値を確認してください。
2つ目は、外来加算の対象が診療所の院内処方に限られる点です。 施設基準で「診療所であること」と「当該保険医療機関において調剤した」割合が定められています。病院の外来処方や、院外処方箋の発行は対象になりません。
3つ目は、加算そのものが新設である点です。 基準値が変わらないため現行の区分をそのまま引き継げそうに見えますが、新設の加算である以上、改めて届出が必要になると見込まれます。届出手続や経過措置の扱いは、今後示される告示・通知で確認してください。
よくある質問(FAQ)
- 現在、後発医薬品使用体制加算を届け出ています。自動的に新加算へ移行しますか。
- 自動的に移行するとは限りません。点数と数量シェアの基準値は据え置かれるため、多くの医療機関は現行と同じ区分に該当すると見込まれます。ただし地域支援・医薬品供給対応体制加算は新設の加算であり、改めて届出が必要になると考えられます。届出手続や経過措置の有無は、今後示される告示および通知で必ず確認してください。
- 病院の外来処方でも、地域支援・外来医薬品供給対応体制加算は算定できますか。
- 算定できません。この加算の施設基準では「後発医薬品の使用を促進するための体制が整備されている診療所であること」と定められており、対象は診療所に限られます。あわせて「当該保険医療機関において調剤した」後発医薬品の割合で判定するため、院外処方箋を発行した場合も対象外です。今回新設される2つの加算のうち、病院が対象となるのは入院に対する地域支援・医薬品供給対応体制加算です。なお有床診療所は、入院・外来の両方の加算について要件を満たせば届出が可能です。
- 「単品単価交渉」とは何ですか。総価契約のままでは算定できませんか。
- 単品単価交渉とは、医薬品を品目ごとに価格を決めて取引する交渉方式です。複数品目をまとめて総額で値引き交渉する総価取引と対比されます。施設基準の通知では「原則として全ての品目について単品単価交渉とすること」とされています。総価取引が直ちに算定不可と明示されているわけではありませんが、原則に沿った取引形態への見直しが求められます。現在の卸売販売業者との契約形態を、事務部門で早めに点検しておくことをおすすめします。
まとめ
令和8年度診療報酬改定では、後発医薬品使用体制加算と外来後発医薬品使用体制加算が廃止され、地域支援・医薬品供給対応体制加算と地域支援・外来医薬品供給対応体制加算が新設されます。点数と数量シェア基準は据え置かれる一方、施設基準には5つ目の柱として、流通改善ガイドラインを踏まえた価格交渉・配送・返品・地域連携の要件が加わります。
届出を予定する医療機関は、自院の数量シェアの確認に加え、加算名称の変更にあわせた掲示物の更新、そして卸売販売業者との取引・返品ルールの点検を進めてください。特に取引ルールの見直しは、事務部門と薬剤部門の連携なしには進みません。
なお本稿は答申「個別改定項目について」に基づいています。実際の届出にあたっては、今後示される告示・通知および疑義解釈を必ずご確認ください。 また、音声で聴きたい方はLISTENエピソードをどうぞ