令和8年度診療報酬改定では、歯科用貴金属材料の価格高騰を背景に、「歯科治療のデジタル化等の推進」として補綴治療の要件が大きく見直されます。変更は、CAD/CAM冠・インレーの適応拡大、局部義歯の非貴金属原則化、光学印象の対象拡充の3つです。
本稿では、令和8年度診療報酬改定の個別改定項目「⑩ 歯科治療のデジタル化等の推進」について、明日から院内でどう動けばよいかという観点で整理します。誤解されやすい金属アレルギー患者の扱いや、見落としやすい施設基準の届出にも触れます。
本記事の内容は、ポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。あわせてお聴きください。
- 貴金属価格の高騰が改定の出発点
- CAD/CAM冠・インレーは大臼歯の要件が撤廃される
- クラウン・ブリッジ維持管理料は対象範囲が整理される
- クラスプ・大連結子は非貴金属材料が原則になる
- 光学印象はCAD/CAM冠にも算定できる
- 院内で確認したい3つのチェックポイント
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
貴金属価格の高騰が改定の出発点
今回の改定の背景には、歯科用貴金属材料の価格状況とデジタル技術の普及状況があります。個別改定項目でも、これらを踏まえ、患者にとって安心・安全な補綴治療を進めるための見直しであることが示されています。
この価格変動を受けにくいのが、CAD/CAM冠やCAD/CAMインレーです。しかし現行制度では、大臼歯の咬合支持や金属アレルギーの有無といった細かな要件があり、使える場面が限られていました。
そこで今回、これらの要件を緩和し、あわせて義歯の材料ルールも見直すことで、貴金属に依存しない補綴治療を広げる方向が示されました。
CAD/CAM冠・インレーは大臼歯の要件が撤廃される
CAD/CAM冠とCAD/CAMインレーの見直しは、算定できる場面を広げる3点と、運用の前提を定める2点に分かれます。
大臼歯の咬合支持要件がなくなる
現行では、第一大臼歯または第二大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)を使う場合に限り、装着部位の対側・同側の咬合支持や対合歯の欠損状況を確認する必要がありました。改定案では、この条件が削除され、「大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)又は(Ⅴ)を使用する場合」に一本化されます。なお、材料(Ⅴ)には現行でもこの条件はありません。
金属アレルギー患者について医科との診療情報提供を求めていた規定も削除されますが、対象が狭まるわけではありません。金属アレルギーの患者も大臼歯を対象とする上記の規定で算定できるため、医科との連携要件が不要になったという整理です。
乳歯への適応が追加され、インレーは770点へ
適応の追加もあります。「後継永久歯が先天的に欠如している乳歯に使用する場合」が、CAD/CAM冠とCAD/CAMインレーの双方で新たに算定対象となります。この場合の材料は、永久歯に準じて算定します。
CAD/CAMインレーは、評価も引き上げられます。点数は1歯につき750点から770点になります。あわせて大臼歯の要件も、咬合支持や金属アレルギーの条件が外れ、「大臼歯に使用する場合」へ簡素化されます。
材料選択の根拠を示す要件が新設される
適応が広がる一方で、新しく求められるものがあります。大臼歯および乳歯に使用する場合は、その他の歯冠補綴物・歯冠修復物との選択について、日本歯科医学会が令和8年3月に示す「基本的な考え方」を参考にすることが求められます。
この要件の背景には、耐久性への懸念があります。中医協の議論では、CAD/CAM冠は金属と比べて耐久性が低く、適応を広げることで補綴物の破損が増えるのではないかという指摘が出ていました。適応が広がるほど、症例ごとの選択理由を説明できる体制が重要になります。
クラウン・ブリッジ維持管理料は対象範囲が整理される
クラウン・ブリッジ維持管理料も、対象範囲が見直されます。ここは「対象になるもの」と「対象外のまま残るもの」を分けて押さえてください。
対象に含まれるようになるのは、金属アレルギー患者に対する非金属歯冠修復とCAD/CAM冠です。現行ではこの2つが除外規定に置かれていましたが、改定案ではその除外が削除されます。CAD/CAM冠そのものが新たに対象になるのではなく、金属アレルギー患者に限った除外がなくなる、という点に注意してください。
あわせて、支台歯とポンティックの数の合計が5歯以下の区分に、チタンブリッジが新たに含まれます。
一方、対象外として残るのが、金属アレルギー患者に対する高強度硬質レジンブリッジです。ここは現行のまま変わりません。
クラスプ・大連結子は非貴金属材料が原則になる
局部義歯に附属するクラスプやバーは、製作の実態に合わせ、原則として歯科用貴金属材料以外を使う運用へ見直されます。対象は、鋳造鉤・線鉤・コンビネーション鉤・大連結子の4つです。
4つに共通するのは、「基本となる材料を定め、例外を使うなら理由を診療録に記載する」という枠組みです。貴金属を使ってはいけないのではなく、使うなら記録を残すというプロセスが明確化されました。
| 部品 | 基本となる材料 | 例外(理由の記載が必要) |
|---|---|---|
| 鋳造鉤 | 鋳造用コバルトクロム合金 | 14カラット金合金、金銀パラジウム合金 |
| 線鉤 | 不銹鋼(ふしゅうこう)、特殊鋼 | 14カラット金合金 |
| コンビネーション鉤 | 鋳造用コバルトクロム合金(鋳造鉤・レスト部分) | 金銀パラジウム合金 |
| 大連結子(現行のバー) | 鋳造用コバルトクロム合金(鋳造バーの場合) | 金銀パラジウム合金 |
あわせて、鋳造鉤と線鉤にあった「14カラット金合金は2歯欠損までの有床義歯に限る」という制限は削除されます。また、現行の「バー」は「大連結子」へ名称が改められ、離れた位置にある義歯床同士、または義歯床と間接支台装置を連結するもの、と定義が明確化されます。
カルテ記載の文例
「特段の理由」の記載は、その場で考えると抜けやすくなります。入力の定型文を用意しておくと確実です。
例:残存歯の状態および想定される咬合圧を考慮し、コバルトクロム合金では強度・適合の面で対応困難と判断したため、金銀パラジウム合金を使用した。
症例ごとに判断内容が変わるため、定型文はあくまで骨格として使い、判断部分は個別に書き換えてください。
光学印象はCAD/CAM冠にも算定できる
光学印象は、算定対象がCAD/CAMインレーからCAD/CAM冠へ拡充されます。中医協資料では、クラウン形状の印象精度がインレー形状と同等以上であるという報告が示されており、これが拡充の根拠となっています。
算定にあたっては、3つの条件をすべて満たす必要があります。第一に、施設基準に適合するものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関であること。第二に、デジタル印象採得装置を用い、直接法により印象採得と咬合採得を行うこと。第三に、算定は製作物ごとに行い、印象採得・咬合印象・咬合採得は別に算定できないことです。
対象が広がっても、この3点は変わりません。届出をしていない医療機関では、まずここが出発点になります。
効率面の効果も示されています。中医協資料で紹介された研究では、光学印象は従来の印象法に比べ、当該行為に係る時間が6分程度短くなったと報告されています。CAD/CAM冠の適応拡大と重なることで、口腔内スキャナーを導入している医療機関ほど恩恵を受けやすい改定といえます。
院内で確認したい3つのチェックポイント
改定内容を院内の動きに落とし込むと、次の3点になります。
1. 判断基準を言語化する 日本歯科医学会の「基本的な考え方」を院内で共有し、どの症例でCAD/CAMを選ぶのかという基準を言葉にしておきます。
2. カルテ記載のルールを決める 義歯で貴金属を選ぶ際の「特段の理由」について、入力の定型文と記載漏れを防ぐ確認手順を、医療事務を含めて設定します。
3. 施設基準の届出状況を確認する 光学印象を算定する予定があるなら、届出の有無を確認します。未届出であれば、対象拡充のメリットは受けられません。
よくある質問(FAQ)
- 金属アレルギーの患者にCAD/CAM冠を使う場合、医科との連携は不要になるのですか。
- 改定案では、金属アレルギー患者に対して医科の医師との連携と診療情報提供を求めていた規定が削除されます。これは対象が狭まったのではなく、大臼歯全般が「大臼歯にCAD/CAM冠用材料(Ⅲ)又は(Ⅴ)を使用する場合」として算定できるようになったため、連携を算定の条件とする必要がなくなったという整理です。ただし患者の全身状態の把握という臨床上の必要性は変わらないため、必要に応じた医科との情報共有は引き続き重要です。
- クラスプに金銀パラジウム合金を使うと、算定できなくなるのですか。
- 算定できなくなるわけではありません。今回の見直しは、鋳造鉤・線鉤・コンビネーション鉤・大連結子について、基本となる材料を非貴金属材料に定めるものです。14カラット金合金や金銀パラジウム合金を使う特段の理由がある場合は、その理由を診療録に記載したうえで使用できます。なお、鋳造鉤と線鉤については「14カラット金合金は2歯欠損までの有床義歯に限る」という現行の制限が削除されるため、この材料に関しては欠損歯数による制約がなくなります。
- 口腔内スキャナーを持っていれば、光学印象はすぐに算定できますか。
- 装置があるだけでは算定できません。光学印象は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合するものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関に限って算定できます。加えて、デジタル印象採得装置を用いて直接法により印象採得と咬合採得を行うことが必要で、算定は製作物ごとです。印象採得、咬合印象、咬合採得を別に算定することはできません。今回CAD/CAM冠へ対象が拡充されても、これらの要件は変わりません。
まとめ
令和8年度改定の「歯科治療のデジタル化等の推進」は、単なる規制緩和ではありません。算定できる場面が広がる分だけ、材料選択の目利きと、その判断を記録に残す責任が問われる改定です。
CAD/CAM冠は大臼歯の咬合支持要件が撤廃され、乳歯にも適応が広がります。CAD/CAMインレーは750点から770点になります。クラスプと大連結子は非貴金属材料が原則となり、例外には理由の記載が必要です。光学印象はCAD/CAM冠にも算定できるようになります。
まずは日本歯科医学会の「基本的な考え方」を確認し、材料選択の基準と診療録の記載ルールを院内で共有しておきましょう。