病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】CDI・ESBLが加算対象に|算定できる患者・できない患者の境界線

令和8年度診療報酬改定で、クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)とESBL産生腸内細菌目細菌感染症が、特定感染症入院医療管理加算および特定感染症患者療養環境特別加算の対象疾病に追加されます。ただし、この2疾患であれば個室管理がそのまま算定できるわけではありません。本稿では、算定できる患者とできない患者を分ける境界線に焦点を当て、施行前に院内で整えるべき運用を解説します。

なぜCDIとESBLは「隔離しても評価されない」状態だったのか

CDIとESBL産生腸内細菌目細菌感染症が対象外だった理由は、両加算が感染症法上の分類を対象疾病の骨格としてきたためです。特定感染症入院医療管理加算は三類から五類感染症と指定感染症を、特定感染症患者療養環境特別加算は二類から五類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症を対象としてきました。いずれも届出や公衆衛生上の対応が必要な感染症を広く拾う枠組みです。

一方、この2疾患は感染症法の対象疾病ではありません。それでいて、院内感染対策としては個室隔離が推奨されます。結果として、個室管理の労力とコストを医療機関が持ち出しで負担する状態が続いていました。

その負担の大きさは、中医協に示されたデータからも読み取れます。CDIは発症すると入院期間を平均10日程度延長させ、患者1人あたりの総入院費用を1.3〜1.8倍に押し上げます。発生頻度は入院患者1万人あたり7.4人、ICUでは22.2人です。原因菌はアルコール消毒で死滅しない芽胞を形成するため、感染拡大を防ぐには患者の個室隔離と、手袋・ガウンを用いた接触感染対策が推奨されます。ESBL産生腸内細菌目細菌感染症は、治療可能な抗菌薬が限られ、血流感染を起こした場合の全死亡率が非耐性菌による感染と比べて1.7倍に上昇します。国内では大腸菌の約30%、肺炎桿菌の約15%がESBL産生菌とされ、全国の病院の約9割で検出されています。

令和8年度改定で追加される2つの加算の対象疾病

改定は、告示に受け皿となる区分を新設し、通知で具体的な疾患名を明記する2段構えで行われます。感染症法の類型に当てはまらない感染症を、告示の新区分で受け止める設計です。

特定感染症入院医療管理加算

告示の算定要件に「その他他者に感染させた場合に重症になるおそれがある感染症の患者」という区分が加わります。通知の対象疾患リストの末尾には、CDIとESBL産生腸内細菌目細菌感染症が追加されます。

算定日数の考え方は従来どおりです。1入院につき7日を限度とし、他の患者に感染させるおそれが高いことが明らかで感染対策の必要性が特に認められる患者では、この限度が適用されません。疑似症患者については初日に限り算定します。

特定感染症患者療養環境特別加算

告示の算定要件に「その他個室管理が必要な感染症」という区分が加わり、通知の対象疾患リストにも2疾患が追加されます。

ここで注意したいのが、陰圧室加算の扱いです。今回の追加は、改定資料上、通知のうち個室加算の対象者を定めるリストに対するものです。告示の新区分の名称も「個室管理が必要な感染症」であり、陰圧室加算の対象疾患として追加する記載は現時点で示されていません。最終的に発出される告示・通知で確認してください。

算定できる患者・できない患者の境界線

算定の可否を分けるのは、「菌が出ているか」ではなく「発症しているか」です。通知は、単なる保菌者を対象外と明記しています。院内の感染管理ルールに基づいてESBL産生菌の保菌者を予防目的で個室管理した場合、その隔離は加算の対象になりません。

算定できる状態に至るには、3つの段階を踏む必要があります。第1に、症状や所見から当該感染症を疑うこと。第2に、分離・同定によって当該細菌を検出すること。第3に、薬剤耐性を確認することです。この3段階を経て当該感染症と診断した場合に、はじめて対象となります。診断が確定していない段階での隔離は算定できません。

診断が確定したら、診療報酬明細書の摘要欄への記載も必要です。特定感染症入院医療管理加算では当該患者に係る感染症名を、特定感染症患者療養環境特別加算では個室管理を必要とする原因となった感染症名を記載します。これは現行から続く取扱いであり、追加される2疾患にも同様に適用されます。

施行前に点検したい3つの実務ポイント

以下は改定資料に書かれた要件ではなく、算定要件から導かれる点検の視点です。

検査フローは、通知が求める「分離・同定による細菌の検出」と「薬剤耐性の確認」まで到達できる設計になっているかを確認します。外部委託している場合は、検体提出から結果返却までにかかる日数を把握しておきましょう。診断確定前の隔離期間は算定できないため、結果判明が遅れるほど算定できない日数が増えます。

隔離基準は、院内の運用基準と算定要件の対応関係を整理します。院内基準には保菌者への予防的隔離が含まれることが少なくありません。隔離を判断した時点で「予防目的か、発症に伴う治療目的か」を区別して記録できる運用にしておくと、後から算定可否を判断する手間が省けます。

記録の連携は、医師の判断を摘要欄まで届ける流れをつくります。診療録に他者へ感染させるおそれがある旨と個室管理の必要性を記載し、医事課がそれを拾って摘要欄に転記する。この一連の流れを電子カルテのテンプレートなどで定型化しておくと、算定漏れを防げます。

よくある質問(FAQ)

ESBL産生菌の保菌者を感染予防のために個室管理した場合、加算は算定できますか。
算定できません。通知に「単なる保菌者は対象とならない」と明記されているためです。算定の対象となるのは、分離・同定による細菌の検出と薬剤耐性の確認を経て当該感染症と診断された患者に限られます。菌が検出されていても症状がない状態は保菌者にあたり、院内の感染管理ルールに基づく予防的隔離であっても加算の対象にはなりません。
今回の見直しで、加算の点数や施設基準は変わりますか。
改定資料には、点数の変更や施設基準の変更に関する記載はありません。今回の見直しは対象疾病の範囲を拡大するものです。医療機関に求められるのは新たな届出ではなく、追加される2疾患を確実に算定するための検査・隔離判断・記録の運用整備だといえます。ただし最終的な取扱いは、発出される告示および通知でご確認ください。
CDIやESBLの患者を陰圧室で管理した場合、陰圧室加算は算定できますか。
改定資料からは確認できません。今回の追加は、通知のうち個室加算の対象者を定めるリストに対して行われており、告示に新設される区分の名称も「その他個室管理が必要な感染症」となっています。陰圧室加算の対象疾患として追加する記載は現時点で示されていないため、最終的に発出される告示および通知でご確認ください。

まとめ

令和8年度診療報酬改定は、感染症法の枠を超えて、CDIとESBL産生腸内細菌目細菌感染症の個室管理を評価の対象に加えます。ただし算定要件が緩和されたわけではなく、診断の確定と記録によって算定の正当性を示す責任は院内の運用に委ねられます。保菌と発症の区別、検査フローの点検、記録の連携という3点を、施行前に整えておきましょう。

本記事の内容は、以下のポッドキャストエピソードでも解説しています。院内での情報共有にお役立てください。

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