病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】全身麻酔の評価体系|3つの軸での抜本再編と医療機関への影響

令和8年度診療報酬改定で、全身麻酔の評価体系が大きく変わります。「麻酔の深度」「気道確保デバイスの有無」「麻酔管理体制」という3つの軸で評価が再構築されることで、これまで曖昧だった「誰が、どのような体制で、どの程度の深さの麻酔を管理しているか」が点数として明確に評価されるようになります。本記事では、新体系の構造を整理した上で、この改定が医療現場に何をもたらすのか、そして医療機関がとるべき対応について解説します。

改定の背景|「どんぶり勘定」から「精緻な評価」へ

これまでの全身麻酔の評価体系には、構造的な課題がありました。「麻酔の深度」「気道確保デバイスの違い」「麻酔管理体制」という、本来評価に反映されるべき要素が、十分に区分に反映されていなかったのです。たとえば、同じ「静脈麻酔」という区分の中に、短時間の鎮静から十分な体制下での深鎮静まで、性質の異なる行為が混在していました。現場で誰がどの程度の深さの麻酔を管理しているかという実態を、点数体系が十分に表現できていなかったのです。

この「どんぶり勘定」とも言える状態を解消するため、令和8年度改定では、3つの軸での再構築が行われます。第1の軸が「麻酔の深度」、第2の軸が「気道確保デバイスの有無」、第3の軸が「麻酔管理体制」です。3つの軸の組み合わせによって、新L001(短時間鎮静)、新L007(深鎮静)、改定L008(全身麻酔)という3つの主要区分が再定義されます。専門医の関与や医療の質が、点数として精緻に反映される仕組みへと移行します。

3つの軸で再構築される新体系

第1の軸:短時間鎮静を評価する新L001の新設

第1の軸である「麻酔の深度」のうち、短時間鎮静を評価する区分として新L001が新設されます。統合対象は、現行の区分番号L000「迷もう麻酔」、L001「筋肉注射による全身麻酔、注腸による麻酔」、L001-2「静脈麻酔」の1(短時間)、およびL007「開放点滴式全身麻酔」です。これら4つの区分が、新L001「吸入麻酔又は静脈麻酔による鎮静」に統合されます。

新L001は、実施時間に応じた2区分で評価されます。 - 10分未満のもの:120点 - 10分以上20分未満のもの:310点

短時間の鎮静では、処置の長さに比例して患者の状態監視やリスク管理の負担が直線的に増加します。そのため、時間という客観的な指標を導入することで、現場の曖昧さを排除した評価軸となっています。

第2の軸:深鎮静の評価を麻酔管理体制で4区分化する新L007

第2に、深鎮静の評価が新L007として再編されます。現行のL001-2「静脈麻酔」の2および3が整理され、新L007「吸入麻酔又は静脈麻酔による深鎮静(声門上器具又は気管挿管による気道確保を伴わないもの)」として整備されます。新L007の最大の特徴は、麻酔に従事する医師の関与度に応じた4段階の評価です。

  • 第1区分(麻酔に従事する医師が専従で実施する場合):2,600点
  • 第2区分(麻酔に従事する医師の指導下で麻酔を専従で実施する場合):1,700点
  • 第3区分(麻酔を専従で実施する場合):900点
  • 第4区分(1から3まで以外の場合):600点

最上位の第1区分(2,600点)は最下位の第4区分(600点)の4倍以上の点数となっており、誰が管理するかという専門性が、シビアに評価される構造です。さらに、実施時間が2時間を超えた場合は麻酔管理時間加算(30分又はその端数を増すごとに第1区分780点、第2区分510点)、3歳以上6歳未満の幼児には幼児加算(所定点数の10%)が加算されます。幼児加算の背景には、この年齢層の生理的な予測不可能性が極めて高く、気道も狭いため、高度な監視体制を維持するコストを評価する意図があります。

⚠️ 注意:旧L007と新L007は「番号は同じ・中身は別物」

ここで、実務担当者が混乱しやすいポイントを補足します。旧L007「開放点滴式全身麻酔」は、前述のとおり新L001に統合されて廃止されます。新L007は同じ区分番号ですが、中身は「深鎮静の評価」という全く別の役割を担います。L007という番号で旧体系のイメージを引きずると、コーディング誤りの原因になります。

第3の軸:気道確保デバイスの評価を明確化するL008の名称変更と点数調整

第3に、L008については、気道確保デバイスを用いた全身麻酔の評価であることを名称で明確化します。現行の「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔」から、「声門上器具又は気管挿管による気道確保を伴う閉鎖循環式全身麻酔」へと変更されます。「声門上器具」が明示されたことで、評価対象となる気道確保デバイスの範囲が明確になりました。

名称変更とあわせて、点数の一部が調整されます。具体的には、腹腔鏡を用いた手術等が行われる場合の点数が、麻酔困難患者で9,130点から9,015点へ、それ以外で6,610点から6,500点へと改定されます。麻酔管理時間加算も該当区分で660点から650点へと調整されます。これらの点数調整は、改定全体の整合性を踏まえた一連の見直しと位置づけられます。

改定が突きつける本質的論点

麻酔専門医の価値が初めて精緻に点数化される

今回の改定の最大のインパクトは、麻酔専門医の価値が初めて点数として精緻に評価されるようになる点にあります。新L007の第1区分の算定には、麻酔に従事する医師(麻酔科の標榜許可を受けた医師に限る)が専従で実施することが要件とされており、最下位の第4区分(600点)と比較すると最上位の第1区分(2,600点)は4倍以上の点数となります。これまでブラックボックスだった「誰が麻酔を管理したか」が、収益構造に直接反映される時代に入ったと言えます。麻酔科医の確保・育成は、これまで以上に医療機関の経営課題として重要性を増します。

地方・小規模医療機関への影響

一方で、この改定は麻酔専従医の確保が困難な地方や小規模の医療機関にとって、厳しい評価基準となる可能性があります。新L007の上位区分(第1区分・第2区分)を算定するには、施設基準への適合と地方厚生局長等への届出が必要です。施設基準を満たせない医療機関は下位区分での算定となり、収益面で差がつく構造です。地域医療の現場では、麻酔科医の偏在問題がより顕在化する懸念があります。

コーディング・算定実務の混乱リスク

実務面では、コーディング・算定の混乱リスクに注意が必要です。前述のとおり、旧L007と新L007は同じ区分番号でありながら、内容が全く異なります。また、新L001と新L007では「気道確保デバイスの有無」で評価対象が分離するため、これまで以上に臨床記録の記載精度が求められます。改定直後の数ヶ月は、算定誤りによる査定リスクが高まることが予想されるため、院内コーディング基準の早期整備が欠かせません。

まとめ|医療機関がとるべき3つの行動

令和8年度改定における全身麻酔の評価は、「麻酔の深度」「気道確保デバイスの有無」「麻酔管理体制」の3つの軸での再編が共通の柱となります。医療の質を点数化し、専門医の関与を高く評価することで、患者の安全性向上が期待される一方、麻酔専従医の確保が困難な医療機関にとっては厳しい評価基準となります。

医療機関がとるべき行動は3つです。第1に、自院の麻酔管理体制を点検し、新L007のどの区分に該当するかを把握することです。第2に、上位区分の算定を狙う場合は、施設基準への適合と地方厚生局長等への届出を急ぐ必要があります。第3に、院内のコーディング基準を整備し、旧L007と新L007の混同や、気道確保デバイスの記載漏れによる算定誤りを防ぐ仕組みを構築することです。

改定までの限られた時間で、これら3つのステップを確実に進めましょう。

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