令和8年度診療報酬改定で、精神科リエゾンチーム加算が大きく変わります。これまで週1回300点の一律評価だったこの加算は、患者の状態に応じた2区分へ再編され、認知症・せん妄以外の患者では週あたり最大1,000点まで算定できるようになります。対象疾患と診療回数しだいで、1患者あたりの評価が大きく変わる改定です。
本記事は、制度の逐条解説ではなく、「自院にどれだけ影響するか」「施行までに何を準備すべきか」という経営・実務の視点で整理します。改定の骨子を短時間で把握したい方は、まず下の早見表をご覧ください。
- 30秒で分かる改定の早見表
- なぜ引き上げられるのか:一律評価の限界
- 改定内容①:700点への引き上げと2区分化
- 改定内容②:複数回診療加算300点の新設
- 自院への影響:区分2の患者ボリュームで決まる
- 実務対応:区分判定と記録が算定の生命線
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
30秒で分かる改定の早見表
今回の見直しは、次の3点に集約されます。
- 2区分化:認知症・せん妄は300点(据え置き)、それ以外は700点へ引き上げ。
- 複数回診療加算の新設:区分2で週2回以上診療すると、週1回に限り300点を上乗せ。
- 週最大1,000点:区分2(700点)+複数回診療加算(300点)で成立。算定上限が週1回である点は改定前後で不変。
なぜ引き上げられるのか:一律評価の限界
今回の引き上げは、「同じ300点でよいのか」という問題意識から出発しています。現行制度では、術後せん妄への対応も、自殺企図後の危機介入も、統合失調症の急性増悪への対応も、すべて一律に週1回300点でした。介入の難易度がまるで違うのに、評価が横並びだったわけです。
令和6年度の実態調査は、この横並びの不合理を数字で示しました。精神科リエゾンチームが実際に介入した患者は、せん妄が97.7%と最多ですが、抑うつ90.1%、その他の精神疾患88.5%、認知症83.2%、自殺企図77.9%と、対象は広範囲に及びます。チームは認知症・せん妄の枠をはるかに超えて機能していた、というのが実像です。
ここで評価配分の鍵になったのが、「他の加算で代替できるか」という視点です。認知症やせん妄は、認知症ケア加算などを届け出る医療機関でも一定の対応ができます。一方、自殺企図や重度うつ病のように、複数診療科の連携と即時の心理的危機管理を要する症例に幅広く対応できるのは、リエゾンチーム加算の届出施設に偏る傾向がみられました。つまり、リエゾンチームでなければ担えない領域に点数を寄せる——これが2区分化の設計思想です。
改定内容①:700点への引き上げと2区分化
改定の第1の柱は、加算の2区分化です。現行の300点一律評価は、次のように再編されます。
- 区分1(認知症又はせん妄の場合):300点 … 現行を据え置き
- 区分2(それ以外の場合):700点 … 抑うつ・統合失調症等の精神疾患・自殺企図などが対象
区分1と区分2の差は400点です。ここで押さえておきたいのは、変わらない要件もあるという点です。算定対象となる患者の範囲(抑うつ若しくはせん妄を有する患者、精神疾患を有する患者、自殺企図により入院した患者)、算定上限が週1回であること、認知症ケア加算1と併算定できないことは、いずれも現行から変更ありません。増点にばかり目が向きがちですが、算定の土台となる要件は据え置きです。
改定内容②:複数回診療加算300点の新設
改定の第2の柱は、複数回診療加算の新設です。区分2の患者に対して週2回以上の診療を行った場合、複数回診療加算として週1回に限り300点を上乗せできます。これにより、区分2では週あたり最大1,000点(700点+300点)の算定が可能になります。
算定を誤りやすいポイントが2つあります。第1に、この加算は区分2の患者に限られ、認知症・せん妄の区分1では週何回介入しても算定できません。第2に、週3回でも週4回でも、上乗せは週1回・300点までで、回数に比例して増えるわけではありません。「回数を稼ぐ」加算ではなく、「集中的な介入を要する患者を評価する」加算だと理解するのが正確です。
自院への影響:区分2の患者ボリュームで決まる
収益インパクトの大きさは、自院の区分2患者がどれだけいるかで決まります。たとえば、これまで週1回の介入で300点を算定していた患者が区分2に該当すれば、週700点となります。さらに、その患者に週2回以上の集中的な介入を行い複数回診療加算を算定できれば、週1,000点に達します。ただし1,000点は、区分2かつ週2回以上の介入という条件が揃った場合の上限であり、すべての患者に当てはまるものではありません。
だからこそ、施行前に取り組むべき第一歩は現状の患者分布の把握です。現在リエゾンチームが介入している患者を、区分1相当・区分2相当に仕分けし、そのうち週2回以上の介入を要する層がどれくらいかを見積もる。この試算があってはじめて、増収の見通しと、必要な記録体制の規模が見えてきます。
実務対応:区分判定と記録が算定の生命線
増点を確実に取りにいくうえで、区分判定と記録の整備は避けて通れません。400点の差がつく判断だからこそ、根拠を残す運用が前提になります。
とりわけ難しいのが、併存症例の扱いです。抑うつと認知症を併存する患者や、術後せん妄から精神症状が遷延した患者は、区分の境界に位置します。判定の考え方として重要になるのは、「チームがどの病態を主たる対象として介入したか」という視点です。患者が何を持っているかではなく、チームが何に介入したかで区分が分かれます。区分2を算定するなら、精神症状の評価結果とあわせて、認知症・せん妄以外の症状を主たる対象とした医学的根拠を診療録に残しましょう。
複数回診療加算については、診療回数の管理が算定根拠そのものになります。各回の診療日、参加職種、評価内容をチーム記録に残す運用を、施行前に固めておく必要があります。あわせて、現行の留意事項にある「1チームにつき1週間あたり概ね30人以内」という取扱いが改定後どうなるかは、個別改定項目には示されていません。今後の告示・通知・疑義解釈での確認が必要です。
よくある質問(FAQ)
- 認知症とうつ病を併存する患者は、区分1と区分2のどちらで算定しますか?
- 患者が持つ疾患ではなく、精神科リエゾンチームがどの病態を主たる対象として介入したかで区分が決まります。うつ病を主たる対象として介入したのであれば区分2(700点)の対象となり得ますが、その場合は精神症状の評価結果とあわせて、認知症・せん妄以外の症状を主たる対象とした医学的根拠を診療録に記録することが求められます。なお、区分の具体的な線引きは今後の告示・通知等で確認が必要です。
- 複数回診療加算は、認知症・せん妄の患者にも算定できますか?
- 算定できません。複数回診療加算は区分2(認知症・せん妄以外)の患者のみが対象です。区分1(認知症・せん妄)の患者に週2回以上介入しても、この加算は算定できません。また区分2であっても、上乗せは週2回以上の診療につき週1回・300点までで、診療回数に比例して増えるものではありません。
- 算定できる回数の上限は、改定で変わりますか?
- 変わりません。加算の算定上限は、改定の前後を通じて週1回のままです。今回の見直しで変わるのは1回あたりの評価であり、対象疾患に応じて300点または700点となり、区分2で週2回以上の集中的な診療を行った場合に複数回診療加算300点が上乗せされます。頻度ではなく単価を引き上げる改定と理解するのが正確です。
まとめ
令和8年度改定は、精神科リエゾンチーム加算を「専門性に応じた評価」へと組み替えるものです。最大1,000点となるのは区分2の患者に限られ、認知症・せん妄以外への集中的な介入が評価の中心に据えられました。増点を確実に取りにいくには、自院の患者分布の把握、区分判定の根拠の記録、診療回数の管理という3点を、施行前に整えておくことが欠かせません。
なお、本改定の全体像や現場への影響については、LISTENのエピソードでも詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
※本記事は個別改定項目に基づく解説です。区分の具体的な線引きや「1チームにつき週概ね30人以内」の取扱いなど、最終的な内容は告示・通知等でご確認ください。