令和8年度診療報酬改定で、精神科地域密着多機能体制加算が新設されました。この加算は、小規模な精神科病院と、病床削減に取り組む精神科病院を、1日につき最大800点で評価します。加算1と加算3では点数が16倍も開くため、自院がどの区分に届くかの見極めが、そのまま収益の差になります。
本記事は、自院の該当区分を判定するための実務ポイントを解説します。第1に、3つのステップで区分を判定する手順を示します。第2に、加算1・2・3を分ける3つの差分を整理します。第3に、多くの病院がつまずく病床削減指標の読み方を解説します。第4に、廃止される精神科地域包括ケア病棟入院料の期限を確認します。
なお、加算の全体像と制度趣旨は、メルマガで網羅的に解説しています。本記事は、そこから一歩進んだ「自院の判定」に絞ってお届けします。
- 精神科地域密着多機能体制加算とは|3区分の点数と対象患者
- 自院はどの区分に届くか|3ステップの判定手順
- 加算1・2・3を分ける3つの差分
- 病床削減指標の読み方|分母の切り替わりに注意
- 精神科地域包括ケア病棟入院料の廃止|令和8年6月1日が期限
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|自院の判定は3ステップで足りる
精神科地域密着多機能体制加算とは|3区分の点数と対象患者
精神科地域密着多機能体制加算は、3つの区分に分かれた1日単位の加算です。点数は、加算1が800点、加算2が250点、加算3が50点です。
対象となるのは、精神病棟入院料(10対1入院基本料、13対1入院基本料または15対1入院基本料を算定するものに限る)または精神科急性期治療病棟入院料を算定する入院患者です。告示上の表記は「精神病棟入院料」ですが、いわゆる精神病棟入院基本料(A103)を指します。18対1、20対1、特別入院基本料を算定する患者は、対象外です。
この加算が新設された背景には、精神病床に入院する患者数の減少があります。患者が地域で暮らせるようになることは望ましい変化です。しかし中医協の資料は、精神科病院の利益率について、病床数が少ないほど利益率が低下しており、200床以上の医療機関が病床削減を躊躇する一因となっていることが考えられる、と指摘しました。病床を減らすほど経営が苦しくなる構図です。そこで今回の改定は、病床規模の縮小が経営上の不利にならないよう、新たな評価を設けました。
自院はどの区分に届くか|3ステップの判定手順
自院の該当区分は、3つのステップで判定できます。ステップ1で通則を確認し、ステップ2で精神病床の規模を確認し、ステップ3で削減指標を確認する順です。上流で外れれば下流は不要なため、この順番が最短です。
ステップ1:通則6項目を満たすか(ここが入口)
通則は、全区分に共通する6項目です。1つでも欠ければ、どの区分も算定できません。
- にも包括の構築に貢献するにつき、十分な体制を整備していること
- 病院全体の許可病床数が350床以下であること
- 許可病床数に占める精神病床の割合が6割5分以上であること
- 常勤の精神保健指定医を2名以上配置していること
- 地域の精神科救急医療体制の確保に協力する体制と実績を有していること
- 入院患者の退院に係る支援に関する部門を設置していること
注意すべきは2つ目です。350床以下は精神病床ではなく病院全体の数です。3つ目とあわせ、対象は中小規模の精神科主体の病院に絞られます。
ステップ2:精神病床の規模はどこか
通則を満たしたら、精神病床の許可病床数で狙える区分が決まります。
| 精神病床の規模 | 狙える区分 |
|---|---|
| 100床以下 | 加算1(800点) |
| 101〜150床 | 加算2(250点)※削減指標は不要 |
| 151〜250床 | 加算2(250点)※削減指標が必要 |
| 250床以下で加算1・2に届かない | 加算3(50点)※削減指標が必要 |
ステップ3:削減指標を満たすか
精神病床が151床以上で加算2を狙う場合、または加算3を狙う場合は、病床削減の指標が加わります。この読み方は後述します。
加算1・2・3を分ける3つの差分
3つの区分は、多くの要件を共有しています。異なるのは、規模・削減指標を除けば、次の3点だけです。ここを押さえれば、区分の設計思想が見えます。
| 項目 | 加算1(800点) | 加算2(250点) | 加算3(50点) |
|---|---|---|---|
| 精神病床の規模 | 100床以下 | 101〜150床/151〜250床(削減) | 250床以下(削減) |
| 平均在院日数 | 150日以内 | 150日以内 | 250日以内 |
| 病床割合(3割以下) | 精神療養+認知症治療 | 精神療養+認知症治療 | 精神療養のみ |
| 地域生活支援の体制・実績 | 十分な体制 | 十分な体制 | 適切な体制 |
| 多職種配置 | 常勤PSW2名+OT1名+CP1名 | 常勤PSW2名+OT1名+CP1名 | PSW・OT・CPの合計2名以上 |
| 退院の着実な進捗 | 必要 | 必要 | 規定なし |
第1の差分は、加算1と加算2の関係です。この2区分は、規模と削減指標を除けばすべて共通です。平均在院日数150日以内、病床割合3割以下、多職種配置、地域生活支援の体制と実績、退院の着実な進捗を、いずれも同じく求められます。したがって151床以上250床以下の病院にとって、加算2は「病床を減らせば届く区分」です。
第2の差分は、加算3の緩和です。加算3は、平均在院日数が250日以内、多職種が3職種合計2名以上、地域支援が「適切な」体制と、要件が広く緩和されます。その代わり、削減指標が3つ重なります。要件を緩めて入口を広げ、削減の継続で縛る設計です。
第3の差分は、病床割合の対象です。加算1と加算2は精神療養病棟入院料と認知症治療病棟入院料の合計で3割以下を求めますが、加算3は精神療養病棟入院料のみが対象です。認知症治療病棟を多く持つ病院は、加算1・2の割合要件を満たせない場合でも、加算3の割合要件は満たせることがあります。ただし加算3は50点であり、評価は大きく下がります。見落としやすい差分です。
病床削減指標の読み方|分母の切り替わりに注意
病床削減の指標は、加算2と加算3で計算式が異なります。特に加算3は、時点によって分母が切り替わるため、注意が必要です。
加算2(151〜250床)は、2つの条件を満たします。届出前月末の精神病床の許可病床数を、届出前月から3年前の日の属する年度の1日当たりの精神病床における入院料算定患者数で割った値が0.95以下であること。そして届出から1年が経過するごとに、同じ考え方の値を0.95以下に保つことです。分母は、いずれも入院料算定患者数です。
加算3は、3つの条件が重なります。第1に、届出時の値が0.97以下であること(分母は入院料算定患者数)。第2に、届出時の精神病床の許可病床数を今後上回らないこと。第3に、届出から1年ごとに、当該月末の精神病床の許可病床数を3年前の精神病床の許可病床数で割った値が0.95以下であることです。
ここが最大の落とし穴です。加算3の1年後の指標は、分母が「入院料算定患者数」から「許可病床数」へ切り替わります。患者数の自然減では条件を満たせず、病床数そのものを継続的に減らし続けなければなりません。加算3は入口こそ広いものの、届出後に削減を止められない設計だとご理解ください。
精神科地域包括ケア病棟入院料の廃止|令和8年6月1日が期限
新加算の新設とあわせて、精神科地域包括ケア病棟入院料(1日1,535点)が廃止されます。令和6年度改定で新設された入院料ですが、中医協の資料は、届出病棟に限らず院内全体で満たす必要のある施設基準が設定されていること、令和7年10月時点の届出医療機関数が31施設にとどまることを、課題として挙げていました。新加算が病院全体の体制を評価する加算として設計されたのは、この経緯を踏まえたものと考えられます。
届出病棟をお持ちの場合、期限は2つです。算定の特例として、令和8年3月31日時点の届出病棟が令和8年6月1日までに精神科急性期治療病棟入院料2を届け出れば、通算180日を限度に同入院料2のハを算定できます。施設基準の緩和として、同じく令和8年3月31日時点の届出病棟に限り、令和8年9月30日まで、基本診療料の施設基準等の一部を満たせばよいとされます。
先に到来するのは6月1日です。該当する場合は、届出の準備を早期に進めてください。
よくある質問(FAQ)
- 加算1と加算2で、要件はどう違いますか?
- 精神病床の規模と病床削減の指標だけが異なり、その他の要件は共通です。平均在院日数150日以内、精神療養病棟と認知症治療病棟の割合3割以下、常勤の精神保健福祉士2名以上・作業療法士1名以上・公認心理師1名以上の配置、地域生活に向けた十分な支援体制と実績、退院の着実な進捗は、いずれも両区分に共通して求められます。加算1は精神病床100床以下が対象で削減指標は不要です。加算2は101床から150床であれば削減指標が不要ですが、151床から250床の場合は削減指標を満たす必要があります。
- 加算3の病床削減指標で、特に注意すべき点は何ですか?
- 分母が時点によって切り替わる点です。届出時は、届出前月末の精神病床の許可病床数を3年前の年度の1日当たり入院料算定患者数で割った値が0.97以下であることを求められます。これに対し届出から1年が経過するごとの指標は、当該月末の精神病床の許可病床数を3年前の精神病床の許可病床数で割った値が0.95以下であることを求められます。つまり1年後の指標は分母が許可病床数となるため、患者数の自然減では条件を満たせず、病床数そのものを継続的に削減する必要があります。加えて、届出時の精神病床の許可病床数を今後上回らないことも求められます。
- 精神科地域包括ケア病棟入院料を届け出ている病棟は、どう対応すればよいですか?
- 令和8年6月1日までに精神科急性期治療病棟入院料2を届け出るかどうかを、早期に判断してください。令和8年3月31日時点で届出を行っていた病棟が同年6月1日までに届け出た場合、精神科地域包括ケア病棟入院料を算定した期間と通算して180日を限度に、精神科急性期治療病棟入院料2のハを算定できます。また施設基準については、同じく令和8年3月31日時点の届出病棟に限り、令和8年9月30日までの間、基本診療料の施設基準等の一部を満たせばよいとされています。先に到来するのは6月1日の期限です。
まとめ|自院の判定は3ステップで足りる
精神科地域密着多機能体制加算の該当区分は、3つのステップで判定できます。第1に、病院全体350床以下・精神病床6割5分以上などの通則6項目を確認します。第2に、精神病床の規模で狙える区分を絞り込みます。第3に、151床以上または加算3を狙う場合は、削減指標を確認します。
判定にあたっては、3つの差分にご注意ください。加算1と加算2は、規模と削減指標を除けば共通の要件です。加算3は要件が広く緩和される一方、削減指標が3つ重なります。そして加算3の病床割合は、精神療養病棟入院料のみが対象です。 まずは自院の精神病床数、平均在院日数、精神療養病棟と認知症治療病棟の割合を、手元で確認するところから始めてください。
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