病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】身体的拘束最小化はどう変わる?3つの見直しと新加算40点

令和8年度診療報酬改定では、身体的拘束の最小化に向けた評価が大きく見直されます。見直しの柱は、通則基準の充実・減算の見直し・新加算の創設という3つです。本記事では、この3つのポイントを、病院経営への影響という視点から整理します。対象は、医療機関の経営層と実務担当者の方です。

改定の背景:なぜ施設間で「格差」が生まれたのか

今回の見直しの出発点は、施設間に残る大きな格差です。令和6年度改定では、緊急やむを得ない場合を除き身体的拘束を行わない方針が、入院料の通則に規定されました。しかし、「やむを得ない場合」の判断は、現場に委ねられました。その結果、拘束をほぼ行わない工夫を重ねる施設が現れる一方で、拘束が続く施設も残りました。

拘束が続く背景としては、現場の事情がしばしば指摘されます。ひとつは、夜勤帯などの慢性的な人手不足です。もうひとつは、転倒や骨折による安全確保や訴訟リスクへの懸念です。こうした事情が重なり、実施状況の差が課題として浮き彫りになったと考えられます。この格差を埋め、組織の風土そのものを変えるために、令和8年度改定では実績要件と経済的な評価が導入されます。

令和8年度改定 身体的拘束最小化の3つの見直し

改定のポイントは、大きく3つに分かれます。第1は通則基準の充実です。第2は減算の見直しです。第3は新加算の創設です。順に見ていきます。

① 通則基準の充実|組織風土・研修・実績要件

第1の見直しは、通則基準の充実です。取組の質を高めるため、3つの要素が加わりました。

1つ目は、組織風土の醸成です。患者の尊厳の保持と療養環境の質の確保を前提に、拘束を行わない方針を組織全体へ根づかせます。2つ目は、研修と指針の強化です。研修には、拘束の代替手段と尊厳保持の重要性を含むことが望ましいとされました。指針には、鎮静を目的とした薬物の適正使用などを必ず盛り込むことになりました。3つ目は、実績要件の追加です。実施割合を15%以下に抑えるか、または3つの取組を継続するか、いずれかを満たします。3つの取組とは、3か月に1回以上の委員会開催、拘束病棟での巡回等による解除・代替策の検討、年2回以上の研修です。

なお、令和8年3月31日時点で届出済みの病棟には、令和9年5月31日までの経過措置があります。

② 減算の見直し|40点から20点への軽減

第2の見直しは、減算の軽減です。体制づくりに努める施設の負担を和らげる仕組みが入りました。従来は、基準を満たせない施設に一律で1日40点の減算が課されていました。改定後は、体制基準は満たすが実績基準に届かない施設の減算が、1日20点に軽減されます。基準を体制と実績の「2階建て」に分け、努力の段階を評価する形です。

③ 新加算「身体的拘束最小化推進体制加算」|1日40点

第3の見直しは、新加算の創設です。質の高い取組を評価する「身体的拘束最小化推進体制加算」が新設されました。対象は、療養病棟入院基本料など6つの入院料・管理料です。算定すると、1日につき40点が得られます。

算定には、十分な体制の整備と実績の確保が必要です。加えて、情報公開の要件もあります。具体的には、病院全体の取組・拘束を行わない方針・実施状況を院内に掲示し、原則としてウェブサイトにも掲載します。

経営インパクト|40点は年間いくらになるか

ここで、40点という評価額を、経営の規模感に置き換えてみます。診療報酬の40点は、金額にして400円です。これが、入院患者1人につき1日ごとに積み上がります。

たとえば、50床で稼働率の高い病棟を考えます。単純に計算すると、400円×50人×365日で、年間700万円を超えます。減算であれば失う額、加算であれば得られる額が、この規模です。病棟数や病床数が増えれば、影響はさらに大きくなります。だからこそ、体制整備を早く進める判断は、経営面でも重要になります。

※これは規模感をつかむための試算です。実際の額は、稼働状況や算定要件の充足状況によって変動します。

よくある質問(FAQ)

身体的拘束最小化推進体制加算は何点で、どの病棟が対象ですか?
身体的拘束最小化推進体制加算は、1日につき40点を算定できます。対象は、療養病棟入院基本料、障害者施設等入院基本料、有床診療所療養病床入院基本料、地域包括ケア病棟入院料、特殊疾患入院医療管理料、特殊疾患病棟入院料の6つです。算定には、十分な体制と実績に加えて、取組内容を院内に掲示し原則としてウェブサイトにも掲載する情報公開が必要です。
身体的拘束最小化の基準を満たせない場合、減算は何点ですか?
原則として1日40点が減算されます。ただし令和8年度改定では、体制に関する基準は満たすものの実績基準に届かない施設は、減算が1日20点に軽減されます。体制と実績の両方を満たせば、減算はありません。
実績要件の身体的拘束の実施割合は何パーセント以下にする必要がありますか?
身体的拘束の実施割合を15パーセント(1割5分)以下に抑えることが、選択肢の一つです。これに代えて、3か月に1回以上の委員会開催・拘束病棟での解除や代替策の検討・年2回以上の研修という3つの取組をすべて継続する方法も認められます。令和8年3月31日時点で届出済みの病棟には、令和9年5月31日までの経過措置があります。

まとめ|患者の尊厳と経営の安定を両立する

令和8年度改定の身体的拘束最小化は、体制を整えた施設に限った減算の軽減と、新加算の創設という両輪で、業界全体の底上げを図ります。情報公開が進めば、患者や家族が医療機関を選ぶ基準にも変化が生まれるでしょう。各施設に求められるのは、患者の尊厳を守るケアと経営の安定の両立です。その第一歩として、早期の体制整備が鍵になります。

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