令和8年度診療報酬改定で創設される「歯周病継続支援治療」への移行は、歯科医院にとって算定実務・施設基準・院外連携の3領域にまたがる対応を必要とします。点数や制度の概要は厚生労働省の改定資料にまとめられていますが、現場で問われるのは「結局、何から着手すればよいのか」という一点に尽きます。
本記事では、改定の制度解説ではなく、改定施行までに歯科医院が完了させておくべき5つの実務対応をチェックリスト形式で整理します。それぞれの対応について、必要な作業・確認すべき書類・想定される所要時間まで踏み込んで解説するため、明日から具体的に動き出せる内容となっています。
- 改定施行までに歯科医院が直面する3つの実務リスク
- 実務対応1:レセコン設定の更新と算定移行シミュレーション
- 実務対応2:口腔管理体制強化加算の施設基準の再確認
- 実務対応3:医科連携プロトコルの構築とフォーマット整備
- 実務対応4:歯周外科手術移行時の算定ルールの院内共有
- 実務対応5:患者向け説明資料の更新
- 改定施行までのスケジュール例
- まとめ|改定対応は「早く動いた医院」が差をつける
改定施行までに歯科医院が直面する3つの実務リスク
実務対応に入る前に、何も準備しない場合に何が起こるかを整理しておきます。改定施行日に準備が間に合わないと、以下の3つのリスクが現実化します。
第1のリスクは、レセプト返戻の急増です。SPTとP重防が「歯周病継続支援治療」へ統合されることで、コードと点数(170/200/350点)が変わります。レセコンの設定変更が間に合わなければ、施行月のレセプトは大量返戻となります。
第2のリスクは、算定漏れによる収益機会の損失です。新設される「重症化予防連携強化加算」(100点)は、医科からの情報提供と歯科からのフィードバックという双方向プロセスが要件化されます。連携フローを事前に構築していなければ、対象患者がいても算定できません。
第3のリスクは、ハイリスク患者への介入機会の逸失です。口腔管理体制強化加算の届出医療機関では、歯周病継続支援治療の月1回算定が可能となります。届出未済の医療機関は、ハイリスク患者へ毎月介入する機会そのものを失います。
これら3つのリスクを回避するため、以下の5つの実務対応を改定施行までに完了させましょう。
実務対応1:レセコン設定の更新と算定移行シミュレーション
最優先で着手すべきはレセコン設定の更新です。SPTとP重防のコードが廃止され、「歯周病継続支援治療」の新コードに切り替わるため、レセコンベンダーへの確認と移行作業が必要となります。
具体的な作業手順は以下のとおりです。
- レセコンベンダーへ改定対応スケジュールを確認:通常、改定施行の1〜2ヶ月前にアップデートが配信されます
- 現在のSPT・P重防算定患者リストを抽出:直近3ヶ月分の算定実績をエクスポート
- 新点数での収益シミュレーションを実施:旧点数(200/250/350点)から新点数(170/200/350点)への移行で、1歯〜10歯未満の患者が多い医院では収益減となるため、患者構成の確認が必要です
- スタッフへの周知文書を作成:算定コード・点数の対応表を院内に掲示 所要時間の目安は、ベンダー対応待ちを除いて実務作業で約4〜6時間です。
⚠️ 【注意点】1歯以上10歯未満の点数が200点から170点へ30点引き下げられている点は見落とされがちです。若年患者や限局型歯周炎の患者割合が高い医院では、月次収益への影響を事前に把握しておきましょう。
実務対応2:口腔管理体制強化加算の施設基準の再確認
口腔管理体制強化加算(120点)は、令和8年度改定後も維持されます。この加算の有無が、歯周病継続支援治療の算定頻度を「3月に1回」と「月1回」に分ける決定的な分岐点となります。
確認すべき項目は以下の3点です。
- 施設基準への適合状況:小児口腔機能管理料注3に規定する施設基準を満たしているか
- 届出書類の現況:地方厚生局長等への届出が現在も有効か
- 未届出の場合の対応可否:常勤歯科医師数、研修受講歴、機器整備状況を確認 未届出の医療機関は、改定施行後できるだけ早期に届出を行うことで、ハイリスク患者への月1回介入が可能となります。届出から算定開始までは通常1〜2ヶ月の準備期間が必要なため、早めの着手をおすすめします。
実務対応3:医科連携プロトコルの構築とフォーマット整備
実務対応で最もハードルが高いのが、医科連携の仕組み構築です。新設される「重症化予防連携強化加算」(100点)は、以下の3ステップを完了して初めて算定可能となります。
| Step | 内容 | 必要書類 |
|---|---|---|
| Step 1 | 医科医療機関から情報提供を受ける | 医科からの紹介状・情報提供書 |
| Step 2 | 当該情報に基づき歯周病継続支援治療を実施 | カルテ記載・治療計画書 |
| Step 3 | 治療結果・口腔内状況を医科へフィードバック | 歯科から医科への情報提供文書 |
このフローを院内で確実に運用するため、以下の3つを事前に準備しておきましょう。
第1に、近隣医科医療機関のリストアップです。特に糖尿病内科・内科クリニックを中心に、連携可能な医療機関を地図上でマッピングします。
第2に、情報共有フォーマットの作成です。Step 3のフィードバック文書は毎回ゼロから作成すると負担が大きいため、テンプレートを準備しておきます。最低限、患者基本情報・歯周病の状態(PPD・BOP)・実施した治療内容・次回予定の項目を含めます。
第3に、院内ワークフローの確立です。受付・歯科衛生士・歯科医師・事務スタッフの誰がどの段階で何を行うかを文書化し、Step 3のフィードバックが漏れない仕組みを作ります。
実務対応4:歯周外科手術移行時の算定ルールの院内共有
見落とされやすいのが、歯周外科手術へ移行した場合の算定ルールです。誤った算定はレセプト返戻に直結するため、院内全体での共有が不可欠となります。
押さえるべきルールは2つあります。
ルールA:継続支援治療開始後に外科手術を実施した場合 歯周精密検査によって再び病状が安定し、継続的な治療が必要と判断されるまでの間、歯周病継続支援治療は算定不可となります。安定確認前に算定するとレセプト返戻の対象となるため、検査記録の保管が重要です。
ルールB:継続支援治療開始日以降に外科手術を実施した場合 手術後の継続支援治療は、所定点数の100分の50(つまり50%)で算定します。コード入力時の点数設定ミスが発生しやすいポイントです。
これら2つのルールは、算定マニュアルとして院内に文書化し、スタッフ全員が参照できる状態にしておきましょう。
実務対応5:患者向け説明資料の更新
最後に見落とされがちなのが、患者向け説明資料の更新です。改定により制度名称が「歯周病安定期治療」から「歯周病継続支援治療」へ変更されるため、以下の資料の更新が必要となります。
- 院内掲示物(料金案内・治療内容説明)
- 患者向けパンフレット
- 同意書・説明書
- ホームページ上の治療メニュー説明 特にホームページの更新はSEOにも影響するため、新名称への切り替えを早めに行いましょう。患者からの問い合わせに対しても、「これまでのSPT・P重防が統合された新しい制度です」と明確に説明できるよう、受付スタッフへの周知も必要です。
改定施行までのスケジュール例
5つの実務対応を時系列で整理すると、以下のスケジュールとなります。
| 時期 | 実施事項 |
|---|---|
| 施行3ヶ月前 | レセコンベンダーへの確認、口腔管理体制強化加算の届出検討 |
| 施行2ヶ月前 | 医科連携先のリストアップ、情報共有フォーマット作成 |
| 施行1ヶ月前 | レセコン設定更新、院内ワークフロー文書化、患者向け資料の改訂 |
| 施行直前 | スタッフ研修、算定マニュアルの最終確認 |
| 施行後1ヶ月 | 初月レセプトの算定状況レビュー、運用課題の洗い出し |
このスケジュールに沿って動くことで、改定施行月から算定漏れと返戻リスクの両方を最小化できます。
まとめ|改定対応は「早く動いた医院」が差をつける
令和8年度診療報酬改定における歯周病継続管理の見直しは、単なる点数変更ではなく、歯科医院の運営モデルを「歯科単独完結型」から「医科連携型」へとシフトさせる改定です。本記事で紹介した5つの実務対応のうち、特に医科連携プロトコルの構築には3〜6ヶ月の準備期間を要します。改定施行を待ってから動き出しても、初月のレセプトには間に合いません。
まずは本記事のチェックリストをもとに、自院の現在地を確認してみてください。レセコンベンダーへの確認電話一本、口腔管理体制強化加算の届出書類の確認、近隣医科医療機関のリスト作成—この3つだけでも、早めに着手することをおすすめします。
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