病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】経皮的シャント拡張術・血栓除去術|初回2区分化の算定・レセプト実務

令和8年度診療報酬改定で、経皮的シャント拡張術・血栓除去術(K616-4)の初回治療が、重症度に応じた2区分へ再編されます。本記事は、この改定に医事課・現場がどう備えるかという「実務対応」に絞って解説します。点数差そのものや改定前後の対比は、別途Web公開しているメルマガ(制度解説版はこちら)で扱っていますので、本記事では「自院で何をすべきか」に焦点を当てます。

実務で押さえるべきポイントは3つです。第一に、初回治療がどちらの区分になるかを判定する流れを理解すること。第二に、高い区分(区分イ)を算定するために、レセプト摘要欄へ医学的根拠を記載する体制を整えること。第三に、軽症区分(区分ロ)への引き下げが自院の収益に与える影響を、事前に試算しておくことです。順に見ていきます。

改定で変わるのは「初回算定」だけ|まず押さえる前提

最初に、今回の改定で変わるのは初回治療(「1」)の算定だけだという前提を押さえてください。これまで初回治療は、病態の重症度を問わず一律12,000点でした。改定後は、これが重い病態の「区分イ(12,000点・据え置き)」と、それ以外の「区分ロ(9,840点・引き下げ)」の2つに分かれます。

一方で、3月以内の再実施(「2」12,000点)は、実質的に現行どおりです。後述するとおり対象病態と記載要件は変わらないため、実務上で新しく身構える必要があるのは初回治療だけ、と理解しておくと整理しやすくなります。

算定区分の判定実務|区分イ・区分ロの分かれ目

初回治療の区分は、2段階のチェックで判定します。まず「透析シャント閉塞があるか」を確認し、閉塞があればその時点で区分イ(12,000点)です。閉塞がなければ、次に超音波検査の数値を確認します。

超音波検査では、シャント血流量が400ml以下、または血管抵抗指数(RI)が0.6以上のいずれかを満たせば区分イです。ここで言うRIとは、血液が流れる際の抵抗を示す数値で、0.6以上は血管内が狭く強い抵抗がかかっている状態を指します。どちらの基準にも当てはまらない場合が区分ロ(9,840点)です。

この判定で実務上の鍵になるのが、術前のエコー検査です。区分イを正しく算定するには、施術前にシャント血流量やRIを測定し、その所見をカルテに残しておく必要があります。判定基準を満たしていても、それを示す数値が手元になければ区分イは主張できません。エコー検査と所見記録を初回治療前のルーチンに組み込むことが、最初の実務対応になります。

なお、どの区分になっても、初回治療の算定が「3月に1回」に限られる点は現行から変わりません。

レセプト摘要欄の記載実務|返戻を防ぐ医学的根拠の残し方

区分イを算定する最大の実務ハードルが、レセプト摘要欄への医学的根拠の記載です。改定後は、区分イを算定する際に、超音波検査などの画像所見による医学的根拠を診療報酬明細書の摘要欄へ記載することが必須となります。算定要件自体を満たしていても、摘要欄の記載がなければ区分イは認められません。

返戻を防ぐには、摘要欄に「具体的な数値・所見」を残すことが重要です。たとえば「超音波検査所見:血流量350ml/min、RI 0.65」のように、判定基準を満たすことが客観的に読み取れる形で記載します。閉塞の場合も同様に、閉塞を確認した画像所見を明記します。

記載漏れによる返戻は、テンプレートで防げます。電子カルテやレセコンに、区分イ用の摘要欄定型文をあらかじめ実装しておけば、担当者による記載差や入力忘れを抑えられます。エコー所見を医事課へ確実に共有するフローとあわせて整えておくと、請求段階での手戻りが減ります。

「2」3月以内の再実施は実質現行どおり|実務上の注意点

3月以内の再実施(「2」12,000点)は、実質的に現行どおりの取り扱いです。初回治療を算定してから3月以内に実施した場合に、1回を限度として算定できる点は変わりません。

ただし、再実施にも病態と記載の条件がある点には注意が必要です。区分イと同じく、シャント閉塞または超音波検査の基準(血流量400ml以下もしくはRI 0.6以上)を満たす病態に限られ、その医学的根拠を摘要欄へ記載することが求められます。再実施だから記載は不要、と誤認すると返戻につながるため、初回と同じ記録・記載のルールで運用してください。

収益への影響と移行準備|医事課が今すべきこと

最後に、区分ロへの引き下げが収益へ与える影響を事前に試算しておきましょう。区分ロは初回12,000点から9,840点へ、1件あたり2,160点の減算となります。自院で初回治療を受ける患者のうち、区分ロに該当する割合がどの程度かを把握すれば、改定後の収益への影響を見積もれます。

移行に向けた実務準備は、次の3点に集約できます。1つ目は、術前エコー検査と所見のカルテ記載をルーチン化し、区分イの判定根拠を確実に残すこと。2つ目は、摘要欄の定型文テンプレートを電子カルテ・レセコンへ実装し、記載漏れによる返戻を防ぐこと。3つ目は、対象患者の区分割合を把握し、収益シミュレーションを行うことです。

まとめ|エビデンスの記録・記載体制が算定の鍵

令和8年度改定では、経皮的シャント拡張術・血栓除去術の初回治療が重症度に応じて2区分へ再編され、高い区分イの算定には客観的な医学的根拠の記載が必須となります。これは単なる診療報酬の引き下げではなく、治療効果を裏づけるエビデンスを示せた診療に適切な対価を支払う、という評価体系への転換です。

医事課・現場に求められるのは、術前エコーによる判定根拠の取得、摘要欄への確実な記載、そして収益影響の事前把握という3つの準備です。現場と医事課がシームレスに連携し、エビデンスの記録・記載体制を整えることが、適正な算定の鍵になります。

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