病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】小児保隙装置の見直し|可撤式1,200点新設と調整180点の算定要件

小児保隙装置の算定ルールが、令和8年度診療報酬改定で全面的に変わります。点数が変わるだけではありません。算定できる装置の種類が増え、これまで評価のなかった調整・修理に点数がつき、その一方で診療録と摘要欄への記載義務が新たに課されます。つまり、レセプト業務のフロー自体を組み直す必要があります。この記事では、改定内容そのものよりも「明日から現場で何を確認し、何を記録すればよいか」に絞って整理します。

なお、本記事は令和8年度診療報酬改定の個別改定項目「Ⅲ-7-⑤ 小児の咬合機能獲得に向けた対応の充実」に基づいています。実際の算定に当たっては、告示・通知および疑義解釈の原文を必ずご確認ください。

小児保隙装置の改定内容|3つの変更点を一覧で確認

今回の改定は、装置の「製作」と「装着後の管理」の両面を評価する内容です。変更点は次の3つに整理できます。

区分 改定前 改定後
製作(固定式) 小児保隙装置 600点 1 固定式保隙装置 850点
製作(可撤式) 原則算定不可(先天性無歯症等の一部症例のみ) 2 可撤式保隙装置 1,200点(新設)
装着後の管理 評価なし 歯科口腔リハビリテーション料1「3 小児保隙装置の場合」180点/月1回(新設)

この表のうち、実務で最も注意を要するのが可撤式保隙装置です。1,200点という点数の大きさに対して、算定できる症例が5類型に限定され、記載義務も課されるためです。以下、変更点を1つずつ見ていきます。

小児保隙装置が見直された背景|臨床の主力は可撤式だった

今回の見直しの出発点は、臨床実態と診療報酬のずれにあります。中医協の議論では、装置の使用実態と装着後のトラブルを示すデータが提示されました。

保隙装置の約半数を可撤式(小児義歯)が占めていた

可撤式保隙装置は、これまで診療報酬上ほとんど評価されてきませんでした。大学病院の実態調査(昭和歯学会雑誌、1997年)によれば、保隙装置を装着した患者の48.6%にあたる726人が、可撤式保隙装置(小児義歯)を使用していました。次いで多いクラウンループが29.6%ですから、臨床では最も多く使われている装置です。それにもかかわらず、保険では先天性無歯症など限られた症例にしか算定が認められていませんでした。

装着後の変形・破損に対する評価がなかった

もう1つのずれが、装着後の管理です。保隙装置には恒常的に咬合力がかかるため、固定式ではループの先端が舌側に偏位したり、ループが歯肉に埋入したりします。可撤式保隙装置についても、同じ調査で装着後にみられた不快事項として、不適合46.0%、破損35.5%が報告されています。なお、この2つの数値は可撤式保隙装置のものであり、クラウンループでは不適合7.2%、破損3.4%です。いずれにせよ、装置の機能を維持するには定期的な調整と修理が欠かせないにもかかわらず、その手間を評価する点数は存在しませんでした。

変更点1|調整・修理に180点|歯科口腔リハビリテーション料1の新区分

装着後の調整と修理を評価する新区分が設けられます。歯科口腔リハビリテーション料1に「3 小児保隙装置の場合 180点」が新設され、月1回に限り算定できます。装置を入れた後の定期的なフォローが、初めて点数として評価される形です。

算定要件は5つ

算定に当たって確認すべき事項は、次の5点です。

  1. 対象:区分番号M016-2に掲げる小児保隙装置を装着している患者
  2. 行為:当該装置の調整または修理
  3. 目的:正常な咬合関係の獲得
  4. 回数:月1回に限る
  5. 記載:調整または修理の内容等の要点を診療録に記載

対象患者は、固定式・可撤式のいずれを装着していても構いません。ただし、装置を装着しているだけでは算定できず、調整または修理という行為が必要です。

見落とし注意|区分の繰り下がりと摂食機能療法との関係

実務で最も見落としやすいのが、区分番号の繰り下がりです。新設項目が「3」に割り当てられた結果、従来の「3」は「4」へと繰り下がります。

この繰り下がりは、摂食機能療法との併算定制限に影響します。歯科口腔リハビリテーション料1には、摂食機能療法を算定した日は算定できないという制限と、摂食機能療法の治療開始日から3月を超えた場合は両者を合わせて月6回までとする制限があります。改定案では、この2つの制限がかかる区分が「2及び3」から「2及び4」へと振り替わります。したがって、新設された「3 小児保隙装置の場合」は、条文上いずれの制限の対象にもなりません。

もっとも、これは条文の文言から読み取れる帰結にすぎません。実際の運用は、改定後に示される疑義解釈で確認してください。

変更点2|小児保隙装置が固定式850点・可撤式1,200点の2区分に再編

製作の評価も、装置の種類に応じた2区分へと再編されます。現行の小児保隙装置600点が、次の2つに分かれます。

  • 1 固定式保隙装置 850点:クラウンループまたはバンドループを装着した場合に限り算定
  • 2 可撤式保隙装置 1,200点:床義歯形態の装置を装着した場合に算定(新設)

固定式保隙装置は、算定対象が改定前と変わりません。クラウンループとバンドループという範囲はそのままに、点数だけが600点から850点へ引き上げられます。

一方の可撤式保隙装置は、床義歯形態の装置を対象とする新しい評価です。臨床で主力となっていた小児義歯が、保隙を目的とする装置として正面から位置づけられました。ただし、算定できる症例は次に述べる5類型に限られます。

変更点3|可撤式保隙装置の5つの症例要件と記載事項

可撤式保隙装置1,200点を算定するには、5つの症例要件のいずれかへの該当が必要です。該当しない症例では算定できません。

対象となる5つの症例

  • 両側性の乳臼歯を早期喪失した症例
  • 片側性の2歯以上の乳臼歯を早期喪失した症例
  • 片側性乳臼歯1歯欠損であっても、支台歯に加重負担をきたす可能性がある症例
  • 乳前歯を早期喪失した症例
  • 永久歯を早期喪失し、将来の補綴処置に備えて保隙を行う必要がある症例

判断に迷いやすいのが「ハ」です。欠損が片側性乳臼歯1歯であっても、支台歯に加重負担をきたす可能性があれば対象となります。この場合は、なぜ加重負担が生じると判断したのかを診療録に残しておく必要があります。

診療録と摘要欄に何を書くか

該当症例は、診療録と診療報酬明細書の摘要欄の2か所に記載します。記載がなければ、返戻や査定の対象となります。

告示・通知で求められている記載事項は、次の3点です。

  • 診療録(製作時):該当する症例区分(イ〜ホ)のいずれに当たるか
  • 摘要欄(製作時):該当する症例区分(イ〜ホ)のいずれに当たるか
  • 診療録(調整・修理時):調整または修理の内容等の要点

これに加えて、症例区分をそう判断した診断根拠を診療録に残しておくことをおすすめします。特に「ハ」のように判断の余地がある症例では、根拠の記録が説明材料になります。判断の基準はシンプルです。「何をしたか」と「なぜ算定できるか」を、第三者に説明できる状態にしておくことです。

改定に向けた実務チェックリスト

改定内容を踏まえ、医院内で準備しておきたい事項を整理しました。

  • [ ] 現在保隙装置を装着中の患者を洗い出し、固定式・可撤式の別を把握する
  • [ ] 定期来院時に調整・修理を行った場合、診療録への記載が漏れない運用にする
  • [ ] 可撤式保隙装置の製作時、症例区分(イ〜ホ)を選択する欄をカルテテンプレートに設ける
  • [ ] 摘要欄への症例区分の記載を、レセプト点検の確認項目に追加する
  • [ ] 歯科口腔リハビリテーション料1の区分番号の変更を、レセコンのマスタ更新時に確認する
  • [ ] 摂食機能療法を併用している患者について、算定可否の判断ルールを院内で共有する

よくある質問(FAQ)

固定式と可撤式の両方を装着している場合、調整・修理の180点はそれぞれ算定できますか。
歯科口腔リハビリテーション料1は「1口腔につき」の点数であり、「3 小児保隙装置の場合」は月1回に限り算定すると定められています。したがって、装着している装置の数にかかわらず、算定できるのは月1回です。実際の取扱いは、改定後に示される疑義解釈をご確認ください。
摂食機能療法を算定している患者に、小児保隙装置の調整・修理180点は算定できますか。
条文上は算定できます。摂食機能療法との併算定制限がかかるのは歯科口腔リハビリテーション料1の「2」と「4」であり、新設された「3 小児保隙装置の場合」は対象外だからです。ただし、これは条文の文言から読み取れる帰結であるため、運用は疑義解釈で確認してください。
可撤式保隙装置1,200点は、乳臼歯が1歯欠損しただけの症例でも算定できますか。
片側性乳臼歯1歯の欠損であっても、支台歯に加重負担をきたす可能性がある症例であれば、症例要件の「ハ」に該当し算定できます。算定に当たっては、該当する症例区分を診療録と診療報酬明細書の摘要欄に記載してください。あわせて、加重負担が生じると判断した根拠を診療録に残しておくと、返戻を受けた際の説明材料になります。

まとめ|製作と管理の両輪で小児の咬合機能獲得を支える

令和8年度改定は、小児の咬合機能の獲得を製作と管理の両面から支える内容です。製作面では固定式850点・可撤式1,200点への再編、管理面では調整・修理180点の新設という変化があります。

医院で準備すべきことは3つです。第一に、可撤式保隙装置の5つの症例要件を確認できる体制を整えること。第二に、診療録と摘要欄への記載フローを構築すること。第三に、区分番号の繰り下がりをレセコンと院内ルールに反映することです。

図解でまとめたスライド版もあわせてご覧ください。また、制度の背景にあるロジックについては、LISTENのエピソードでお話ししています。