令和8年度診療報酬改定において、歯科衛生士による口腔機能の指導が「加算」から独立した「指導料」へと見直されます。現行の口腔機能指導加算(12点)が廃止され、新たに口腔機能実地指導料(46点)が新設されるためです。
ただし、この変更を「12点が46点になった」と理解すると、算定の準備を誤ります。新設される指導料には、研修・届出・文書提供という3つの条件が付くからです。本記事では、答申資料をもとに算定要件を整理し、施行までに医療機関が進めるべき準備を確認します。
- 口腔機能指導加算が廃止される背景|算定率はわずか1.3%
- 新設される口腔機能実地指導料(46点)の算定要件
- 新旧比較|3つの変更点
- 注意点|46点は「34点の増点」ではありません
- 改定施行までに準備すべき3点
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
口腔機能指導加算が廃止される背景|算定率はわずか1.3%
今回の見直しの背景には、「加算」という位置づけがもたらしていた算定上の制約があります。
現行の口腔機能指導加算は、歯科衛生実地指導料の加算です。そのため、プラーク除去方法の指導などを行ったうえで、さらに口腔機能の指導を上乗せしなければ算定できませんでした。中医協の資料によると、歯科衛生実地指導料を算定した患者のうち、口腔機能指導加算を算定した割合は約1.3%。令和6年8月審査分のデータでは、歯科衛生実地指導料のみの算定回数が約1,178万回であるのに対し、口腔機能指導加算は約16万回にとどまりました。
算定していない理由からも、現場の実情が読み取れます。令和7年度の検証調査では、「歯科衛生士が忙しく指導を行う時間がない」が30.3%で最多となり、「専門的な指導を行う歯科衛生士がいない」が28.6%で続きました。12点という評価に対して、2つの指導を同時に行う負担が大きすぎたわけです。
一方で、算定回数そのものは直近で増加に転じています。令和7年のデータでは、1月が約17万回、2月が約15万回であったのに対し、3月には約21万回へ大きく増加しました。その後も4月・5月と20万回台で推移しています。期中改定による点数の引上げと周知が、算定行動に影響したとみられます。適正な評価があれば現場は動く、という結果です。
新設される口腔機能実地指導料(46点)の算定要件
新設される口腔機能実地指導料は46点で、算定上限は月1回です。算定にあたっては、対象患者、歯科医師の指示、指導の実施、文書提供という4つの条件をすべて満たす必要があります。
対象となる患者と算定までの流れ
対象患者は、口腔機能の発達不全を有する患者、または口腔機能の低下を来している患者です。この範囲は、現行の口腔機能指導加算と変わりません。
算定までの流れは、次の4ステップです。第1に、対象患者を特定します。第2に、主治の歯科医師が指導の指示を出します。第3に、研修を受講した歯科衛生士が実地指導を行います。第4に、指導内容に係る情報を文書により提供します。
このうち見落とされやすいのが、第4の文書提供です。文書提供は算定要件に明記されているため、指導を実施しただけでは算定できません。なお、文書の記載事項や提供先は算定要件に示されていないため、通知の内容を待つ必要があります。
施設基準|研修を受けた歯科衛生士の配置と届出
算定するには、施設基準を満たしたうえで地方厚生局長等へ届け出る必要があります。施設基準は2つです。1つは、口腔機能の指導等に係る適切な研修を受けた歯科衛生士を1名以上配置していること。もう1つは、歯科衛生士が口腔機能の指導を行うための設備および体制を有していることです。
歯科衛生士が受講すべき研修は、口腔機能発達不全症および口腔機能低下症の実地指導に係る研修とされています。研修が要件化された理由は、口腔機能低下症などへの指導が専門的知識を前提とするためです。中医協の資料では、ICF(国際生活機能分類)や健康行動理論を用いた指導に効果が示されていることが紹介され、関連学会でも研修プログラムが計画されています。ただし、要件に該当する研修の具体的な範囲は、今後の通知で示される見込みです。
新旧比較|3つの変更点
現行の加算と新設の指導料を項目ごとに並べると、変更点が明確になります。
| 項目 | 旧:口腔機能指導加算 | 新:口腔機能実地指導料 |
|---|---|---|
| 評価の枠組み | 歯科衛生実地指導料の加算 | 独立した指導料 |
| 点数 | 12点 | 46点 |
| 実地指導との同時実施 | 必須 | 要件に規定なし |
| 歯科衛生士の要件 | 規定なし | 所定の研修の受講 |
| 施設基準の届出 | 不要 | 必要 |
| 文書提供 | 規定なし | 必須 |
変更点は、大きく3つに整理できます。第1に、評価の枠組みが加算から独立した指導料へ変わります。第2に、研修の受講と施設基準の届出が新たな条件として加わります。第3に、文書提供が算定の必須条件となります。
注意点|46点は「34点の増点」ではありません
点数の比較には注意が必要です。12点が46点になったことをもって、34点の増点と捉えることはできません。
現行の12点は、ベースとなる歯科衛生実地指導料(80点または100点)への上乗せだったからです。歯科衛生実地指導料1を算定する場合、旧制度では80点+12点で合計92点となります。歯科診療特別対応加算を算定している患者では、実地指導料2の100点に12点を加えた112点です。これに対し新制度の46点は、独立した指導料です。歯科衛生実地指導料との併算定の可否によって、実際の収入は大きく変わります。
新設の算定要件には「実地指導と併せて」という文言が置かれていません。この点から、同時実施を前提としない建付けであることが読み取れます。ただし他の指導料との併算定が実際にどう扱われるかは、今後発出される告示・通知で確認する必要があります。
改定施行までに準備すべき3点
施行と同時に算定を始めるには、3つの準備を進めておきましょう。
1. 研修の受講計画の策定 要件に該当する研修プログラムの通知を注視し、対象となる歯科衛生士の受講スケジュールと予算を早めに確保します。研修は算定の前提条件であるため、最も早く着手すべき項目です。
2. 施設基準の届出準備 指導に必要な設備要件を確認したうえで、地方厚生局への届出書類を整えます。届出の時期や経過措置の有無についても、通知で確認してください。
3. 提供文書の様式整備 文書提供が算定の必須条件となるため、通知の内容を踏まえて電子カルテや紙のテンプレートを用意します。様式を事前に組み込んでおくと、現場の負担を抑えられます。
よくある質問(FAQ)
- 口腔機能指導加算は、令和8年度改定でどうなりますか。
- 口腔機能指導加算(12点)は削除されます。これに代わり、独立した項目として口腔機能実地指導料(46点)が新設されます。ただし新設の指導料には、研修を受けた歯科衛生士の配置、施設基準の届出、指導内容の文書提供という3つの条件が付くため、届出を行っていない医療機関は算定できません。
- 歯科衛生実地指導料と口腔機能実地指導料は、同時に算定できますか。
- 現時点では確定していません。新設される口腔機能実地指導料の算定要件には「実地指導と併せて」という文言が置かれておらず、同時実施を前提としない建付けであることが読み取れます。ただし併算定の可否については、今後発出される告示・通知および疑義解釈で確認する必要があります。
- 算定するには、どのような研修を受ければよいですか。
- 算定要件では、口腔機能発達不全症および口腔機能低下症の実地指導に係る研修を受講した歯科衛生士が指導を行うこととされています。施設基準でも、適切な研修を受けた歯科衛生士を1名以上配置することが求められます。関連学会では口腔機能検査法や口腔機能訓練法などを扱う研修プログラムが計画されていますが、要件に該当する研修の具体的な範囲は今後の通知で示される見込みです。
まとめ
令和8年度改定により、歯科衛生士による口腔機能の指導は、加算12点から独立した指導料46点へ移行します。算定には研修・届出・文書提供の3条件が必要となり、点数の見た目だけでは判断できない見直しです。研修の受講計画、届出の準備、提供文書の様式整備を早めに進め、制度開始と同時に算定できる体制を整えましょう。
音声で内容を確認したい方は、LISTENのエピソードもご活用ください。