病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【医療メディエーター】患者と医療者の対話を促す専門人材|役割と診療報酬上の評価

「説明したのに、納得してもらえない」「患者さんの不信感が消えない」——医療現場では、こうした患者と医療者のすれ違いが日常的に起こります。その背景にあるのが、両者の「認識の齟齬(ズレ)」です。このズレを放置すると、医療の質や安全性が損なわれ、ときに紛争へと発展します。本記事では、このすれ違いを埋める専門人材「医療メディエーター」に注目し、その役割と、診療報酬における評価をわかりやすく解説します。

医療メディエーターとは?対話を促す専門人材

医療メディエーターとは、患者と医療者双方の語りを偏りなく受け止め、対話を促すことで、情報共有と認識のズレの調整を支援する専門人材です。最大の特徴は、自分の見解や評価を示さない点にあります。原因の説明や解決策の提示は行わず、当事者同士が直接向き合う「場」をつくることに徹します。

医療メディエーター誕生の背景|「医療不信」への対応から

医療メディエーターが生まれた背景には、1999年以降に高まった医療不信があります。当時は医療事故が起きると医療機関と患者が対立しやすく、その対応がかえって患者の不信や怒りを深めることも少なくありませんでした。

転機となったのは2003年でした。日本医療機能評価機構の依頼を受けた専門家らが、対話を軸とする育成プログラムを開発します。2005年に育成が始まると活用は一気に進み、いまでは事故後の対応にとどまらず、日常の患者対応にまで広く取り入れられています。

医療メディエーターが守る4つの原則

医療メディエーターの関わり方は、次の4つの原則に支えられています。

  • 直接対話を促す:伝言役にはならず、患者と医療者が直接向き合う場を設定します。
  • 判断や評価をしない:原因説明や法的評価は、医師や弁護士など当事者が担うべき役割だからです。
  • 解決ではなく関係構築を目指す:解決を急ぐと意見や提案が増え、かえって対話が止まってしまいます。
  • 分け隔てなく心を聴く:患者だけに共感すると医療者が身構えるため、双方に同じ姿勢で接します。

院内のメディエーターは病院職員であるため、構造的な「中立」は掲げません。そのかわりに、傷ついたすべての人へ同じケア・マインドで接する「信頼にもとづく不偏性」に立つことを大切にします。

役割は「セッター」|自らアタックは打たない

この役割は、バレーボールのセッターにたとえられます。メディエーターは対話のトスを丁寧に上げるだけで、アタック、つまり実際のやり取りを担うのは医療者と患者です。あくまで対話を支える裏方に徹することが、両者の信頼につながります。

「資格」ではない理由|弁護士法との関係

医療メディエーターは、国家資格のような「資格」ではなく、だれもが学べる対話のモデルです。院内メディエーターになれるのが医療機関の職員に限られるのは、弁護士法との兼ね合いがあるためです。院外の第三者が医療事故の紛争に関わると、非弁行為に抵触するおそれがあります。一方、院内スタッフが関係の再構築を支援する場合は、示談交渉の一形態とみなされ、その問題は生じません。

診療報酬での評価|患者サポート体制充実加算(2012年新設)

医療メディエーションの考え方は、診療報酬の面からも後押しされています。その代表が、2012年に新設された「患者サポート体制充実加算」です。この加算は、患者やご家族の相談に応じる窓口や担当者を整えた医療機関を評価する仕組みで、メディエーションの考え方を制度として支えています。

導入のメリットは、現場にも広く及びます。事故時の初期対応が適切になり、小さなトラブルを早期に修復でき、さらに技法がスタッフへ浸透することで、日常の対話までも向上していきます。

まとめ|「解決」ではなく「つなぐ」

ここまで見てきたように、医療メディエーターは、患者と医療者が再び向き合うための「橋渡し役」を担う存在です。その本質は、問題を「解決する」ことではなく、人と人を「つなぐ」ことにあります。診療報酬の患者サポート体制充実加算として評価されているように、その役割は制度の面でも重視されはじめています。患者中心の医療と、働きやすい医療現場を実現するうえで、医療メディエーターの存在は今後ますます大きくなるでしょう。


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