令和8年度診療報酬改定では、在宅歯科医療の評価体系が大きく見直されます。本記事では、改定項目を順に解説するのではなく、「自院は追い風を受けるのか、それとも逆風に直面するのか」という視点から、医療機関のタイプ別に改定インパクトを整理します。
改定の方向性は明確です。丁寧な訪問診療は評価を引き上げ、大規模・短時間型の効率追求モデルは評価を引き下げるという二極化です。本記事では、改定の本質を理解したうえで、自院がどのタイプに該当し、何をすべきかが整理できる構成でお届けします。
- 改定の本質:質の二極化と「3つの戦略的意図」
- タイプ別インパクト①:小規模・高機能特化型は追い風
- タイプ別インパクト②:大規模・効率型には強烈な逆風
- タイプ別インパクト③:病院・地域連携型には新たな参入機会
- 多職種連携の鍵:歯科衛生士の活用拡大
- 改定への対応で押さえるべき3つの行動
- まとめ:改定は減算ではなく投資である
改定の本質:質の二極化と「3つの戦略的意図」
今回の改定には6つの見直し項目がありますが、これらは独立したルール変更ではありません。背景には、国の「3つの戦略的意図」が読み取れます。
第一の意図は、施設機能と教育体制への評価集中です。加算制度の再編、在宅療養支援歯科病院・診療所の施設基準見直しが、ここに該当します。第二の意図は、大規模訪問の適正化です。歯科訪問診療4・5の施設基準新設と、訪問歯科衛生指導料の人数別評価見直しが該当します。第三の意図は、多職種連携と権限委譲です。在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料への歯科衛生士の活用拡大が該当します。
この3つの意図を貫くのが、「量から質へ」というメッセージです。同一建物に居住する多数の患者を短時間で診療するモデルから、1人ひとりに必要な時間を確保するモデルへ。インセンティブの方向性が明確に変わりました。
タイプ別インパクト①:小規模・高機能特化型は追い風
最も恩恵を受けるのが、患者一人ひとりに時間をかけて丁寧に診療している小規模・高機能特化型の医療機関です。改定後の評価体系は、まさにこのタイプの実態を後押しする内容となっています。
具体的なメリットの第一は、訪問歯科衛生指導料の引き上げです。単一建物診療患者が1人の場合の点数は、362点から380点へと18点引き上げられました。丁寧な訪問指導を提供している医療機関にとって、直接的な収入増につながります。
第二のメリットは、施設基準クリアの間口拡大です。在宅療養支援歯科診療所1の施設基準には、新たに4つの選択肢が設けられました。直近1か月の訪問1〜3の合計10回以上、訪問2〜5のいずれかを5回以上算定しそのうち20分以上の割合が6割以上、リハビリ指導等5回以上、そして注目の新設ルートである臨床研修施設での若手育成。実績は少なくとも、研修体制を整えていれば届出が可能になります。
第三のメリットは、新加算体系での評価です。在宅歯科医療推進加算(100点)は今回の改定で廃止されますが、これに代わって施設基準に応じた3段階の加算が新設されました。在宅療養支援歯科診療所1の届出医療機関では、新たに「在宅療養支援歯科診療所加算1」として100点を歯科訪問診療1の所定点数に上乗せできます。なお、この加算は加算2・病院加算を含め、いずれも歯科訪問診療1を実施した場合に限り算定可能です。
タイプ別インパクト②:大規模・効率型には強烈な逆風
一方、同一建物で多数の患者を効率的に診療してきた大規模・効率型の医療機関には、複数の逆風が同時に吹きます。
最大のリスクは、歯科訪問診療4・5への50パーセント減算です。同一建物10〜19人の歯科訪問診療4、20人以上の歯科訪問診療5に新たな施設基準が設けられ、これを満たさない場合は所定点数および加算点数の100分の50で算定する取扱いとなります。施設基準は2つの要件で構成されます。第一に、訪問診療1または2の実績もしくは地域連携の実績。第二に、適切に実施できる体制の確保です。
ただし、医療機関に対応の時間を与えるため、令和9年5月31日までの経過措置が設けられています。逆に言えば、この日までに新基準をクリアできない場合、令和9年6月1日以降は減算が発動します。経過措置終了までの約1年が、対応のタイムリミットです。
第二のインパクトは、訪問歯科衛生指導料の引き下げです。単一建物診療患者が10人以上の場合、点数は295点から260点へと35点引き下げられました。背景には、同一建物の患者数が増えるほど指導時間が20分ぎりぎりとなる実態への問題意識があります。「効率追求型のモデルそのものの利益率を再評価する必要がある」というのが、改定が突きつけた現実です。
第三のインパクトは、「特別の関係」への一律評価です。当該保険医療機関と特別の関係にある他の保険医療機関等で療養を行う患者への訪問歯科衛生指導は、人数区分に関わらず一律140点となります。関連法人内での算定構造を持つ医療機関は、収支シミュレーションの見直しが急務です。
タイプ別インパクト③:病院・地域連携型には新たな参入機会
在宅療養支援歯科病院は、令和6年8月時点で全国の届出がわずか22施設にとどまっています。この状況を打開するため、施設基準が大幅に柔軟化され、病院・地域連携型の医療機関にとっては新たな参入機会となります。
これまでの施設基準は「歯科訪問診療1〜3を年18回以上算定」というほぼ単一の条件でしたが、改定後は4つの経路から選択可能になります。1つ目は、訪問1〜3の算定に加えて他院からの受入実績を合算して18回以上。2つ目は、訪問2〜5を5回以上算定し、そのうち20分以上の割合が6割以上。3つ目は、在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料等を10回以上。4つ目は、研修歯科医を受け入れ歯科訪問診療に係る教育を実施している臨床研修施設であることです。
地域連携実績の選択肢も拡充されました。在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料、退院時共同指導料1、医科連携訪問加算、在宅歯科医療連携加算1・2、小児在宅歯科医療連携加算1・2、在宅歯科医療情報連携加算、退院前在宅療養指導管理料、在宅患者連携指導料、在宅患者緊急時等カンファレンス料のいずれかの算定があれば、要件を満たせます。地域診療所からの依頼を受け入れる「後方支援機能」を持つ病院が、明確に評価される設計となりました。
多職種連携の鍵:歯科衛生士の活用拡大
タイプを問わず、すべての医療機関にとって押さえるべき改定が、在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料の見直しです。
これまで歯科医師のみに限定されていた指導の実施者として、新たに「歯科医師の指示を受けた歯科衛生士」が位置づけられました。歯科衛生士が単独で算定できるわけではなく、あくまで歯科医師の指示が前提となりますが、現場の実態に即した適切な権限委譲と言えます。
加えて、自宅で療養する患者を対象とした「在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料4」(100点)が月1回算定可能な区分として新設されました。対象は、自宅で療養を行っている患者であって、歯科疾患在宅療養管理料、在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料、または小児在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料を算定しているものです。
ただし注意点が1つあります。区分番号B001-2-2に掲げる口腔機能実地指導料を算定している月は、本指導料1〜4のいずれも算定できません。算定対象を整理する際には、この併算定不可ルールに留意が必要です。
改定への対応で押さえるべき3つの行動
ここまでの内容を踏まえ、すべての医療機関が共通して取り組むべき行動を3つに整理します。
第一に、自院の届出区分と算定実績の再点検です。自院がどのタイプに該当するか、現在の届出は改定後も維持できるか、新たに取得できる加算はあるか、現時点で棚卸しすることが出発点となります。
第二に、新要件に対応するためのデータ収集の開始です。「20分以上の歯科訪問診療を算定した回数の割合」「研修歯科医の受入状況」など、改定後の施設基準で評価されるデータの収集体制を、早期に整える必要があります。
第三に、令和9年5月31日からの逆算スケジュール作成です。経過措置の終了日を起点に、施設基準クリアまでの工程を逆算し、四半期ごとのマイルストーンを設定することをお勧めします。
まとめ:改定は減算ではなく投資である
令和8年度改定は、単純な点数の上げ下げではありません。「次世代の在宅歯科医療」を担う覚悟のある医療機関への、国からの明確な投資です。
丁寧な訪問診療を行う医療機関には新たな加算が、地域連携を担う病院には参入機会が、若手育成に取り組む医療機関には新たな評価ルートが、それぞれ用意されました。一方で、量と効率に依存したモデルには明確な見直し圧力がかかります。
この改定の方向性を読み解き、自院の戦略を組み立てることが、今後の在宅歯科医療経営の鍵となります。
本記事の元となった背景の詳細LISTENのエピソードもあわせてお聴きください。