病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】内視鏡手術用支援機器加算とは|ロボット手術200例以上で15,000点を算定

令和8年度診療報酬改定で、ロボット手術に関する新たな評価として「内視鏡手術用支援機器加算」が新設されました。本加算は、年間200例以上のロボット手術を実施する保険医療機関を対象に、手術1件につき15,000点を算定するものです。本記事では、新加算が新設された背景、算定要件と施設基準、そして実務上の最大の注意点であるK843-4の非対称な取扱いについて、算定実務担当者の視点で整理します。本記事のテーマは、LISTENのエピソードでも詳しく解説していますので、音声で聴きたい方はあわせてご活用ください。

なぜ新加算が新設されたのか:背景にある2つの課題

新加算の新設には、ロボット手術を取り巻く2つの構造的な課題があります。これらの課題は、いずれも「高額医療機器の効率的活用と集約化」という政策方針へとつながっています。

1つ目の課題は、算定実績が医療機関ごとに大きく分散している現状です。令和6年時点で、ロボット手術を算定する医療機関は675施設、総算定回数は約11.3万回に達しています。しかし、年間150回未満の施設が全体の59%を占める一方で、年間250回以上の施設はわずか22.8%にとどまります。この上位層22.8%の施設が、全体の手術件数の55.5%を担っており、症例の偏在と集約傾向が同時に進行している状況です。

2つ目の課題は、ロボット手術の医療材料費の高さです。外保連試案2026によれば、肺悪性腫瘍手術(肺葉切除等)における償還できない医療材料費は、腹腔鏡下等手術の175,762円に対し、ロボット手術は511,584円と約2.9倍に達します。胃悪性腫瘍手術(全摘)でも、腹腔鏡下等手術の346,240円に対しロボット手術は697,582円と約2.0倍であり、いずれも高額な材料費が医療機関の経営を圧迫する要因となっています。

こうした課題を踏まえ、令和8年度診療報酬改定では、多数の手術を実施する医療機関への評価を新設する方針が打ち出されました。これにより、医療機器の効率的活用と高額医療機器の集約化を同時に促進する設計といえます。

内視鏡手術用支援機器加算の概要:15,000点と算定対象25区分

内視鏡手術用支援機器加算は、所定の手術1件ごとに15,000点を算定する加算です。算定対象は、悪性腫瘍手術およびそれに準じた手術のうち、内視鏡手術用支援機器を用いた症例に限定されます。

算定対象は25区分にわたります。ただし、K514-2は枝番2と枝番3が、K655-2は枝番3が、K655-5は枝番3が、K657-2は枝番4のみが対象となるため、対象手術項目は実質的に26項目になる点に注意が必要です。

対象手術を領域別に整理すると、以下のとおりです。

頭頸部領域は2区分です。具体的には、K374-2(鏡視下咽頭悪性腫瘍手術)とK394-2(鏡視下喉頭悪性腫瘍手術)が対象となります。

胸部領域は7区分です。具体的には、K502-5(胸腔鏡下拡大胸腺摘出術)、K504-2(胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術)、K514-2(胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術、枝番2と3が対象)、K529-2およびK529-3(食道悪性腫瘍手術)、K554-2(胸腔鏡下弁形成術)、K555-3(胸腔鏡下弁置換術)が含まれます。なお、K514-2は枝番2と3の両方が対象となるため、手術項目としては8項目に相当します。

腹部領域は9区分です。具体的には、K655-2の3(腹腔鏡下胃切除術・悪性腫瘍)、K655-5の3(腹腔鏡下噴門側胃切除術・悪性腫瘍)、K657-2の4(腹腔鏡下胃全摘術・悪性腫瘍)、K674-2(腹腔鏡下総胆管拡張症手術)、K695-2(腹腔鏡下肝切除術)、K702-2(腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術)、K703-2(腹腔鏡下膵頭部腫瘍切除術)、K719-3(腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術)、K740-2(腹腔鏡下直腸切除・切断術)が含まれます。

泌尿器・婦人科領域は7区分です。具体的には、K755-2(腹腔鏡下副腎髄質腫瘍摘出術)、K773-5(腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術)、K773-6(腹腔鏡下尿管悪性腫瘍手術)、K778-2(腹腔鏡下腎盂形成手術)、K803-2(腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術)、K865-2(腹腔鏡下仙骨腟固定術)、K879-2(腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術、子宮体がんに限る)が対象です。

合計すると、区分番号としては25区分、手術項目としては実質26項目という構成になります。

施設基準を構成する4つの要件

施設基準は、症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4つの観点で構成されます。これらの基準を満たし、地方厚生局長等へ届出を行った保険医療機関のみが算定可能です。

症例数要件は、年間200例以上のロボット手術実績です。この200例には、後述するK843-4の症例も含まれる点が、本加算の最大の特徴となっています。

人員配置要件は、3つの観点から定められています。まず、麻酔科の標榜と常勤麻酔科標榜医の配置が求められます。次に、常勤の臨床工学技士を1名以上配置する必要があります。さらに、緊急手術が可能な周術期体制の整備も求められます。これらは、ロボット手術を安全に実施するための周術期体制を担保する要件です。

機器管理要件は、保守管理計画の策定と適切な実施、および関連学会が行うレジストリへの参加です。レジストリ参加は、手術患者の長期予後情報を収集し、医療技術のエビデンスを蓄積する役割を担います。

情報公開要件は、前年の実績(症例数および平均在院日数)を自院のウェブサイトに掲載することです。本要件には、令和9年5月31日までの経過措置が設けられており、それまでの間は未掲載でも要件を満たすものとみなされます。算定を予定する医療機関は、この経過措置期間内にウェブサイトの整備を完了させる必要があります。

算定実務における最大の注意点:K843-4の非対称な取扱い

本加算の運用において最も注意すべき点は、K843-4(腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術)の取扱いが「非対称」になっていることです。この非対称性を正しく理解していないと、施設基準の誤届出や算定誤りにつながる可能性があります。

K843-4は、施設基準である「年間200例」の症例数カウント対象には含まれます。前立腺がんに対するロボット手術は症例数が多い領域であるため、200例というハードルをクリアするための「分子」として重要な役割を果たします。

一方で、K843-4は加算15,000点の算定対象には含まれません。つまり、K843-4の手術を実施しても、その手術自体に本加算を上乗せして算定することはできない構造になっています。

この非対称性は、現場運用において2つのリストの厳格な区別を要求します。施設基準の充足判定には26区分のリスト(K843-4を含む)を用い、加算算定の可否判断には25区分のリスト(K843-4を除く)を参照する必要があります。両者を取り違えると、施設基準の誤届出による不適切な算定や、過剰請求といったリスクが発生します。

算定獲得に向けた実務対応:押さえるべき3つのステップ

算定獲得に向けた実務対応は、3つのステップで進めることを推奨します。これらのステップは、令和9年5月31日の経過措置終了日から逆算して計画することが重要です。

ステップ1は、自院の算定実績の監査とリスト分離です。外科部門と医事課が合同で、過去1年間のロボット手術件数を監査し、200例という症例数要件をクリアできる見込みかを確認します。あわせて、「カウント用(K843-4を含む26区分)」と「算定用(K843-4を除く25区分)」の二重管理フローを、電子カルテと医事システム上に構築する必要があります。

ステップ2は、周術期体制とレジストリ要件の確保です。臨床工学技士の常勤配置や麻酔科を含めた緊急対応フローの文書化を進めるとともに、関連学会レジストリへのデータ登録体制の運用を開始します。

ステップ3は、ウェブサイトでの情報公開の準備です。前年度の症例数と平均在院日数を院外向けウェブサイトに掲載する設計を、IT部門へ依頼します。経過措置の終了日が令和9年5月31日であるため、それまでに公開できる体制を整えることが求められます。

成功の鍵は、外科チーム、医事請求部門、IT部門の早期かつ強固な連携にあります。3部門のいずれが欠けても、施設基準のクリアや適正な算定が困難になるため、改定施行前から横断的な準備を進めることが望まれます。

まとめ

内視鏡手術用支援機器加算は、ロボット手術の集約化と安全性・効率性の向上を目指す重要な改定です。算定対象は手術1件につき15,000点、対象は悪性腫瘍手術等の25区分(実質26項目)です。施設基準は症例数、人員配置、機器管理、情報公開の4要件で構成され、情報公開要件には令和9年5月31日までの経過措置が設けられています。

実務上の最大の注意点は、K843-4(腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術)の非対称な取扱いです。症例数カウントには含まれるが加算算定対象には含まれないという構造を正しく理解し、現場では2つのリストを明確に分離して運用することが不可欠です。

算定を目指す保険医療機関は、対象手術の正確な把握、施設基準のクリア、そして経過措置期間内のウェブサイト整備を、外科・医事・ITの3部門連携で計画的に進めることが期待されます。本記事のテーマは、LISTENのエピソードでも詳しく解説していますので、あわせてご活用ください。