「患者のための薬局ビジョン」の策定から10年が経過しました。この10年で処方箋集中率が85%を超える薬局の割合はむしろ増加し、医療モール内の薬局や調剤基本料2を算定する薬局の損益率は他の薬局より高い水準にあります。厚生労働省は、こうした立地に依存する構造からの脱却と薬剤師の職能発揮を、令和8年度診療報酬改定の課題と位置づけました。
本記事では、個別改定項目「Ⅲ-8-① 調剤基本料の見直し」を、自局の算定区分を判定する視点から整理します。点数の増減だけでなく、判定の前提となる計算ルールが変わる点が今回の特徴です。なお、本記事の内容はポッドキャスト番組でも解説していますので、あわせてLISTENのエピソードもお聴きください。
- 改定の背景:「立地」で稼ぐ構造に歯止め
- 調剤基本料1は47点へ:引き上げの対象は2区分
- 調剤基本料2・3の対象拡大:基準の引き下げと統合
- 門前薬局等立地依存減算15点:2つの類型と経過措置
- 処方箋集中率・受付回数の計算ルール変更
- 自局への影響を確認する3ステップ
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
改定の背景:「立地」で稼ぐ構造に歯止め
今回の見直しは、立地に依存する薬局の評価を下げ、面分業を担う薬局の評価を上げる方向で設計されています。厚生労働省がこの設計を選んだ理由は、過去10年の実態にあります。
門前や医療モールという立地が、収益性を左右してきました。中医協に示されたデータでは、医療モール内の薬局や調剤基本料2を算定する薬局の損益率が、他の薬局を上回っています。かかりつけ機能への移行を促してきたにもかかわらず、立地に依存するモデルのほうが有利な状態が続いてきたわけです。
判定基準の「抜け道」も、見直しの引き金になりました。集中率をわずかに下げるために遠方の高齢者施設の処方箋を受け入れる。医療モール内の複数クリニックからの処方箋を分散して受けていると整理する。こうした運用が基準の回避につながっていると指摘されてきました。今回は点数だけでなく、集中率と受付回数の計算方法にも手が入っています。
調剤基本料1は47点へ:引き上げの対象は2区分
点数の引き上げは、面分業を推進する観点から2つの区分で行われます。対象は調剤基本料1と調剤基本料3のハで、いずれも2点の引き上げです。
調剤基本料1は45点から47点になります。 調剤基本料1は、調剤基本料2、調剤基本料3、特別調剤基本料のいずれにも該当しない薬局が算定する区分です。特定の医療機関に依存せず、地域から広く処方箋を応需する薬局が、今回の評価の中心に置かれました。
調剤基本料3のハは35点から37点になります。 改定後の調剤基本料3のハは、同一グループの受付回数が1月40万回を超えるグループに属し、かつ処方箋集中率が85%以下である薬局が対象です。大手グループに属していても、特定の医療機関に依存しない店舗であれば評価する。規模ではなく機能を見る姿勢が表れています。
2点の引き上げは、1回あたり20円です。処方箋を月1,500回受け付ける薬局なら、月3万円、年36万円の増収になります。金額としては大きくありませんが、後述する減算15点との差は無視できません。
調剤基本料2・3の対象拡大:基準の引き下げと統合
調剤基本料2と調剤基本料3の施設基準は、特定の医療機関に依存する薬局をより広く捉える方向で見直されます。ここで注意したいのは、「基準が下がる」ことが薬局にとっては厳しくなる、という点です。
調剤基本料2は、集中率85%超・受付回数1月1,800回超に一本化されます。 現行は、受付回数2,000回超なら集中率85%超、受付回数1,800回超なら集中率95%超という2つの基準がありました。統合の結果、受付回数1,800回超2,000回以下で集中率85%超95%以下の薬局が、新たに対象に加わります。
都市部の薬局には、受付回数600回超という基準が新設されます。 適用されるのは、施設基準の別表に定める地域に所在し、かつ水平距離500メートル以内に他の保険薬局がある場合に限られます。別表の地域とは、20の政令指定都市と東京23区です。この基準では、集中率85%超・受付回数600回超で調剤基本料2に該当します。
なお、条文自体に「新規開設」という要件はありません。既存の薬局の多くは経過措置で対象から外れるため、結果として新規開設の薬局が実質的な対象になります。その経過措置とは、令和8年5月31日時点で受付回数が1月当たり1,800枚以下として届け出ており、その後も継続して1,800枚以下である薬局を、当面の間、集中率85%以下とみなすというものです。
調剤基本料3のイは、受付回数3万5千回超40万回以下で判定されます。 この回数に該当するグループの薬局のうち、集中率85%超、または特定の医療機関との間で特別な関係があるものが対象です。現行は、3万5千回超4万回以下なら集中率95%超、4万回超40万回以下なら集中率85%超という2階建てでした。あわせて、医療機関との関係を示す要件が「不動産の賃貸借取引」から「不動産取引等その他の特別な関係」へ拡大されます。
調剤基本料3のロとハからは、店舗数300以上の要件が削除されます。 判定はグループ合計の受付回数が1月40万回を超えるかどうかに一本化されます。令和6年度改定の後、300店舗以上のグループの損益率が低い水準になった実態が背景です。店舗数は多いが受付回数が40万回以下というグループでは、区分が変わる可能性があります。
門前薬局等立地依存減算15点:2つの類型と経過措置
門前薬局等立地依存減算は、所定点数から15点を減算する新しい仕組みです。対象は2つの類型に分かれます。いずれの類型でも、特別調剤基本料Aを算定する薬局は対象から除かれます。
類型1は、都市部で薬局が密集する立地です。 次の3つの要件をすべて満たす場合に該当します。1つ目は、別表の地域に所在し、水平距離500メートル以内に他の保険薬局があること。2つ目は、処方箋集中率が85%を超えること。3つ目は、次のいずれかに当てはまることです。
- 許可病床数200床以上の病院の敷地境界線から100メートル以内にあり、その区域内と病院の敷地内に他の薬局が2つ以上ある
- 周囲50メートル以内に他の薬局が2つ以上ある
- 周囲50メートル以内にある他の薬局が、1つ上の条件(周囲50メートル以内に他の薬局が2つ以上ある)に当てはまる
類型2は、医療機関と同一の敷地内または建物内にある薬局です。 集中率85%超という要件と組み合わさるため、いわゆる敷地内薬局と医療モール内の薬局が想定されています。
既存の薬局には、減算を適用しない経過措置が置かれます。 令和8年5月31日時点で保険薬局の指定を受けている薬局は、当面の間、類型1・類型2ともに対象外として扱われます。つまりこの減算は、既存店への罰則ではありません。令和8年6月以降の立地依存型の新規出店を抑えるストッパーとして機能します。
減算15点は、1回あたり150円です。月600回の薬局で月9万円、月1,000回の薬局なら月15万円、年180万円の減収になります。出店計画の採算に直接影響する水準です。
処方箋集中率・受付回数の計算ルール変更
集中率と受付回数の計算方法も見直されます。点数表の変更ではないため見落とされやすい一方、区分の判定を左右する重要な改定です。変更点は3つあります。
1つ目は、医療モールの複数医療機関を1つとみなす取り扱いです。 同一の建物内または敷地内に複数の医療機関がある場合、それらの処方箋の受付回数をすべて合算し、特定の1医療機関からの受付回数として集中率を計算します。処方箋を分散させて基準を下回っていた薬局は、85%超や上位3医療機関の合計70%超に該当しやすくなります。
2つ目は、施設入居者の処方箋を集中率の計算から除外することです。 対象は、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、認知症高齢者グループホームの入居者です。ただし、単一建物診療患者または単一建物居住者が1人の場合の処方箋は除外されません。分母を膨らませて集中率を低く見せる手法は、今後は通用しなくなります。
3つ目は、在宅・施設の処方箋を受付回数に算入することです。 これまで受付回数から除かれていた在宅患者訪問薬剤管理指導料などに係る処方箋が、算入対象になります。改定後、受付回数から除外されるのは時間外等処方箋だけです。在宅対応が多い薬局では、1,800回という基準を超えやすくなります。
自局への影響を確認する3ステップ
新しいルールでの再計算は、次の3ステップで進めると漏れがありません。順番に確認してください。
ステップ1は、処方箋集中率の再計算です。 医療モールの複数医療機関を1つに合算したうえで、施設入居者の処方箋(単一建物1人の場合を除く)、オンライン服薬指導の処方箋、同一グループ勤務者とその家族の処方箋を除外して算出します。85%を超えるかどうかが最初の分岐点です。
ステップ2は、処方箋受付回数の再計算です。 在宅・施設の処方箋を算入し、時間外等処方箋のみを除いて集計します。都市部の600回、1,800回、そして上位3医療機関の合計が70%を超える場合に関係する4,000回。このどこに位置するかを確認してください。集中率が85%を超えている薬局ほど、この回数が重要になります。
ステップ3は、立地条件の確認です。 別表の地域に所在するか、水平距離500メートル以内に他の薬局があるか、200床以上の病院から100メートル以内か、周囲50メートル以内に他の薬局が2つ以上あるか、医療機関と同一の敷地内・建物内か。既存店は当面対象外ですが、新規開設や移転を検討している場合は必ず確認が必要です。
よくある質問(FAQ)
- 既存の薬局も門前薬局等立地依存減算15点の対象になりますか?
- 令和8年5月31日時点で保険薬局の指定を受けている薬局は、当面の間、この減算の対象外として扱われます。類型1(都市部の密集地域)と類型2(医療機関と同一の敷地内・建物内)のいずれも同じ扱いです。したがって実質的な対象は、令和8年6月1日以降に新規開設する薬局になります。ただし「当面の間」という規定であり、恒久的な措置ではない点にご注意ください。
- 医療モール内の薬局は、処方箋集中率の計算がどう変わりますか?
- 同一の建物内または同一の敷地内に複数の医療機関が所在する場合、それらの処方箋の受付回数をすべて合算し、特定の1つの医療機関からの受付回数とみなして集中率を計算します。これまで各クリニックに処方箋が分散することで基準を下回っていた薬局は、集中率85%超や、上位3医療機関の合計70%超という基準に該当しやすくなります。医療モールに立地する薬局は、新しいルールでの再計算が欠かせません。
- 介護施設の入居者に交付された処方箋は、どのように扱われますか?
- 処方箋受付回数には算入し、処方箋集中率の計算からは除外します。対象は、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、認知症高齢者グループホームの入居者です。ただし、単一建物診療患者または単一建物居住者が1人の場合の処方箋は除外されません。在宅対応が多い薬局では受付回数が増えるため、1月1,800回という基準に注意が必要です。
まとめ
令和8年度改定の調剤基本料は、評価の軸が「立地」から「機能」へと移ります。面分業を担う薬局の調剤基本料1は45点から47点に引き上げられる一方、調剤基本料2と3のイは基準が引き下げられ、対象となる薬局の範囲が広がります。
新規開設の薬局には、門前薬局等立地依存減算15点という強い歯止めがかかりました。医療モールの合算や施設処方箋の扱いが見直され、これまでの抜け道も塞がれています。
まずは自局の集中率と受付回数を、新しいルールで再計算してください。減算15点だけを見ても、月1,000回の薬局で年180万円の減収にあたります。令和8年6月を待たずに、影響を把握しておきましょう。