令和8年度診療報酬改定で、認知症ケア加算が見直されます。身体疾患で入院する認知症高齢者の安全と尊厳を守ることが、見直しの出発点です。
今回の見直しは、「ケアの評価を手厚くする」方向と「身体的拘束をより強く抑える」方向を組み合わせています。狙いは、現場任せにせず、組織で統一した取組を通じて身体的拘束の最小化を進めることにあります。本記事では、変更点を整理したうえで、医療機関がとるべき対応まで踏み込んで解説します。
なぜ今、認知症ケア加算が見直されるのか
見直しの背景には、認知症を抱えたまま身体疾患で入院する高齢患者の増加があります。こうした患者の安全を守るための身体的拘束をいかに減らすかが、近年の診療報酬改定で重要なテーマとなってきました。
ここで国が重視しているのが、現場任せにしない仕組みづくりです。身体的拘束を減らすには、現場スタッフ個人の努力や我慢に頼るのではなく、管理者が主体となった意識づくりが欠かせません。さらに、シフトの見直し、ベッド配置の変更、センサー付きマットレスの導入といった組織全体でのシステム変更も求められます。
こうした方向性を裏づけるデータも示されています。中央社会保険医療協議会の入院・外来医療等の調査・評価分科会の資料によると、令和6年度改定で減算が強化された後、身体的拘束を実施した日の割合は減少に転じました。この動向が、今回のさらなる厳格化を後押しする根拠の一つとなっています。
令和8年度改定の2つの変更点
今回の改定では、大きく2つの変更が行われます。一つは基本点数の引き上げ、もう一つは身体的拘束を実施した日の減算強化です。順に見ていきます。
変更点1:基本点数の引き上げ(ケアを評価する「飴」)
第1の変更は、認知症ケア加算の基本点数を全区分で引き上げることです。これは、適切なアセスメントや環境づくりに取り組む医療機関を後押しする措置です。
具体的な点数の変化は、現行から改定後の順に、次のとおりです。
- 認知症ケア加算1:14日以内が180点 → 186点、15日以上が34点 → 39点
- 認知症ケア加算2:14日以内が112点 → 115点、15日以上が28点 → 31点
- 認知症ケア加算3:14日以内が44点 → 47点、15日以上が10点 → 13点
この引き上げにより、専門スタッフの配置など、認知症患者への丁寧なケアに取り組むための経済的な裏付けが強まると期待されます。
変更点2:身体的拘束を実施した日の減算強化(拘束を抑える「鞭」)
第2の変更は、身体的拘束を実施した日の減算を強化することです。改定後は、拘束を実施した日の点数が、所定点数の100分の40から100分の20へと引き下げられます。
たとえば認知症ケア加算1(14日以内)の場合、拘束のない日は186点を算定できます。一方で、やむを得ず拘束を行った日は、その20%にあたる約37点にとどまります。拘束のない日に算定できる点数に対し、算定できる割合が半分の20%まで縮む計算です。
この減算は、段階的に強化されてきました。平成28年の新設当初は100分の60、令和6年度改定で100分の40、そして今回さらに100分の20へと引き下げられます。収益への影響を大きくすることで、経営層を含めた組織的な意識改革を促す仕組みです。
医療機関がとるべき対応
ここまでの2つの変更点は、医療機関に明確なメッセージを送っています。拘束を避けることの経済的なメリットが、かつてなく大きくなったということです。
そこで経営層に求められるのが、診療報酬という経済的動機を契機とした、根本的なシステムの見直しです。具体的には、統一した方針の策定、人員配置やシフトの再設計、センサー機器など見守りを支えるテクノロジーの導入が挙げられます。身体的拘束の最小化は、もはや現場の倫理的課題にとどまらず、病院経営の戦略課題へと位置づけが変わりつつあります。
まとめ
令和8年度診療報酬改定における認知症ケア加算の見直しは、基本点数の引き上げによる「ケアの評価充実」と、減算割合の引き下げによる「身体的拘束の抑制強化」という2つの方向を組み合わせたものです。両者は、組織で統一した取組を通じて身体的拘束の最小化を進めるという、一貫した方針でつながっています。
医療機関の経営層には、診療報酬という強力な経済的動機を契機として、物理的な環境整備やテクノロジーの導入を含めた、根本的なシステムの見直しが求められます。
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よくある質問(FAQ)
- 認知症ケア加算の対象となる患者は誰ですか?
- 身体疾患で入院した患者のうち、認知症高齢者の日常生活自立度判定基準でランクⅢ以上に該当する方が対象です(重度の意識障害がある方を除く)。算定は1日単位で行われ、入院後14日以内の期間と15日以上の期間で点数が分かれます。
- 身体的拘束を行うと、認知症ケア加算はまったく算定できなくなりますか?
- 算定できなくなるわけではありません。身体的拘束を実施した日も加算は算定できますが、所定点数の100分の20に減算されます。改定前は100分の40だったため、拘束を行った日に得られる割合が半分にまで縮む形になります。
- 認知症ケア加算1・2・3の違いは何ですか?
- ケアを担う体制の違いです。加算1は専任の医師・看護師・社会福祉士などからなる認知症ケアチーム、加算2は専任の医師または専門性の高い看護師、加算3は研修を受けた病棟看護師が主体となります。いずれの区分でも、身体的拘束を必要としない環境づくりと早期解除が算定の要件です。