令和8年度診療報酬改定では、高齢者住まい等に併設・隣接する訪問看護ステーションを対象に、新区分「包括型訪問看護療養費」が新設されます。1日当たり5,950円から15,500円までの9区分で算定する1日定額制であり、対象ステーションは届出をすべきかどうかの判断を迫られます。本記事では、新制度の概要を踏まえつつ、「自ステーションは届出すべきか」という実務担当者の意思決定に焦点を当て、判断軸を整理します。
そもそも包括型訪問看護療養費とは
包括型訪問看護療養費は、高齢者住まい等に併設・隣接する訪問看護ステーションが、当該住まいの居住者へ24時間体制で頻回訪問を行った場合に、1日単位で算定する新たな包括評価です。対象となる利用者は、別表第7該当の疾病等の者、別表第8該当者、または特別訪問看護指示書に係る対象者に限定されます。
点数は、単一建物居住利用者数と1日当たりの訪問時間の組み合わせで9区分が設定されています。利用者数の区分は「20人未満」「20人以上50人未満」「50人以上」の3段階、訪問時間は「30分以上60分未満」「60分以上90分未満」「90分以上」「90分以上で大臣が定める場合(特例)」の4段階です。
新制度の背景には、現行の出来高評価による訪問看護療養費の高額化があります。中医協が示した試算例では、別表第7該当者50名が居住する高齢者住まいで、併設ステーションが1日3回以上の頻回訪問(難病等複数回訪問加算・複数名訪問看護加算等を1日3回算定)を行うケースで、利用者1人当たり1月で約88万円に達する例が提示されました。こうした極端なケースを是正しつつ、24時間体制の質を担保する仕組みへの移行が求められたのです。
制度の詳細解説については、メルマガ版「【令和8年度改定】包括型訪問看護療養費を新設」で網羅的に整理しています。本記事では、制度を理解したうえで「自ステーションはどう動くべきか」という判断軸に絞って解説します。
届出を判断する3つの軸
軸1:収益インパクトの試算
最も重要な判断軸は、現行算定との収益差です。包括型では訪問看護管理療養費・24時間対応体制加算・夜間早朝加算・深夜加算・複数名訪問看護加算など主要な加算がすべて包括点数に吸収されます。
具体的に試算してみましょう。利用者50名が居住する建物で、1日の訪問時間合算が90分以上となる場合、包括型では1人当たり13,440円/日(50人以上区分・90分以上)、30日換算で約40万円です。利用者数が20人未満の建物で90分以上の訪問を行えば14,000円/日となり、月約42万円。利用者規模が小さいほど1人当たり点数が高く設定される構造になっています。
ここで注意すべきは、現行の出来高算定との比較は訪問頻度・加算算定状況によって大きく変動するという点です。中医協が示した月88万円の試算例は、1日3回以上の訪問と複数の高額加算を継続的に算定する前提条件下のケースです。自ステーションの実際の訪問頻度・加算算定実態に即した個別シミュレーションが不可欠であり、安易に「現行○○万円対包括型○○万円」という単純比較で判断すべきではありません。
軸2:オペレーション要件への適合度
第2の判断軸は、24時間体制の運用実態です。算定には、日中および夜間帯(午後6時から午前8時まで)にそれぞれ少なくとも1回ずつの訪問が必須となります。1日の訪問時間が60分以上になる場合は、1日3回以上の訪問が求められます。
さらに、1日に1回以上、准看護師を除く看護職員による訪問が含まれる必要があります。日々の計画書確認の責任者も准看護師では務まりません。「夜間は看護職員を配置していない」「日中の1回訪問のみ」というステーションは、現状の運用のままでは算定不可能です。
夜間配置基準も階段状に設定されています。対象利用者数が1~30名なら常時1名以上、31~80名で2名以上、81名以上は50名増すごとに1名追加が必要です。夜間専従の看護職員は建物外の利用者への訪問との兼務ができないため、専属人員の確保コストが新たに発生します。
軸3:DX体制と地域連携の準備状況
第3の判断軸は、記録の電子化と地域連携の実績です。訪問看護計画書および記録書を電子的方法で記録することが算定の必須要件となります。紙運用が残るステーションは、システム導入のコストと移行期間を見込む必要があります。
地域の保険医療機関等との連携実績(合同研修や事例検討会等)も施設基準に含まれますが、こちらは令和9年(2027年)5月31日までの経過措置が設けられています。経過措置期間中に、地域の医療機関と連携実績を意図的に蓄積するプロジェクトを立ち上げることが、令和9年6月以降の継続算定を左右します。
届出後に注意すべき実務上の落とし穴
届出を決めたステーションが見落としがちな実務上の論点を2つ挙げておきます。
落とし穴1:建物内の属性ミックス
届出を行った建物の居住者全員が一律で包括型の対象になるわけではありません。「大臣が定める者」に該当しない利用者(別表第7・第8該当者でも特別訪問看護指示書対象者でもない利用者)については、従来通り訪問看護基本療養費(Ⅱ)等を出来高で算定します。
つまり同じ建物内で、包括型を算定する利用者と出来高を算定する利用者が混在する状況が発生します。請求システム上で利用者ごとに正確な分岐処理を行う必要があり、事務部門の運用設計が重要になります。
落とし穴2:併算定可能な3つの例外
包括型を算定する日には、訪問看護管理療養費を含む多くの加算が併算定不可となりますが、例外として併算定できる項目が3つあります。訪問看護基本療養費(Ⅰ)、訪問看護基本療養費(Ⅱ)のハ、そして緊急訪問看護加算・精神科緊急訪問看護加算(別に定める場合を除く)です。
主要な加算が原則として包括点数に吸収される中、これら3つが別枠で算定可能となる点は収益設計上の重要なポイントです。具体的にどの訪問が「(Ⅱ)のハ」に該当するかについては、令和8年度改定の告示原文で確認のうえ運用設計を行うことをお勧めします。
まとめ:届出は「経営の質的転換」を伴う
令和8年度改定で新設される包括型訪問看護療養費は、単なる点数の追加ではなく、訪問看護ステーションの経営モデルそのものの転換を求めるものです。出来高加算の積み上げで収益を確保してきた従来型のビジネスモデルは、新制度の下では成立しません。
届出を検討する管理者には、収益シミュレーション、夜間シフト含むオペレーション再設計、完全ペーパーレス・DX体制への移行という3つの準備が求められます。制度施行までの限られた時間で、自ステーションの現状と新制度の要件を冷静に突き合わせ、戦略的な判断を下すことが期待されます。
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