令和8年度診療報酬改定で、児童思春期支援指導加算が2つの区分に分かれます。20歳未満の精神疾患患者を多職種で支える体制を評価するこの加算は、令和6年度に新設されました。しかし届出は伸び悩んでいます。そこで今回の改定では、初診患者数の要件を緩和した新区分が設けられます。
本記事では、制度の中身そのものよりも、「なぜ届出が進まなかったのか」「自院はどう判断すべきか」という視点で整理します。要件と点数の一覧を確認したい方は、記事末尾のポッドキャストと合わせてご覧ください。
なぜ届出が進まないのか|16県で3施設以下という現実
見直しの背景には、令和6年度に新設された同加算が、地域によってはほとんど広がっていない実態があります。厚生労働省保険局医療課の調べ(令和7年8月1日時点)によると、届出医療機関が3施設以下にとどまる県は16県に達しました。
未届の理由として最も多く挙がったのは、人材の確保です。「適切な研修を修了した医師の配置が困難」と答えた施設は、病院で54.7%、診療所で50.0%を占めました。「多職種の配置が困難」も、病院で46.7%、診療所で37.3%にのぼります。
これに次いで多かったのが、患者数の少なさです。「患者が少なく、過去6か月間に初診を実施した20歳未満の患者数が月平均8人未満」と答えた施設は、病院で42.0%、診療所で36.8%でした。
この数字は、地方の医療機関が置かれた構造的な立場を映していると考えられます。児童思春期の精神疾患には、専門的な知識をもつ多職種によるケアが欠かせません。当然、人件費と研修コストがかかります。ところが人口密度の低い地域では、月8人以上の初診患者が毎月安定して来院する保証がありません。つまり、コストは確実に発生するのに、加算が算定できるかどうかは不確実だったわけです。この非対称性が、届出をためらわせる経営的な理由になっていたと考えられます。
加算1と加算2の違い|分かれ目は実績要件だけ
今回の見直しは、この構造に対する回答にあたります。厚生労働省の公表資料に沿って、変更点を3つに整理します。
実績要件:加算2は「過去3か月・月平均4人以上」
第1に、実績要件に応じて加算が2区分に分かれます。加算1の要件は、過去6か月間の初診20歳未満患者が月平均8人以上です。これは現行と同じ水準です。
一方、新設される加算2の要件は、過去3か月間の初診20歳未満患者が月平均4人以上です。人数のハードルが半分になりました。あわせて、判定の対象期間も6か月から3か月に短縮されています。この期間短縮により、直近3か月の実績だけで該当判定ができるようになります。
点数:加算1は引き上げ、加算2は低い水準で新設
第2に、点数体系が再編されます。加算1は全区分で引き上げとなります。60分以上の通院・在宅精神療法を行った場合は、現行の1,000点から1,100点になります。ただし、この区分には「最初に受診した日から3か月以内」という条件が付きます。
加算2は、加算1を下回る水準で設定されます。同じ条件で500点です。注意したいのは、経過期間の区切りが両区分で異なる点です。加算1は最初に受診した日から2年を境に点数が下がりますが、加算2は1年が境目になります。加算2では、1年を超えた患者の点数が400点から100点へと大きく下がります。長期的に支援を続ける患者が多い施設では、この構造を前提に収支を見ておく必要があります。
なお、点数の区分でいう「最初に受診した日」は、その医療機関の精神科を最初に受診した日を指します。施設基準に出てくる「初診を実施した20歳未満の患者の数」とは別の概念ですので、混同しないようご注意ください。
体制要件:2区分で完全に共通
第3に、体制要件は2区分で共通です。医師と多職種の配置、および15時間以上の適切な研修修了は、加算2でも一切緩和されません。
ここが今回の改定の限界であり、同時に意図でもあります。未届の理由として最も多かった人材確保の困難さは、制度側では解決されていません。しかし裏を返せば、ケアの質は維持したまま、患者数という「量」の条件だけを引き下げた形です。すでに人員をそろえながら月8人の壁で届出を見送ってきた施設にとって、加算2は現実的な選択肢になります。
届出済みの医療機関が確認すべきこと
新区分の恩恵を受けるのは未届の施設だけではありません。すでに加算を届け出ている施設にも、確認すべき点があります。
加算1の実績要件は現行と同じ水準ですので、通常はそのまま継続できます。ただし、初診患者数が月平均8人を割り込むと、加算1の要件を満たせなくなります。このとき加算2の要件、すなわち過去3か月間で月平均4人以上を満たしていれば、加算2へ切り替える届出を行うことになります。どちらの要件も満たさない場合は、加算そのものを算定できません。
区分が下がったとき、影響が最も大きいのは、最初に受診した日から1年を超え2年以内の患者です。加算1なら490点ですが、加算2では100点になります。1回あたり390点の差です。経過期間の区切りが両区分で異なるため、この患者層だけ落差が突出します。届出済みの施設は、患者を通院期間別に把握したうえで影響額を試算しておくと安全です。
よくある質問(FAQ)
- 児童思春期支援指導加算2の施設基準は、加算1と比べてどこが緩和されますか。
- 緩和されるのは患者数の実績要件だけです。加算1は過去6か月間の初診20歳未満患者が月平均8人以上ですが、加算2は過去3か月間で月平均4人以上となります。一方、適切な研修を修了した精神科の専任常勤医師1名以上の配置、専任の多職種2名以上かつ2職種以上の配置(うち1名以上は適切な研修を修了していること)、15時間以上という研修の要件は、加算1と加算2で完全に共通です。加算2でも一切緩和されません。
- 加算2は届出しやすいとのことですが、注意すべき点はありますか。
- 最初に受診した日から1年を超えた時点で、点数が大きく下がる点に注意が必要です。加算2は、60分以上の通院・在宅精神療法を最初に受診した日から3か月以内に行った場合が500点、それ以外で1年以内が400点ですが、1年を超えると100点になります。加算1が2年を区切りとしているのに対し、加算2は1年が区切りです。長期にわたって支援を継続する患者が多い施設では、この点数の落差を前提に収支を見込む必要があります。
- 現在加算を届け出ていますが、初診患者数が月平均8人を下回った場合はどうなりますか。
- 加算1の実績要件を満たせなくなります。このとき加算2の要件である過去3か月間で月平均4人以上を満たしていれば、加算2へ切り替える届出を行うことになります。どちらの要件も満たさない場合は、加算そのものを算定できません。区分が下がったときに影響が最も大きいのは、最初に受診した日から1年を超え2年以内の患者です。加算1では490点ですが、加算2では100点となり、1回あたり390点下がります。患者を通院期間別に把握し、影響額を試算しておくことをおすすめします。
制度が整った先に残る課題
児童思春期支援指導加算の2区分化は、地域で子どもの精神疾患を受け入れる体制を広げる第一歩です。人数の壁を半分に下げたことで、これまで届出を見送ってきた施設にも道が開かれました。まずは自院の直近3か月の初診実績を確認し、加算2の届出を検討する価値があります。
ただし、制度が用意できるのはあくまで枠組みです。未届の理由として最も多く挙がった人材確保の困難さは、今回の改定では解消されません。専門研修を修了した医師と多職種を、地域でどう育て、どう定着させるか。枠組みが整った今、問われているのはこの点です。
なお、本記事の内容は個別改定項目(いわゆる短冊)の段階の情報にもとづきます。算定要件の細目や届出様式は今後の告示・通知で確定しますので、実際の届出にあたっては必ず正式な通知をご確認ください。
本記事の解説内容は、以下のポッドキャストエピソードでも詳しくお話ししています。ぜひ合わせてお聴きください。