病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】バイオ後続品使用体制加算の見直し|4つの変更点と経過措置

令和8年度診療報酬改定で、バイオ後続品使用体制加算の要件が全面的に見直されます。変更点は、算定日、実績要件、対象成分、掲示要件の4つです。届出済みの医療機関にとって特に重要なのは、令和9年5月31日までの経過措置を自院が使えるかどうかの判定です。本記事では、個別改定項目「Ⅳ-1-② バイオ後続品使用体制加算の見直し」を、自院で何を確認すべきかという視点で整理します。なお、本記事の内容はLISTENのポッドキャストエピソードでも解説しています。

この改定でまず確認すべき3つのこと

改定内容を読み込む前に、次の3点を確認してください。この3点で、自院が受ける影響の大きさがおおよそ判断できます。

1つ目は、従来から対象であった成分の取扱量です。 エポエチン、リツキシマブ、ソマトロピン、アダリムマブなど、現行で対象となっている成分のうち、直近1年間の規格単位数量が50以上のものが1つ以上あるかを確認します。ここが経過措置を使えるかどうかの分かれ目になります。

2つ目は、ラニビズマブの取扱いです。 この成分は、判定基準が50%から80%に引き上がります。使用量が多い医療機関ほど、影響が大きくなります。

3つ目は、月をまたぐ入院での算定状況です。 算定日が退院日に変わるため、加算を計上する月が動きます。長期入院の患者が多い医療機関では、レセプト運用の見直しが必要です。

なぜ全面的な見直しなのか|政府目標と実績の差

見直しの背景には、政府目標と現状との大きな開きがあります。政府は、2029年度末までに、バイオ後続品が80%以上を占める成分数を全体の60%以上とする目標を掲げています。これに対し、2024年度時点の実績は22.2%です。18成分のうち、達成しているのは4成分にとどまります。金額ベースの置換率も、令和6年薬価調査で33.7%です。(数値は中央社会保険医療協議会および社会保障審議会医療保険部会の資料によります)

今回の見直しは、この差を縮める施策の一つです。令和8年度診療報酬改定では、当該項目が「Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」に位置づけられています。医療機関に求められるのは、体制を整えることに加えて、実績を数字で管理することです。

変更点①|算定日は入院初日から退院日に変わる

算定日は、入院初日から退院日に変更されます。加算は、退院の日に1回に限り所定点数に加算します。

変更の理由は、算定方法の明確化です。入院初日の時点では、その患者にバイオ医薬品を使用するかどうかが決まっていない場合があります。中央社会保険医療協議会でも、この点が現場の実態として指摘されました。退院日であれば、入院期間中の使用実績が確定しています。入院2日目以降に使用を開始した患者も、加算の対象として整理されます。

実務上の影響は、レセプトの計上月に及びます。月をまたぐ入院では、加算を計上する月が入院月から退院月に移ります。長期入院の患者では、算定の時期が従来より後ろにずれます。退院時の確認手順を組み直し、算定漏れを防いでください。あわせて、告示・通知上の用語が「先発バイオ医薬品」から「先行バイオ医薬品」に改められます。

変更点②|実績要件は「使用回数100回超」から「規格単位数量50以上」へ

実績要件は、使用回数を問う形から、成分ごとの取扱量を問う形に再編されます。現行の「直近1年間の使用回数の合計が100回を超えること」という施設基準は廃止されます。かわりに、対象成分のうち少なくとも1つ以上の成分で、直近1年間に調剤した規格単位数量の合計が50以上であることが求められます。

現行の施設基準は、2階建ての構造でした。1階が使用回数の要件、2階が成分ごとの置換率の要件です。ただし、規格単位数量が50未満の成分は、置換率の判定から除外されていました。この構造では、置換率の判定が働かない場合が理論上ありえました。すべての対象成分が50未満であれば、判定する成分が1つも残らないためです。それでも使用回数が100回を超えていれば、加算は算定できました。

改定後は、少なくとも1成分で50以上という条件が加わるため、置換率の判定は必ず1成分以上で行われます。なお、規格単位数量が50未満の成分については、引き続き基準未満でも差し支えありません。判定の対象から外れるという扱い自体は変わらず、判定が完全に空振りする状態がなくなる、という理解が正確です。(改定資料は要件見直しの理由を明示していません。ここでの説明は、現行と改定後の条文を対比した解釈です)

ここでいう「対象成分」は、改定後のア・イに掲げる20成分すべてを指します。後述する経過措置の条件とは数える範囲が異なるため、混同しないようご注意ください。

変更点③|対象成分に7成分が加わり、ラニビズマブは80%区分へ移る

置換率を判定する対象成分には、80%以上の区分に4項目、50%以上の区分に4項目が加わります。この8項目のうち、ラニビズマブは50%区分から80%区分への移動です。したがって、新たに判定の対象となる成分は7成分となります。

80%以上の区分(改定後:8成分)

  • 現行から継続:エポエチン/リツキシマブ/トラスツズマブ/テリパラチド
  • 今回加わる4項目:ラニビズマブ(50%区分からの移動)/インスリングラルギン/ダルベポエチン/フィルグラスチム

50%以上の区分(改定後:12成分)

  • 現行から継続:ソマトロピン/インフリキシマブ/エタネルセプト/アガルシダーゼベータ/ベバシズマブ/インスリンリスプロ/インスリンアスパルト/アダリムマブ
  • 今回加わる4項目:アフリベルセプト/ウステキヌマブ/ペグフィルグラスチム/トシリズマブ

最も注意すべきはラニビズマブです。新規に追加された成分ではなく、求められる置換率が50%から80%に引き上がる成分です。すでに一定量を扱っている医療機関ほど、基準を満たせなくなるリスクが高まります。成分の追加は、バイオ後続品のある先行バイオ医薬品として新たに収載された医薬品等を、その使用状況に応じて対象に加えるという考え方によるものです。

変更点④|掲示要件に「導入に関する説明」が加わる

掲示要件は、1項目から2項目に増えます。現行の掲示事項は、入院及び外来においてバイオ後続品の使用に積極的に取り組んでいる旨です。改定後は、これに加えて、バイオ後続品の導入に関する説明を積極的に行っている旨を掲示します。

つまり、「使用している」ことだけでなく、「患者に説明している」ことまで掲示する形になります。院内および外来待合の掲示物は、改定に合わせて文面を差し替えてください。作業自体は短時間で終わりますが、施設基準の一部である以上、後回しにはできません。

経過措置は令和9年5月31日まで|適用は2つの質問で判定する

経過措置の適用可否は、次の2つの質問で判定できます。

質問1:令和8年3月31日時点で、バイオ後続品使用体制加算を届け出ていますか。 届け出ていない場合、経過措置は適用されません。新しい基準がそのまま適用されます。

質問2:従来から対象であった成分のうち、少なくとも1つで、直近1年間の規格単位数量の合計が50以上ありますか。 50未満であれば、届出済みであっても猶予はありません。ここでいう「従来から対象であった成分」とは、今回加わった8項目を除いた12成分を指します。変更点②で述べた基本の要件は20成分すべてを母集団としますが、経過措置の判定では新しい8項目を数に入れられません。

両方に該当する医療機関は、令和9年5月31日までの間に限り、今回加わった8項目について割合の基準を満たしているものとみなされます。この8項目には、80%区分に移るラニビズマブも含まれます。判定の分かれ目になるのは質問2です。従来成分の取扱量が乏しい医療機関は、経過措置を利用できません。

改定に向けた4つの準備ステップ

準備は、次の順序で進めると効率的です。判断に必要な情報から先に集まる並びにしています。

  1. 数量の集計:従来から対象の成分で、規格単位数量50以上のものが1つ以上あるかを確認します。経過措置の可否がここで決まります。
  2. 置換状況の確認:新たに対象となった7成分と、80%要件に引き上がるラニビズマブの置換率を可視化します。
  3. 掲示物の改訂:「導入に関する説明を積極的に行っている」旨の一文を追加し、差し替えます。
  4. レセプト運用の見直し:退院日算定への変更を踏まえ、算定漏れ防止のチェックリストを更新します。

1と2は薬剤部、4は医事課が主体となる作業です。経過措置の適用判断には両者のデータが必要なため、早い段階で情報共有の場を設けてください。

よくある質問(FAQ)

経過措置が適用されれば、令和9年5月31日まで対応は不要ですか?
いいえ、不要にはなりません。経過措置がみなし適用されるのは、今回加わった8項目の割合基準のみです。算定日が退院日に変わる点と、掲示要件が追加される点は、経過措置の対象外であり改定と同時に適用されます。また、経過措置を利用するには、従来から対象であった成分のうち少なくとも1つで、直近1年間の規格単位数量の合計が50以上である必要があります。
ラニビズマブは新しく対象に追加された成分ですか?
いいえ、新規追加ではなく区分の移動です。ラニビズマブは現行では50%以上の区分に置かれていますが、改定後は80%以上の区分に移ります。求められる置換率が50%から80%に引き上がるため、すでに一定量を扱っている医療機関ほど影響が大きくなります。今回加わる8項目のうち、新たに判定の対象となるのは7成分です。ラニビズマブは現行でも対象であったため、この7成分には数えません。
使用回数100回超の要件が廃止されると、実績のハードルは下がりますか?
いいえ、実質的には厳しくなります。改定後は、少なくとも1つの成分で規格単位数量の合計が50以上であることが求められます。現行では、すべての成分が50未満の場合に置換率の判定対象が残らず、使用回数だけで要件を満たせる余地がありました。改定後はこの状態がなくなり、必ず1成分以上で置換率が判定されます。

まとめ

令和8年度診療報酬改定によるバイオ後続品使用体制加算の見直しは、4つの柱で構成されます。算定日は入院初日から退院日に変わります。実績要件は、使用回数100回超の基準が廃止され、少なくとも1成分で規格単位数量50以上という基準に置き換わります。対象成分は8項目が加わり、うち7成分が新たに判定の対象となります。掲示要件には、導入に関する説明の実施が追加されます。

要件の見直しは、実績を数字で管理することを医療機関に求める内容です。届出済みの医療機関は、まず従来成分の規格単位数量を集計し、経過措置を利用できるかどうかを確認してください。ここが確認できれば、その後の準備の優先順位が定まります。