病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】人工腎臓の評価見直し|20点引き下げと新加算、減収を防ぐ対応とは

令和8年度診療報酬改定で、血液透析に用いる人工腎臓(J038)の評価が見直されます。ポイントは「基本点数の一律20点引き下げ」と「腎代替療法診療体制充実加算(20点)の新設」の2つです。対応すれば従来どおりの収益水準を維持できますが、対応しなければ実質的な減収となります。この記事では、医療機関の経営・実務の視点から、いくら減収するのか、加算を取るには何が必要か、いつまでに準備すべきかを整理します。

結論:対応すれば実質ゼロ、未対応なら減収

今回の改定の本質は、引き下げと新加算の「相殺」です。基本点数を一律20点引き下げる一方で、同額20点の腎代替療法診療体制充実加算を新設するため、両者が打ち消し合う構造になっています。

  • 基本点数:一律 −20点
  • 腎代替療法診療体制充実加算:+20点

基準を満たして地方厚生局長等へ届け出た医療機関は、−20点と+20点が相殺され、実質はプラスマイナスゼロ。従来の収益水準を維持できます。一方、基準を満たさない医療機関は引き下げだけが残り、1回あたり20点(200円)の減収となります。つまりこの加算は、選んでもよいオプションではなく、現状の収益を守るための実質的な必須要件だといえます。

対応しないといくら減収する?金額シミュレーション

加算を取得しなかった場合、減収額はどのくらいになるのでしょうか。診療報酬では1点が10円に相当するため、20点の引き下げは1回あたり200円の減収です。血液透析は通常週3回、年間で約150回行われるので、患者1人あたりでは年間およそ3万円の減収になります。

施設規模に当てはめると、減収のインパクトが見えてきます。

  • 患者100人規模:年間 約300万円
  • 患者300人規模:年間 約900万円

大規模な施設やグループでは、数千万円規模に達することもあります。これはあくまで「加算を取得しなかった場合」の試算ですが、放置できない金額であることがわかります。逆にいえば、後述の要件を満たして届け出れば、この減収は丸ごと回避できます。

なぜ見直された?透析医療の3つの課題

今回の見直しの背景には、透析医療を取り巻く現状と体制面の課題があります。全国の慢性透析患者は約34万人にのぼり、平均年齢は70歳を超えて高齢化が進んでいます。患者の高齢化が進むなか、災害時にも透析を止めない体制や、患者一人ひとりに適した治療法を選べる支援の重要性が増しています。

しかし、医療機関ごとの取組にはばらつきが見られます。血液透析・腹膜透析・腎移植という3つの選択肢をすべての患者に提示している医療機関は51.2%にとどまります。災害対策では、対応マニュアルを策定済みの医療機関が80.5%にのぼる一方、日本透析医会の災害時情報ネットワーク等への登録や自治体等との連携体制まで確保している医療機関は76.1%です。シャントトラブルへの対応でも、事前連携のないまま他院へ紹介する施設が5.9%残っています。こうしたばらつきを是正し、体制の底上げを図ることが、今回の評価見直しのねらいです。

加算を取る3つの必須要件

腎代替療法診療体制充実加算を算定するには、3つの必須要件をすべて満たす必要があります。あわせて、緩和ケアの提供体制を整えることが努力義務として求められます。

要件1:災害対策

1つ目は災害対策です。ハザードマップで自院の災害発生時のリスクを把握したうえで災害対応マニュアルを作成し、さらに日本透析医会等による災害時の情報伝達訓練に年1回以上参加することが求められます。マニュアルを作って終わりにせず、実際に動ける訓練への参加まで求められる点がポイントです。

要件2:腎代替療法の情報提供

2つ目は腎代替療法の情報提供です。まず前提として、関係学会の資料に基づき、患者ごとの適応に応じて腎代替療法を説明していること。この説明は導入期に限らず、病状や患者の求めに応じて繰り返し行う必要があります。そのうえで、次の2つの実績のいずれかを満たします。

  • 腹膜透析の実績:在宅自己腹膜灌流指導管理料(C102)を過去1年間で24回以上算定している
  • 腎移植の実績:前年に腎移植の相談に応じ、移植手続を行った患者が2人以上いる

説明しているだけでは足りず、数字を伴う実績が求められる点が、この要件のハードルです。

要件3:シャントトラブルの医療機関間連携

3つ目はシャントトラブルの医療機関間連携です。透析シャントの閉塞等で経皮的シャント拡張術などの治療を要する場合に、自院で対応できない際は、あらかじめ連携した他の医療機関へ必要に応じて診療情報を提供する体制を整えることが求められます。先述した「事前連携のない紹介5.9%」を解消する狙いです。

いつまでに何をする?経過措置と対応スケジュール

要件の一部には、届出のための経過措置(猶予期間)が設けられています。すぐに満たせる要件と、時間をかけて整える要件を分けて準備するのが効率的です。

  • すぐに対応:基本点数の引き下げ、ハザードマップ・マニュアルの策定、シャントトラブルの事前連携(令和8年度から適用)
  • 令和9年5月31日まで猶予:災害時の情報伝達訓練への参加(この日までは未参加でも基準該当とみなす)
  • 令和10年5月31日まで猶予:腹膜透析の実績(24回)または腎移植の実績(2人)(この日までは実績ゼロでも基準該当とみなす)

実績づくりには時間がかかることを国も織り込んでいます。最適なのは、経過措置を活用してまず速やかに届出を行い、収益水準を確保したうえで、約2年間で並行して訓練参加と実績を積み上げていく進め方です。

まとめ

令和8年度改定における人工腎臓の評価見直しは、基本点数の20点引き下げと、同額20点の腎代替療法診療体制充実加算の新設をセットにした「相殺」の仕組みです。基準を満たせば実質プラスマイナスゼロ、満たさなければ実質的な減収となるため、加算の取得は収益を守るための必須対応といえます。まずは自院のマニュアルと連携体制を点検し、経過措置の猶予期間を逆算しながら、届出に向けた準備を計画的に進めましょう。


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