令和8年度診療報酬改定で新設される「3次元プリント有床義歯」は、算定にあたって従来の有床義歯とは異なる3つの判断が必要になります。第1に、算定単位が1顎であること。第2に、印象採得などの基本的な技術料が包括されること。第3に、施設基準の届出が前提になることです。いずれも制度の理解だけでは足りず、レセコンの設定や技工所との調整といった院内の準備に直結します。本稿では、この新設項目を「自院で算定できるか」「何を準備すべきか」という実務の順に整理します。
制度の全体像や改定の背景については、メールマガジンの解説記事で扱っています。本稿はその続編として、算定判断と院内準備に絞って掘り下げます。音声で聴きたい方は、以下のポッドキャストもご利用ください。
- 3次元プリント有床義歯とは|1顎4,000点の新設項目
- 算定単位は「1口腔」ではなく「1顎」
- 算定要件は3つ|機器・製作方法・包括範囲
- 施設基準と届出|歯科技工所との連携でも満たせる
- 算定に向けた3つの準備
- よくある質問(FAQ)
- まとめ|まずは連携先の機器要件から確認を
3次元プリント有床義歯とは|1顎4,000点の新設項目
3次元プリント有床義歯とは、指定されたデジタル機器を用いて、作業模型で間接法により造形製作された有床義歯をいいます。令和8年度診療報酬改定では、この義歯に対して1顎につき4,000点の評価が新設されます。
新設の背景には、保険適用と評価のずれがあります。3次元プリント有床義歯は新規医療機器等として保険適用されたものの、専用の評価がないまま、通常の有床義歯の点数を準用する取扱いが続いていました。令和8年度診療報酬改定では、歯科治療のデジタル化を推進する観点から、この準用の状態を解消する方針が示されています。
デジタル化が評価される理由は、製作工程の効率化にあります。中医協に提出された資料では、義歯製作をデジタル化することで、一般的な義歯製作に比べて約5時間の製作時間が短縮されたとの報告が紹介されました。製作時間の短縮は、歯科技工に係る業務負担の軽減にもつながります。
なお、中医協資料では3次元プリント義歯が総義歯として説明されている一方、算定要件の記載は「有床義歯」です。対象となる義歯の範囲は、改定に伴う告示・通知で改めて確認してください。
算定単位は「1口腔」ではなく「1顎」
算定単位でまず確認すべきは、1口腔ではなく1顎で算定する点です。算定要件には「1顎単位で算定する」と明記されています。
1顎単位という設定は、上下顎に製作した場合の算定に影響します。上顎と下顎の両方に3次元プリント有床義歯を製作した場合は、それぞれ1顎、合計2顎として算定します。
一方、歯科の点数表には1口腔単位の項目も少なくありません。たとえば歯科口腔リハビリテーション料1(有床義歯の場合)は、1口腔につき算定する項目です。なお新製有床義歯管理料についても、同じ令和8年度改定で装置ごとに管理できるよう算定単位を見直す方針が示されています。単位の異なる項目が並ぶため、レセコンの入力設定と算定ルールをスタッフ間で共有しておくと、返戻の防止につながります。
算定要件は3つ|機器・製作方法・包括範囲
算定要件は、使用する機器、製作方法、包括される技術料の3点に整理できます。院内の準備がどこまで必要かは、この3点の確認で見通せます。
第1の要件は、指定された2つの機器を用いることです。1つは歯科技工室設置型のコンピュータ支援設計・製造ユニット、もう1つは歯科技工用重合装置です。後者は、液槽光重合方式の3次元プリント有床義歯製作装置を指します。算定できるのは、これらの機器を用いて有床義歯を設計・製作し、装着した場合に限られます。
第2の要件は、作業模型を用いた間接法で製作することです。算定要件では、3次元プリント有床義歯を「作業模型で間接法により造形製作された有床義歯」と定義しています。デジタルワークフローを組む際は、作業模型を用いる工程が要件である点を、技工所側とも共有しておきましょう。
第3の要件は、基本的な技術料が包括されることです。製作時に実施した印象採得、咬合採得、仮床試適、装着等の技術料は、所定点数である4,000点に含まれ、別に算定できません。これらを個別に算定していた従来の有床義歯とは取扱いが異なるため、レセコンの設定変更が必要になります。
ただし、包括の対象は製作時の技術料に限られます。装着後に義歯修理や再製作等を実施する場合は、M018に掲げる有床義歯の例により算定します。新設の4,000点が適用されるのは新たに製作して装着する場面のみ、と整理すると迷いません。
施設基準と届出|歯科技工所との連携でも満たせる
施設基準は、体制の整備と機器・設備の保有という2つの要件で構成されます。要件を満たしたうえで、地方厚生局長等への届出を済ませなければ算定できません。
第1の要件は、当該療養を行うにつき十分な体制が整備されていることです。第2の要件は、十分な機器及び設備を有していること、または十分な機器及び設備を有している歯科技工所との連携が確保されていることです。
第2の要件に連携という選択肢が置かれた点は、実務上の意味が大きいといえます。自院に3Dプリンターを導入しなくても、要件を満たす歯科技工所と連携していれば算定の道が開かれるためです。機器を自院に導入するか、連携で対応するかは、想定される症例数と投資額を踏まえて判断することになります。
いずれの体制を選ぶ場合でも、届出は省略できません。まずは連携先の機器が要件に該当するかを確認し、そのうえで届出の準備を進めてください。
算定に向けた3つの準備
算定を始めるまでに必要な準備は、機器と製法、算定ロジック、行政手続きの3つに分けられます。
機器と製法については、指定機器を自院または連携先で確保し、作業模型を用いた間接法での製作プロセスを確立します。算定ロジックについては、レセプト入力を1顎単位に設定し、印象採得や咬合採得などの個別算定を停止します。行政手続きについては、管轄の地方厚生局長等へ施設基準の届出を完了させます。
3つの準備のうち、最も時間を要するのは連携先との調整です。技工所側の機器が要件に該当するかの確認から始めると、届出までの見通しが立てやすくなります。
よくある質問(FAQ)
- 上下顎の両方に3次元プリント有床義歯を製作した場合、点数はどう算定しますか。
- 上顎と下顎でそれぞれ1顎、合計2顎として算定します。算定要件に「1顎単位で算定する」と明記されているためです。歯科には1口腔単位で算定する項目も多いため、レセプト作成時に単位を取り違えないようご注意ください。
- 自院に3Dプリンターがなくても算定できますか。
- 算定できる場合があります。施設基準では、十分な機器及び設備を有していること、または十分な機器及び設備を有している歯科技工所との連携が確保されていることが要件とされているためです。ただし、いずれの場合も地方厚生局長等への届出が必要です。
- 印象採得や咬合採得は別に算定できますか。
- 別に算定できません。製作時に実施した印象採得、咬合採得、仮床試適、装着等の基本的な技術料は、所定点数である4,000点に含まれます。ただし、装着後に義歯修理や再製作等を実施する場合は、M018に掲げる有床義歯の例により算定します。
まとめ|まずは連携先の機器要件から確認を
3次元プリント有床義歯を算定できるかどうかは、機器・製作方法・施設基準の3点で決まります。点数は1顎につき4,000点で、上下顎に製作した場合はそれぞれ算定します。製作時の印象採得や咬合採得は包括されるため、レセコンの設定変更が欠かせません。施設基準は歯科技工所との連携でも満たせますが、届出は必須です。自院に機器がない医療機関こそ、まずは連携先の機器が要件に該当するかの確認から始めてみてください。