病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

特別地域訪問看護加算が変わる|令和8年度改定で新設「区分ロ」の算定要件を実務目線で解説

令和8年度診療報酬改定で、特別地域訪問看護加算に新しい算定区分「区分ロ」が新設されます。これにより、片道移動が1時間に満たない訪問でも、移動と訪問の合計時間が長ければ加算対象となる道が開かれました。

本稿では、ポッドキャスト番組(LISTENのエピソードはこちら)の収録を通じて気づいた、現場目線での実務ポイントを中心に解説します。

「片道50分・ケア2時間」が評価されない現行制度の盲点

現行の特別地域訪問看護加算には、現場の実態と乖離した構造的な盲点があります。算定要件が「片道移動時間1時間以上」のみで、移動と訪問の合計時間は評価軸に含まれていないという点です。

この盲点が顕在化するのが、過疎地域での典型的な訪問パターンです。日本訪問看護財団の調査では、片道50分の移動と2時間のケアを合わせ、利用者1人に約4時間を要する事例が報告されています。通過ルート上に他の利用者宅がないため、午前中の訪問が1件のみで終わる事業所も少なくありません。

それにもかかわらず、こうした訪問は加算の対象外です。片道が1時間に達しないという、ただ1点の理由によるものです。結果として、特別地域に所在する訪問看護ステーションは全体の1.5%にとどまり、算定者数も令和3年の426人から令和7年の600人へと微増したものの、利用者全体に占める算定割合は横ばいで推移しています。

ここで、本稿で扱う「特別地域」の範囲も整理しておきます。厚生労働大臣が定める6カテゴリ、すなわち過疎地域、離島振興対策実施地域、奄美群島、振興山村、小笠原諸島、および沖縄の離島が該当します。改定資料で頻出する「過疎地域等」も、この6カテゴリ全体を指す表現です。

新設「区分ロ」の算定要件|移動30分以上+合計2時間30分以上が鍵

改定後の特別地域訪問看護加算は、区分イと区分ロの2区分構成に再編されます。加算率はいずれも所定額の100分の50で、現行と変わりません。

区分イは、現行要件を整理・統合した区分です。移動時間1時間以上を共通条件とし、特別地域内のステーションが訪問する場合、または特別地域外のステーションが特別地域内の利用者を訪問する場合のいずれかに該当することを求めます。実質的には現行のルールが引き継がれる形です。

そして今回の目玉が、新設される区分ロです。区分ロでは、特別地域内のステーションから特別地域内の利用者を訪問する場合に限り、次の2つの要件を両方満たすことで算定可能となります。

  • 要件1:ステーション所在地から利用者宅までの移動にかかる時間(片道)が30分以上であること
  • 要件2:往復移動および訪問看護実施に要した時間の合計が2時間30分以上であること

ここで実務上のポイントを1つ補足します。要件1と要件2はOR条件ではなくAND条件である点に注意が必要です。算定可否の判断で迷いやすい部分のため、3つのケースで確認しておきましょう。

ケース 内訳 合計 判定
A 片道20分+訪問110分+復路20分 150分 ❌ 片道移動が30分未満
B 片道35分+訪問60分+復路35分 130分 ❌ 合計が150分未満
C 片道35分+訪問90分+復路35分 160分 ✅ 両条件を充足

ケースAは合計時間こそ150分を満たすものの、片道移動が30分未満のため算定不可です。ケースBは片道移動35分で要件1を満たしますが、合計が2時間30分(150分)に届かず算定不可となります。算定可能なのはケースCのみで、片道移動・合計時間の両方の条件を満たしています。

なお、改定案の原文では要件1は「最も合理的な経路及び方法による当該訪問看護ステーションの所在地から利用者の家庭までの移動にかかる時間が30分以上」と表記されています。本稿ではわかりやすさを優先して「片道」と表現していますが、実務上は改定案原文の定義に従って判断してください。

関連5項目への横断適用|精神科訪問看護も対象に

今回の要件改定は、訪問看護基本療養費にとどまらず、関連4項目にも同じルールで適用されます。具体的には次の5項目が対象です。

  • 訪問看護基本療養費
  • 在宅患者訪問看護・指導料
  • 同一建物居住者訪問看護・指導料
  • 精神科訪問看護・指導料
  • 精神科訪問看護基本療養費

横断適用が採用された背景には、提供主体や対象患者によって算定可否がばらつく事態を防ぐ意図があります。同じ長時間訪問なのに、対象が精神疾患患者か身体疾患患者かで算定可否が変わるのは不合理です。今回の改定は、こうした制度間のすき間を作らない設計となっている点が、実務上は地味ながら重要な配慮といえます。

実務担当者が今から準備しておくべき3つのポイント

新要件の施行を見据え、実務担当者として今から確認しておきたい論点を3つ整理します。

第1に、自ステーションが「特別地域内」に該当するかの確認です。改定で新設される区分ロは、ステーションも利用者宅も特別地域内である場合のみが対象となります。所在地が特別地域に該当するかは、6カテゴリの法令指定地域を厳密に確認する必要があります。

第2に、訪問時間の記録方法の見直しです。区分ロの算定では、片道移動時間と訪問実施時間を分けて記録し、往復移動を含む合計時間を算出する必要があります。現行のタイムスタンプ運用で対応可能か、訪問記録システムの設定変更が必要かを早めに点検しておくべきです。

第3に、算定判断のフロー整備です。1訪問ごとに「区分イで算定するか、区分ロで算定するか、いずれも該当しないか」の3択を判断するフローが必要になります。算定担当者向けのチェックリストを準備しておくと、施行後の運用がスムーズです。

まとめ|「合計時間」評価で過疎地域医療を下支え

令和8年度診療報酬改定における特別地域訪問看護加算の見直しは、評価軸を「片道移動時間」から「合計時間」へと拡張するものです。区分ロの新設により、これまで算定漏れとなっていた「片道1時間未満・総拘束時間が長い」訪問が、新たに加算対象として救済されます。

この改定の本質は、単なる要件緩和ではなく、見えない時間負担を正当に評価する仕組みへの転換です。過疎地域等での療養継続を支える基盤として、訪問看護ステーションの経営面でも一定の追い風となる改定といえるでしょう。施行に向けて、自施設の該当状況の確認と運用準備を着実に進めていただければと思います。