病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】療養・就労両立支援指導料はなぜ変わるのか|3つの課題と4つの見直し

令和8年度(2026年度)診療報酬改定では、療養・就労両立支援指導料の評価や要件が大幅に見直されます。今回の見直しは、現行制度が抱えていた3つの構造的な課題を解決し、医療機関が患者の就労継続を支える体制を実態に即して評価するものです。

本記事では、令和8年度診療報酬改定における療養・就労両立支援指導料の見直しを「なぜ変わるのか」という背景から整理し、医療機関と企業に求められる対応まで解説します。改定の具体的な数値や条文の変更点については別途公開しているメルマガをご参照ください。なお、音声での解説はLISTENのエピソードからお聴きいただけます。

改定の背景:現行制度が抱えていた3つの課題

現行の療養・就労両立支援指導料には、運用面で3つの構造的な課題が存在していました。これらの課題が、制度の利用拡大を妨げる要因となっていました。

課題1:手続きの負担が大きい

現行制度では、患者と事業者が共同で作成した文書が算定の前提条件となっています。この共同作成という形式的要件は、治療に取り組む患者と企業の双方にとってハードルが高い状況を生んでいました。共同作成の負担が、制度活用の入口で患者を遠ざける結果となっていたのです。

課題2:対象疾患が7区分に限定されている

対象疾患は、悪性新生物や糖尿病など7区分に限定されてきました。この制限により、7区分以外の慢性疾患で就業継続の配慮が必要な患者は、制度の対象外となってきました。背景には、診療報酬制度の財政影響を慎重に測る目的がありましたが、運用データが蓄積されたことで制限撤廃へと至る環境が整いました。

課題3:医療機関の経済的インセンティブが不足している

医療機関側には、就労支援に時間を割く経済的インセンティブが不足していました。外来診療の限られた枠内で就労相談に対応する余力を確保しにくく、両立支援への取り組みが経営的に正当化されにくい実態があったのです。この課題が、医療機関による積極的な支援体制構築を阻む要因となっていました。

新要件の内容:3つの課題に対する4つの解決策

新要件は、3つの課題に対応する形で4つの観点から見直しが行われます。それぞれの見直しは、特定の課題を直接的に解決する構造となっています。

解決策1:勤務情報の提供方法を拡大(課題1への対応)

勤務情報の提供方法に「治療と仕事の両立支援カード」が新たに追加されました。患者自身が病状や就労上の希望を記載し、事業者がそれを確認するだけで医療機関への情報提供が可能となります。この見直しにより、共同作成文書に比べて手続きの負担が大幅に軽減されます。

解決策2:対象疾患の定めを廃止(課題2への対応)

対象疾患の定めが廃止され、算定対象が大幅に拡大されました。改定後は、疾患の増悪防止等のための反復継続した治療が必要な入院中の患者以外の患者であって、就業の継続に配慮が必要なものが広く算定対象となります。ただし本指導料は外来患者向けの評価であるため、入院中の患者は引き続き対象外である点には注意が必要です。

解決策3:算定可能期間を延長(課題2・3への対応)

2回目以降の算定可能期間が3月から6月へと延長されました。両立支援指導が3月以上にわたって継続される医療現場の実態を踏まえた見直しです。この延長により、長期にわたる継続的な支援が公式に評価対象となります。

解決策4:評価を引き上げ(課題3への対応)

点数は4つの項目で引き上げられます。特に相談支援加算は50点から400点へと8倍に増点され、医療機関への強力な経済的インセンティブとなります。詳細な点数表はメルマガ記事で公開していますので、そちらをご参照ください。

医療機関と企業に求められる実務対応

見直し後の制度を活かすには、医療機関と企業の双方で具体的な準備が必要となります。両者が連携して取り組むことで、患者の治療と仕事の両立が実現します。

医療機関に求められる対応

医療機関には、両立支援体制の構築と相談支援人材の確保が求められます。相談支援加算の大幅な引き上げを受けて、看護師・社会福祉士・精神保健福祉士・公認心理師による相談支援体制の整備が重要となります。また、「治療と仕事の両立支援カード」を運用するための受付フローや院内連携体制の見直しも必要です。

企業に求められる対応

企業には、人事制度と社内文化のアップデートが求められます。両立支援カードの記入を社内で支援する仕組みや、医療機関から産業医等に提供された情報を社内の人事・労務管理に活用する連携体制の整備が必要となります。さらに、治療を受けながら就労する従業員を前提とした柔軟な勤務制度の設計も、両立支援の実効性を高める鍵となります。

まとめ

令和8年度改定における療養・就労両立支援指導料の見直しは、現行制度が抱えていた3つの課題(手続きの負担・対象の限定・評価の不足)に対する直接的な解決策として設計されています。手続きの簡素化、対象の拡大、期間の延長、評価の引き上げという4つの見直しが、両立支援の社会実装を後押しします。

医療機関のサポート体制が進化する一方で、それを受け入れる企業側にも変革が求められます。自院の支援体制の構築とともに、地域企業との連携のあり方を再考する契機として、この改定を活用していきたいところです。