令和8年度診療報酬改定において、特定疾患療養管理料の対象疾患に新たな除外条件が設けられます。胃潰瘍および十二指腸潰瘍について、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の投与を受けている患者が算定対象外となります。
この除外条件の背景には、NDBデータで明らかになった禁忌薬併用の実態があります。消化性潰瘍への投与が禁忌であるNSAIDsを処方しながら、潰瘍の療養管理料を算定するという矛盾を解消し、かかりつけ医による計画的な療養管理の適正化を図ることが今回の見直しの目的です。
本記事では、改定の背景、別表第一の具体的な変更内容、算定可否の判断フロー、システム・院内プロセスの対応事項について解説します。なお、本トピックについてはポッドキャスト番組でも詳しく解説しています。音声での解説はこちらのLISTENエピソードからお聴きいただけます。
- 改定の背景:NDBデータが明らかにした制度趣旨との矛盾
- 別表第一の変更点:胃潰瘍・十二指腸潰瘍にNSAIDs除外条件を追加
- 既存患者の算定可否を判断するフロー
- システム改修と院内プロセスの対応事項
- 令和6年度から続く対象疾患の厳格化トレンド
- まとめ:NSAIDs除外ルールへの対応を計画的に
改定の背景:NDBデータが明らかにした制度趣旨との矛盾
今回の見直しの背景には、特定疾患療養管理料の制度趣旨と、実際の処方状況との乖離があります。
特定疾患療養管理料は、プライマリケア機能を担う地域のかかりつけ医師が、治療計画に基づき、服薬・運動・栄養等の療養上の管理を計画的に行うことを評価する管理料です。これまで、胃潰瘍および十二指腸潰瘍も長期的な療養管理が必要な疾患として対象に含まれてきました。
しかし、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のデータ(令和6年7月診療分)を分析した結果、制度趣旨との矛盾が浮かび上がりました。特定疾患療養管理料の全算定患者約880万人のうち、主傷病名が「胃潰瘍」に関連する患者は約2.1%(約18.5万人)を占めます。この約18.5万人のうち約6.5%が、消化性潰瘍のある患者への投与が禁忌とされているNSAIDsの内服薬を調剤されていました。
禁忌薬を投与しながら潰瘍の療養管理を行うという状況は、「計画的な療養管理」の趣旨にそぐわないと判断されました。この実態を踏まえ、対象疾患の要件を見直すことが決定されています。
別表第一の変更点:胃潰瘍・十二指腸潰瘍にNSAIDs除外条件を追加
今回の改定では、特定疾患療養管理料の対象疾患リスト(別表第一)における記載方法が変更されます。
現行の別表第一では、「胃潰瘍」と「十二指腸潰瘍」がそれぞれ独立した疾患名として記載されています。算定にあたって、NSAIDsの処方状況による制限はありません。
改定後は、この2つが統合されたうえで、括弧書きによる除外条件が付されます。具体的な記載は「胃潰瘍及び十二指腸潰瘍(消化性潰瘍のある患者への投与が禁忌である非ステロイド性抗炎症薬の投与を受けている場合を除く。)」となります。これにより、NSAIDsの投与を受けている患者については、胃潰瘍または十二指腸潰瘍を主病として特定疾患療養管理料を算定できなくなります。
なお、この変更は胃潰瘍・十二指腸潰瘍に限定されたものです。悪性新生物、虚血性心疾患、喘息、胃炎及び十二指腸炎など、その他の対象疾患には変更はありません。類似疾患である「胃炎」にはNSAIDs除外ルールが適用されない点にご注意ください。
既存患者の算定可否を判断するフロー
今回の改定を受けて、既存患者の算定可否をどう判断するか、確認の流れを整理します。
最初に確認するのは、患者の主病名です。主病名に「胃潰瘍」または「十二指腸潰瘍」が含まれていなければ、今回の改定による影響はありません。他疾患の要件に従って算定を継続してください。
主病名に胃潰瘍・十二指腸潰瘍が含まれている場合は、NSAIDsの内服状況を確認します。確認の対象は自院処方だけではありません。整形外科など他科・他院からの処方も含め、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、イブプロフェンなどのNSAIDs内服薬の有無を把握する必要があります。お薬手帳の確認や問診時の内服薬確認が重要です。
NSAIDsを内服していなければ、算定は継続可能です。NSAIDsを内服している場合は、他の対象疾患(喘息、虚血性心疾患など)が主病として該当するかどうかを確認してください。該当する疾患があれば、主病名を見直したうえで算定を継続できる可能性があります。該当する疾患がなければ、特定疾患療養管理料の算定は不可となります。
システム改修と院内プロセスの対応事項
算定可否の判断に加えて、システム面と院内プロセスの両面での対応も必要です。
システム面では、電子カルテとレセコンのマスタ設定を改定内容に対応させる更新が求められます。システムベンダーからのアップデート情報を確認し、施行日までに完了させてください。可能であれば、「病名が潰瘍」かつ「処方薬がNSAIDs」の組み合わせを検知する自動算定ブロック・警告ロジックの導入も検討する価値があります。
院内プロセス面では、他科処方の確実な把握が鍵になります。該当するNSAIDsの薬剤リストを院内で共有し、お薬手帳の確認徹底や問診時の内服薬確認フローの見直しを行ってください。特に整形外科など他院からの痛み止め処方は見落としやすいため、注意が必要です。
令和6年度から続く対象疾患の厳格化トレンド
今回の改定は、特定疾患療養管理料の対象疾患に関する見直しの大きな流れの中に位置づけられます。
令和6年度改定では、対象疾患の大幅な整理が行われました。生活習慣病である糖尿病と高血圧性疾患が対象から除外されました。脂質異常症については、家族性高コレステロール血症等の遺伝性疾患に限定されました。一方で、アナフィラキシーとギラン・バレー症候群が新たに追加されています。この改定の趣旨は、生活習慣病については生活習慣病管理料で評価し、特定疾患療養管理料の対象をより限定するという役割分担の明確化にありました。
令和8年度の今回の改定では、NDBデータに基づく処方実態の分析という新たな視点が加わりました。対象疾患そのものの除外ではなく、「対象疾患であっても、処方内容が制度趣旨と矛盾する場合は算定対象外とする」という条件付きの除外です。単なる病名の有無だけでなく、実際の診療内容との整合性が問われるようになった点が、令和6年度改定からの大きな変化です。
この流れを踏まえると、今後の改定でも、NDBデータを活用した「病名と診療内容の整合性チェック」が他の対象疾患に拡大する可能性があります。医療機関においては、算定要件の病名を機械的に付けるのではなく、処方内容や指導内容が制度趣旨と整合しているかを日常的に確認する体制づくりが求められます。
まとめ:NSAIDs除外ルールへの対応を計画的に
令和8年度診療報酬改定では、特定疾患療養管理料の対象疾患のうち、胃潰瘍および十二指腸潰瘍について、NSAIDs投与中の患者を除外する条件が新設されます。
この見直しは、令和6年度の糖尿病・高血圧除外に続く対象疾患の厳格化トレンドの一環であり、NDBデータに基づいて処方実態と制度趣旨の矛盾を是正するものです。医療機関においては、既存患者のNSAIDs処方状況の確認、算定可否の再点検、システム設定の更新、院内の処方把握フローの見直しを、施行日までに計画的に進めてください。