病院事務長 岡大徳の実務・制度ナビ|診療報酬改定・施設基準・医療DX

急性期から回復期まで幅広い医療機関で実務を経験し、現在は病院事務長として現場を支える岡大徳が、複雑な制度や専門用語を実務家の視点でわかりやすく解説します。より深い時事考察や最新ニュースはSubstackにて配信中。

【令和8年度診療報酬改定】検体検査管理加算の見直し|パニック値対応の新要件をわかりやすく解説

令和8年度診療報酬改定では、医療安全対策の推進という観点から、検体検査管理加算の施設基準が見直されます。今回の見直しの柱は、放置すれば患者の生命を脅かす極端な異常値、いわゆる「パニック値」への対応体制を、初めて施設基準の枠組みに位置づけた点です。本記事では、改定の背景から具体的な新要件、そして実務担当者がいま確認しておきたいポイントまでを、現場目線で整理します。

そもそも「検体検査管理加算」とは?

検体検査管理加算とは、院内で実施する検体検査の品質を組織的に管理する体制を評価する加算です。血液検査や生化学検査などの精度を、個人の経験ではなく組織の仕組みとして担保しているかどうかを評価します。

この加算は、管理体制の水準に応じて(Ⅰ)から(Ⅳ)まで段階的に区分されています。今回の見直しの対象となるのは、このうち、より高い管理水準が求められる(Ⅱ)、(Ⅲ)及び(Ⅳ)の3区分です。

改定の背景|「個人任せ」から「組織的な管理」へ

今回の見直しの背景には、医療安全対策を全国規模で標準化し、医療の質を底上げする狙いがあります。

これまで、検査結果が生命に関わる異常値を示した際の対応は、各医療機関の自主的な運用に委ねられていました。施設基準には明示されておらず、対応の手厚さは医療機関ごとにばらつきがあったのが実情です。令和8年度改定では「患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価」が重点項目に掲げられており、本改定項目もその一環として、より強固な安全管理体制の構築を目指すものです。

なお、改定の全体像については、厚生労働省の令和8年度診療報酬改定特設ページでも確認できます。

検体検査管理加算(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)に追加された新要件

今回の見直しでは、検体検査管理加算(Ⅱ)、(Ⅲ)及び(Ⅳ)に対して、パニック値への対応体制を整えることが「望ましい」とする要件が追加されました。ここでいうパニック値とは、生命が危ぶまれるような状態を示唆する検査の異常値を指します。新要件のポイントは、次の4点です。

① 閾値の設定|まずはグルコース・カリウム・血小板から

第1のポイントは、パニック値の閾値を設定することです。閾値とは、検査値が異常値かどうかを判定する境界の数値を指します。

すべての検査項目が対象ではありません。少なくともグルコース、カリウム及び血小板の3項目について、優先して閾値を設定します。この3項目が選ばれたのは、いずれも異常値が生命に直結するためです。グルコースの極端な異常は意識障害を招きます。カリウムの異常は致死性の不整脈を引き起こします。血小板の著しい減少は、止まらない大出血のリスクに直結します。

② 速やかな連絡体制と診療録への記載

第2のポイントは、パニック値が出た際の連絡体制を構築することです。パニック値を検出した際は、通常業務に優先して速やかに担当医師へ伝える必要があります。この伝達は、看護師等を経由しても差し支えありません。

連絡だけで終わらない点も重要です。連絡を受けた医師は、パニック値に対して行った対応を、遅滞なく診療録(カルテ)に記載するよう努めることとされています。検出から記録までを一連の流れとして整えることが求められます。

③ 報告書でのパニック値の明示

第3のポイントは、検査結果報告書においてパニック値であることを明示することです。報告書の中で異常値が他の数値に埋もれると、対応が遅れるおそれがあります。

そこで、結果がパニック値であると一目で判別できる表示を行うよう努めることとされました。たとえば、該当する数値を色やマークで強調し、ひと目で気づける形にする対応が考えられます。

④ 加算(Ⅳ)への新設と(Ⅱ)(Ⅲ)への連動

第4のポイントは、これらの要件が3区分すべてに連動して反映される仕組みです。新要件は、まず加算(Ⅳ)の施設基準に項目(7)として新設されます。そのうえで、上位区分の(Ⅱ)と(Ⅲ)が、この(Ⅳ)の基準を引用する形で取り込みます。

引用範囲は次のように拡大します。加算(Ⅱ)は、現行の(3)から(6)までから、(3)から(7)までへ。加算(Ⅲ)は、現行の(2)から(6)までから、(2)から(7)までへと広がります。この引用範囲の拡大により、新設された(7)が3区分すべてに適用されます。

なぜ「義務」ではなく「望ましい」なのか

今回の要件が必須ではなく「望ましい」、つまり努力義務にとどめられた点は、見落としやすいポイントです。背景には、実務上の配慮があると考えられます。

全国の医療機関に対して、一斉にシステム改修や業務フローの変更を義務付けることは、現実的に困難です。そのため、現場の混乱を避けつつ、まずは管理水準の高い上位の施設から段階的に導入を促す設計になっています。とはいえ、これは将来的な標準化を見据えた第一歩と捉えることもできます。早めに着手しておくことが、結果的に自院の安全体制の強化につながります。

実務担当者がいま確認しておきたい3つのポイント

改定対応を控えた検査・医事・医療安全の担当者は、次の3点を起点に自院の体制を点検すると進めやすくなります。

第1に、閾値の設定状況です。グルコース、カリウム、血小板の3項目について、パニック値の閾値が定められているかを確認します。

第2に、連絡フローと記録の運用です。パニック値を検出してから担当医師へ伝わるまでの経路が決まっているか、医師の対応がカルテに残る運用になっているかを確認します。

第3に、報告書の表示仕様です。検査システムの報告書で、パニック値を強調表示できるか、設定変更やベンダーへの相談が必要かを確認します。

まとめ

令和8年度改定における検体検査管理加算の見直しは、日常的なデータの中に潜むリスクをシステマチックに拾い上げ、医療安全の標準を一段階引き上げる重要なステップです。対象は加算(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)の3区分で、パニック値への対応体制を整えることが「望ましい」要件として追加されました。各医療機関の経営層や実務担当者は、自院の検査機器の仕様やスタッフの体制を改めて点検し、パニック値への対応フローを整備していくことが期待されます。

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