令和8年度診療報酬改定では、在宅患者訪問薬剤管理指導料の要件が大きく見直されます。本記事では、制度の解説にとどまらず、薬局現場の運用視点から、改定の背景と実務インパクトを掘り下げます。
特に注目すべきは、同行者の範囲に事務職員等の薬剤師以外の薬局職員も含まれる点です。深刻な人手不足が続く在宅薬剤管理の現場において、改定がどのような現実的配慮を反映しているのかを、具体的に読み解きます。
なぜ「現場目線」で読む必要があるのか
今回の改定を理解するうえで重要なのは、ルールの変更点を列挙するだけでは見えない「現場の声がどう反映されたか」という視点です。改定文書を読み解くと、制度設計者が現場の運用課題に踏み込んで対応した形跡が随所に見えます。
現行制度には、訪問現場で日常的に直面する3つの課題がありました。1つ目は、患者の状態が急変しても算定要件が硬直的で機動的に動けない問題です。2つ目は、夜間・休日対応を1薬剤師に依存する持続不可能な体制です。3つ目は、運動興奮等がみられる患者宅へ単独で訪問することの安全性リスクです。
これら3つの課題は、いずれも制度の建前と現場の実態との間に長らく存在してきた乖離です。令和8年度改定は、この乖離を埋める方向で要件を再設計したと評価できます。
「6日縛り」廃止が現場にもたらす変化
第1の転換点は、算定間隔「6日以上」要件の廃止です。これまでは、月2回以上算定する場合に6日以上の間隔を空ける必要があり、患者の状態に応じた機動的な訪問計画を立てることが困難でした。
改定後は週1回を限度として算定できるため、訪問日設定の自由度が大きく向上します。たとえば、ある週の後半に訪問し、翌週の前半に再度訪問するといった、週をまたぐ短間隔の運用が可能となります。この変化は、訪問計画を立てる薬剤師にとって、患者の生活リズムや医療ニーズに合わせた柔軟な調整の余地を生み出します。
なお、特例対象患者(末期の悪性腫瘍患者・注射による麻薬投与の対象患者・中心静脈栄養法の対象患者)については、引き続き週2回かつ月8回まで算定が可能です。あわせて、合算規定の文言が「又は」から「及び」に変更され、対面訪問とオンライン服薬指導を組み合わせた場合の取扱いも明確化されました。
「連絡が取れない不安」を解消する仕組み
第2の転換点は、夜間連絡先の文書交付要件化です。患者からみれば、「夜間に薬の不安があるとき、誰にどう連絡すればよいか」が事前に分かることになり、在宅療養の安心感が大きく高まります。
この要件のポイントは、在宅協力薬局を活用したチーム連携が前提とされている点です。自薬局単独で休日・夜間を含む開局時間外に常時対応するのは現実的に困難なため、在宅協力薬局との連携体制を組み、その情報を患者に文書で伝えることが正式に認められました。これは、薬剤師個人の負担集中を避けつつ、患者への安心提供を両立させる仕組みです。
さらに実務上重要なのは、「やむを得ず電話に出られなかった場合は、速やかに折り返しの連絡を行う」ことで要件を満たす点です。常時応答可能な体制を求めるのではなく、現実的で持続可能なセーフティーネットを制度化した形と言えます。
「ひとりで訪問する不安」を解消する300点
第3の転換点は、複数名薬剤管理指導訪問料300点の新設です。行動面で運動興奮等がみられる患者に対し、薬剤師が他の者と複数名で訪問した場合を評価します。対象は、通院が困難で医師が複数名訪問の必要性を認めた患者に限られます。
この点数で特筆すべきは、同行者の範囲に薬剤師以外の職員も含まれることです。具体的には、自薬局または在宅協力薬局に勤務する事務職員等が同行者として認められます。深刻な薬剤師不足の中で、限られた人材を最大限活用しつつ職員の物理的安全を確保するための、極めて現実的な配慮です。
ただし算定上の注意点として、同日に在宅患者緊急時等共同指導料・在宅移行初期管理料・訪問薬剤管理医師同時指導料の指導等を行った場合は、複数名薬剤管理指導訪問料は算定できません。実務では、訪問計画段階で他の点数との併算定可否を確認する運用が必要となります。
まとめ:制度が現場に歩み寄った改定
令和8年度改定における在宅薬剤管理の見直しは、現場の運用課題に対する制度側の回答です。算定間隔の柔軟化は機動的な訪問を、夜間連絡先の要件化は持続可能な時間外対応を、複数名訪問料の新設は職員の安全確保を、それぞれ可能にします。
3つの改定は独立しているように見えて、根底では「現場が無理なく続けられる在宅薬剤管理」という共通の方向性で繋がっています。薬局現場では、改定の趣旨を踏まえて、訪問計画・連絡体制・同行者運用の3点をセットで見直すことが求められます。
なお、本記事の内容は音声でも解説しています。通勤時間や移動中に聞き流したい方は、以下のポッドキャストエピソードをご活用ください。